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第5話 キャラバンにて

「面倒を掛けさせて、申し訳ない。載せて頂いて感謝する。」


輸送船の中、船を操る恰幅の良い中年男性に謝意を述べた。


「なぁに、良いって事よ。料金貰った上にあんな良いものも頂いたんだ、これくらいはよっと。」



聖華暦830年 


宿場町カエルムウィアから国境までの道中、同盟領へ向かう中規模のキャラバンに同行させてもらった。

荷に余裕のある船を見つけて、私の機体を載せて貰うように船主と交渉したのだ。


料金の他に、男性貴族が嗜む画集を渡してある。それは聖王国での人気の画家が描いた作品集で、内容は男性の喜ぶものとなっている。

聖王国だけでなく、帝国、同盟でも、この画家の名は知られており、その画集も(特に男性に)相当の人気である。


高価な物ではあるが、聖王国に渡った際には、必ず数冊は入手している。男性と交渉を円滑に進めるにあたって、非常に役に立ってくれる物なのだ。

実に度し難い。


さておき、私には事情があり、国境を越える際は必ずキャラバンに同行させてもらうようにしている。

それは私が旅で使用している機体が機兵きへいでも従機じゅうきでも無いからだ。


帝国、聖王国はもちろん、同盟であっても忌むべき存在として語られるモノ、忌避すべき科学の結晶、穢らわしき旧人類の遺産、その象徴たるモノ。


LEV(レヴ)


LEVは旧人類が生み出した人型の戦闘兵器である。

サイズは機装兵と同じく8m程であり、エネルギー伝導装甲という極めて強靭な防御兵装、そしてエーテリックライフルという粒子ビーム砲を備え、噴射システムという飛行ユニットを備えた、非常に強力な機動兵器だ。


本来ならば帝国、聖王国、同盟の三国において、存在してはならない、まして堂々と闊歩しているなど言語道断な事である。

発見されれば即破壊の対象となり、所持者は処断の対象となる。


故に機兵を運用し、運べる規模のキャラバンに紛れなければ、国境を越える事は大きなリスクを伴ってしまう。

狩装兵としての偽装を施しており、アクチュエーター等も静音処置されているから、駐機している時や歩行時くらいならば、素人、科学をかじった程度の者には見破る事は難しい。

だが、過去に三度、見破られた事がある。


一度目は104年前、帝国国内で公安第3特務部隊に。

二度目は88年前、聖王国内で聖拝機関に。

三度目は39年前に公安第3特務部隊である。


どちらも科学技術の排斥に血道を上げる者達の集まりであり、侮れない知識量と洞察力を有している。旅をする以上、決して軽視出来ない存在である。


見破られたのに未だ健在なのはなぜか?

逃げ果せる事が出来たからだ。もっとも、それも一筋縄ではいかなかったのだが…


一度目、二度目は私のLEV[ワールウィンドⅢ]の装備である試製86型噴射システムを使い、[飛翔]して振り切ったのである。


だが、これははっきり言って下策だった。

今の時政、飛行技術は失われており、機兵サイズの兵器が飛べるという事は脅威で、軍事的価値が計り知れない程高いのだ。

おかげで数年の間、しつこく追い回される事になった。結局のところ、帝国と聖王国には20年ずつ寄り付かず、身体を替え、機体のカラーを替えてやり過ごしたのだ。

実に無駄な時間であった。


三度目は国境を越える際、またしても公安第3特務部隊に見咎められたのだ。

過去の失敗を反省して、一度は取調べを受けたのだが、LEVを遠隔操作で稼働させ、混乱に乗じて姿を消した。


聖王国側へ逃れたので追っては来なかったが、やはり熱りが冷めるまで帝国に6年寄り付かなかった。

これもやはり下策である。


先ず持って見つからない事、これに尽きる。

木を隠すには森の中。8m程ある金属製の巨人を隠すのならば、相応のものが必要なのだ。

機兵を載せた輸送船、複数の船で行動するキャラバンがもっとも安全に国境を越える事が出来るのだ。


「今日も良い天気なのですよ。もうすぐ春、色付く季節が待ち遠しいのです。」


だから私達は今、春が近いとはいえ、まだ肌寒い風が吹き付ける輸送船の甲板で、流れる景色を背景に忙しく作業する船員や、他の乗客の観察を行なっている。

船の外に目を向ければ、他に4隻、同様の、といっても型はまちまちだが、輸送船が隊列を組んで街道を南下している。常時、2機の機兵が護衛として、先頭と最後尾の船の甲板上で威容を誇っている。


私が乗っているこの船は、聖華暦600年代末に建造された軍用輸送艦の払下げで、型落ちした旧型である。だが船主、この船の操手の事だが、この船を大切に使っていると見え、隅々まで整備が行き渡っているのが見て取れる。

二人船員を雇い、常日頃から船の整備を行わせている。


「タカティン、馬、馬なのですよ。いっぱい走っているのですよ。」


「景色を楽しむのは良いが、はしゃいで声を上げるんじゃない。何度も言うが本が…」


「むぅ、解っているのです、『本が喋るのは面倒ごとになるのだぞ』は聞き飽きたのです。」


船の旅を楽しむあまり、はしゃぎ過ぎな相棒を嗜めると、やや気分を害したらしく、私の口真似で言葉を遮って来た。


「解っているならそれで良い。」


私はリヴルの不調法を咎めず、背を預けていた甲板の柵から船の外へ視線を向けた。

野生馬が群を組み、キャラバンと並走するように走っていた。


「そうだな、野生馬の群が並走するのは、そうある事ではないな。」


あの馬達は何者にも縛られず、自由に駆けて行く。

自分が何者であるのかを知っているのだろうか?

自分が何処へ向かうべきなのかを知っているのだろうか?

自分が向かうその先に何があるのかをしっているのだろうか?


私とて同じ事だ。


全くもって度し難い。


自分が何者であるのかを知っているのだろうか?

自分が何処へ向かうべきなのかを知っているのだろうか?

自分が向かうその先に何があるのかをしっているのだろうか?


全くもって度し難い、不可解で興味深い。


私は、私だ。

自分はアンドロイド、旧人類によって創造された、新人類とは異なる存在。新人類の観測者となる事を、自ら決めた。

自分はこの世界を隅から隅、何度でも往復してその先々を観測すると、自ら決めた。

自分が向かう先にあるものなど、行ってみれば判る。その時に自ら決めればそれで良い。


「…タカティン、ごめんなのですよ。嫌な言い方をしてしまったのです。」


ややしおらしくリヴルが言う。


「解っているならそれで良い。国境まではまだ時間はある。もう少し、景色を楽しむとしよう。」


「ハイなのですよ。」


解っているならそれで良い、これは自分に向けての言葉なのかもしれない。

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