機械仕掛けの神
聖華暦820年 夏 自由都市同盟領 中央都市アマルーナ
私の名前はタカティン・モーントシュタイン。
今日はさんさんと日光の照り付ける暑い日だ。
私はいつものように商業区の広場に露店を出し、商売の傍ら人間観察を行なっている。
しかし今日は気温が高いせいか、道行く人々の足取りはやや重い。
それとは対象的に、少し離れた場所にある氷菓子の屋台は行列ができ、大繁盛だ。
「失礼、モーントシュタインですね? 初めまして、私はオプシディアンと申します。」
「あぁ、アハートから聞いているよ。で、私に何を聞きたいのかね?」
「話が早くて助かります。私は新人類について知りたいのです。」
オプシディアンの言葉に、私は目を細める。
「随分と大雑把な聞き方だな。新人類の何について知りたいのかね?」
彼に手で座るよう促して、露店の前に置いていた丸イスに腰を下ろす。
「これは失礼。私は新人類がかつての造物主である旧人類と、如何様に違うのかを知りたい。」
「君は、旧人類がどのような存在だったか知っているのかね?」
「過去の歴史や残された文献に記された記録は全て網羅しています。」
「なら半分も知らないのと同じだな。」
私の言葉に彼はぴくりと眉を動かした。
自身のデータにそれなりの自信があった事が伺える。
「これはおかしな事をおっしゃいますね。旧人類がいない今、これらのデータが全てでしょう?」
「データは所詮データ、表面的で薄っぺらな代物でしかない。そもそも記録は客観的観点で作られる事が前提だが、それも記録者の主観による客観なのだから、どこまで行っても本当の意味で客観的観点というものにはならんよ。」
彼の表情はあまり変わらないが、わずかに細めた目が不服である事を十全に物語っていた。
「ではお聞きします。どうやって彼ら新人類について知れば良いのでしょう。」
「簡単な事だ、昼は商店、夜は酒場と風俗に足繁く通えば、一年でおおよそは知れる。」
「それはあまりにも非効率では?」
「君、[人]は推し並べて度し難く不可解で興味深い存在だ。我々アンドロイドなどとは違い、不揃いで個性的で共通性がまるで無い。ほんの僅か見聞きした程度ではその本質の一端すら掴む事など出来はしない。その混沌はあまりにも狭く浅く、それでいて広く深い。」
「貴方は150年以上、人間を観察して来たのでしょう? その割には随分と…矛盾していますね。」
彼の口元が少しだけ歪む。
どうやら彼は、己自身の能力を高く自己評価しているようだ。
「まぁ、データと睨めっこしている間は解らんだろう。」
「ふむ、貴重な意見として参考にさせてもらいましょう。」
軽く肩をすくめて立ち上がった彼は一言呟いた。
「やはり、彼らには導き手が必要なようだ。」
そんな彼にもう一度声をかける。
「あと、これだけは言っておこう。」
「なんでしょう?」
「我々は不完全な旧人類によって造られた、不完全な人形だ。決して機械仕掛けの神などには成れん。それは覚えておきたまえ。」
オプシディアンはフンと鼻を鳴らして露店を後にした。
やれやれ、アハートの苦労が偲ばれるな。





