デート#2
聖華暦836年 6月
「タカティン、カトレアから聞いたのですけれど、貴方、カトレアとデートしてないそうですわね?」
私がタカティンにそう聞くと、実に怪訝そうな顔をなさいました。
「ダリア、まさか私のような朴念仁に今更それを求めるのか?」
ある程度予想出来ていたタカティンの答えが実際に予想範囲内だった事に、私は頭を抱えました。
「この家にいる限りほとんど四六時中一緒にいるのも同然の状態で、デートが必要か?」
「貴方、ほんっとうに朴念仁ですわね。デートに行くというのはそんな事関係無い、むしろそういう状況だからこそ行くべきなのですわ。相手の好意を繋ぎ止める為の努力、いいえ、恋人なのならば果たすべき当然の義務と言っても過言ではありません。」
タカティンは力説する私の顔をやや呆れたように見つめて。
「ふむ……、そういうものか。」
妙に納得した表情を浮かべました。
「わかってもらえたようで、なによりですわ。」
少し安堵いたしました。
「では近いうちにカトレアをデートに誘うとしよう。プランを練っておかねばならんな。」
「それでしたら、オススメが幾つかありましてよ。」
そう言いつつも、実際はこの為にデートプランを練りに練っておりました。
お節介だとはわかっておりますが、これもひとえにカトレアの幸せのため、そして私の悦楽の為。
「……参考までに聞いておこう。」
あら、なにかを察したのか、随分と訝しげな表情を浮かべていますわね、うっかり顔に出てしまっていたのでしょうか。
「リンクにホルダごとプランを送っておきますわ。その通りになさるかどうかはお任せしますわよ。」
「やれやれ、用意がいい事だ。」
「おほほ、出来る女は用意周到なものですわ。」
さてさて、事前にカトレアにも策を授けてあるので準備完了ですわ。
あとは実際のデートがどうなるか、じっくりと観察させて頂くといたしましょう。
*
あれから3日後、タカティンがカトレアを観劇に連れ出しました。
彼らが出発してからデータリンクを切り、私とディジーの二人はこっそりと後を追います。
もちろん、デートがちゃんと成功するか見届ける為ですわ。
「しかし、人のデートを覗き見するのは良い趣味とは言えないんじゃないか?」
「良いんですのよ、カトレアが心配じゃありませんか。」
「とか言って状況を楽しんでるだけだろうに。」
ディジーの一言に顔を背けて二人をしっかりと観察します。
カトレアは今日の為に用意したドレスを纏い、タカティンもいつもとは違うフォーマルな背広を着込んでいます。
二人でなにやら話し込んでいますが、距離が離れている為、まったく聞こえません。
「あー、なに話してるのか聞けたらなぁ。」
「仕方ありませんわね、こちらを使いましょう。」
「それは……ってお前、モロに盗聴器かよ。」
こういう事もあろうかと、カトレアのドレスに盗聴器を仕込んでおきました。
あくまでも二人が上手くデートできるか確かめる為ですわ。
『……によ、どうせ似合わないと思っているのでしょう?』
カトレアがタカティンに文句を付けていますわね。
『何を言う、とても良く似合ってるぞ。カトレア、綺麗だ。』
タカティンからそう言われてカトレアが顔を両手で覆いました。
『……馬鹿。』
「あーはいはい、ご馳走様。」
すぐさま盗聴器を切りました。
まったく、いったいなにを聞かされているのやら……
ディジーと二人して真顔になっていると、不意にタカティンとカトレアの姿が消えました。
「アレ? 二人ともどこ行った?」
「そんな、もう見失うなんて。」
その後、二人の姿を探したのですけれど、結局見つける事は出来ませんでした。
後でタカティンから、尾行していた事に気付いていたので、私達を撒いた事を聞かされました。
もちろん、デートの内容は二人ともデータにロックをかけられて確認する事も出来ません。
ただ、カトレアがすこぶる上機嫌だった事だけ、まぁ良かった事としておきましょう。





