聖騎士とクルセイダーとウォルについて
聖華暦836年 5月 聖王国領 シャーリアン
「タカティン、聖騎士とクルセイダーの違いを教えて欲しいのですよ。」
オルドール商会事務所にて会計書類に目を通していると、リヴルがそんな事を聞いてきた。
「どうした、急に。今更という気もするが。」
「そう言えば聖騎士とクルセイダーがどう違うのか、誰にも聞いた事が無かったのです。」
「ふむ……そうだな。」
少し間をおいて、情報を纏める。
その間も書類からは目を離さず、処理は進める。
「リヴル、まず『聖騎士』だが、これは聖王国においてはただの軍人だ。街の警邏をする一般兵士から一軍を指揮する将軍まで、そのことごとくが『聖騎士』という括りになる。」
そう、今言った通り、聖騎士とは聖王国の軍人の呼称に過ぎない。
「そうなのです?」
「もちろん階級による違いで従士という下位の地位もあるがな。だが聖王国での聖騎士とは、聖王国の正規の軍人に他ならない。詳しい階級については、ここでは省く。」
「ではクルセイダーはなんなのです?」
「クルセイダーはな、所謂選ばれたエリート軍人、といったところだろうな。お前も知ってる通り、クルセイダーは光魔法が使えるが、光魔法は身体のどこかに聖痕を持っていなければ使えない。つまり、聖痕を持って光魔法を使う事が出来る聖騎士を寄り集めたのがクルセイダー師団という事になる。」
「光魔法って、そんなに特別なのです?」
「あぁ、光魔法は一般に使われている火・水・風・土・雷からなる下位五属性では無く、上位の扱いである光属性を唯一扱う魔法だからな。」
下位五属性の魔法と光魔法とでは、出来る事がまるで違い、特に傷や病を癒す治癒魔法では光魔法が断然強力なのだ。
「聖痕は、三女神様の加護だって聞いているのです。それじゃあ神様に選ばれた人達という事なのです。」
「一般にはそう解釈出来るな。だからこそそんな者達を集めて組織されたクルセイダーは、聖王国では特別な存在なのだろう。」
ここで一息つく為に、リヴルにお茶を頼んだ。
リヴルは大仰に敬礼して了解なのですと、元気よく返事をして給湯室へと向かった。
リヴルへの説明では省いたが、聖王国には4つの聖騎士団が存在し、聖王国を東西南北で4つのエリアに分割し、一つのエリアを一つの聖騎士団が受け持っている。
そして聖騎士は皆それぞれの聖騎士団の所属となっているのだ。
それからクルセイダー師団は全部で7つある。
聖騎士団が現地の常駐部隊であるのに対し、クルセイダー師団は特殊な任務や遊撃などを請け負う即応部隊としての役割を担っている。
「タカティン、紅茶なのです。」
「ありがとう。」
書類から目を離してリヴルからカップを受け取る。
紅茶を一口飲み、ふぅと息を吐く。
「タカティン、もう一つ教えて欲しいのですよ。ウォルっていうのはどういう人達なのです?」
「今度はウォルか。彼らは光魔法の使える冒険者の事だ。元々冒険者だった者の中にも聖痕を持った者がいて、大昔の人魔大戦で戦力の増強の為に本来ならクルセイダーのみに伝えられていた光魔法を特別に教えたのが、『光の戦士』と呼ばれている者達の始まりだ。」
「光魔法が使えるのにクルセイダーでは無いのです?」
「あぁ、あくまでも冒険者だ。クルセイダーになる為にはいくつもの制約や条件がある。そういう意味ではクルセイダーになれなかった者達とも言えるかもしれん。もちろん、その実力があったがならなかった者もいるかもしれんがな。」
いくらか掻い摘んで説明したが、あとは自分で調べるだろう。
「しかし、どうして急にそんな事を聞いてきたんだ?」
「リヒトとマークがそれぞれの地位とか立場の話をしていたので気になったのですよ。」
あの二人か……。
まぁ、身近な者達に関わる事なら、知りたくもなるのだろう。
もっとも、軍人と親しくなるというのはあまり好ましい事ではないのだが、シュタール家で預かっているリディアとの絡みがあるから、そこはどうにか折り合いを付けるしかない。
「タカティン、ありがとうなのです。残りの書類も頑張って片付けるのですよ。」
そう言って、リヴルも書類の処理に取り掛かった。
やれやれ、リヴルもLCEとしての演算能力を駆使すれば話の間も手を止めずに処理くらい出来るのだがな。
そう思いつつも、この子の人間くさい行動は微笑ましく感じた。





