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第33話の2 水の都にて 告白

次の日の朝、目覚めは今ひとつです。

昨日はよく眠れませんでした。


シュタール家の面々と一緒に朝食を頂きましたが、カトレアさんの姿はありませんでした。

カトレアさんは早くに商会へと行ってしまったそうです。

モリディアーニさんはオルドール商会でお仕事がある為、昨日の件についての話し合いは今夜行われる事になりました。


タカティンはシャーリアンで露店を出す為に役所へ行きました。

ダリアさんもモリディアーニさんに付いて商会へ。

私はディジーさんに連れ出され、街に面した湖で釣りをしています。


「よーし、掛かった。

…………あー、雑魚だなぁ。よっと。」


ディジーさんは針に掛かった小魚を器用に外して、湖へと返してあげました。

私は水面に垂れた糸を、ただぼぉっと眺めていました。


「昨日の話が気になるかい?」


「ぅっ……、気にならないのは……嘘なのです。」


「ははっ、まぁなぁ。

いきなり連れて行かれてあの話だからなぁ。面食らっただろ?」


私は黙ったまま、水面をただ見つめます。

水面に映っている私の姿が風が起こした波紋で掻き消え、戻って来るようにまた映ります。

まるで今の私の心のようです。


どうにもざわついて落ち着きません。


「カトレアなぁ。アイツ、実はタカティンの事を好いてんだぜ。あんなツンケンしてんのにな。

今度の話も、あー見えて結構乗り気なんだよ。」


「そうなのです?」


それには本当に驚きました。

だから、あんなに怒っていたんだ……。


「お前、タカティンの事をどう想ってる?」


「………」


その質問には答えられませんでした。


私は、タカティンと離れたくありません。

ずっと一緒にいたい。

その感情だけは確かです。


タカティンの事は、きっと好きなのです。

でも……、それは男女の仲で言う『好き』なのか、そういう事は関係の無い『好き』なのか、よく判りませんでした。


「ふぅん…、まぁだ、よくわかって無いんだ。

案外お子様なんだな。

あー、馬鹿にしてるわけじゃ無いぜ。」


お子様と言われて少しムっとしましたが、自分の気持ちを整理出来ていないのですから、お子様と言われても仕方ありません。


「アタシら三人はなぁ、おんなじ人格プログラムを基に作られた『フロイラインズ』、文字通りの姉妹なんだよ。

だから、アイツらの考えてる事もよく分かるんだ。」


「でも三人とも、ちっとも似てないのですよ。」


「えっ、似てない?

うん、学習が進んでっからな。個性が出てきてんのさ。

あー、『フロイラインズ』てのは、さっきも言ったように同一人格ベースの量産型アンドロイドなんだよ。

生産性やら集団での連携を重視した戦闘用なのさ。」


同じ人格の三姉妹。

とてもそうには見えません。


「そんで、目覚めたのは70年前。

なーんにもわかんない私達は、そん時にタカティンのヤツに拾われて。

半年かな?それくらい一緒に過ごして色々教えてもらって、それから『お母様』のところに連れて行かれたんだ。」


そんな以前からの知り合い……、そんな話は聞いた事ありませんでした。


「そんな訳だから、タカティンには多少の恩もある。

アタシやダリアだって好きだぜ。もっとも、恋愛感情じゃないけどな。

けど、カトレアのは間違いなく恋愛感情だな。」


「………」


私とカトレアさんの『好き』は、全然違うものなのでしょうか?

彼女は、タカティンに恋焦がれる想いをしているのでしょうか?

私には、まだよく判りませんでした。


「そういう事で、良かったら応援してやっちゃくれないか?」


本当に………。

どうして良いのか、本当に判らなくなってしまいました。



午後からは雲が出て来てすっかり曇ってしまいました。

シュタール邸へ戻ってから、私は応接間の窓から外をただ眺めて過ごしています。


ディジーさんの言葉によって気分は曇り空と同じように重く垂れ込めていました。


応接間の扉がきぃ、と小さな音を立てて開きます。


「あぁ、こちらに居らしたんですね。」


「あ……」


カトレアさんでした。

なんとなく居心地が悪く、目を逸らしてしまいました。


「少し……話しても良いかしら。」


「……判ったのですよ。」


居住まいを正し、向かい合って座りました。

カトレアさんは視線を手元に落とし、ティーカップに紅茶を淹れています。

二つのカップに湯気立つ液体を注ぎ終えると、片方を私に差し出しました。


「ありがとうなのです。」


謝辞とともに受け取り、その紅い液体に映るカトレアさんの影を見つめました。


暫しの無言……。


ふぅ、とカトレアさんが息を小さきました。


「リヴルさん、ディジーに何を吹き込まれたかは知りません。

ですが、余計な心配なんて要りません。」


はっとしてカトレアさんの顔を見ます。

彼女は手にしたティーカップに視線を落としたまま、ゆっくりと紅茶を掻き回しています。


「でも……、でも、カトレアさんはタカティンの事が……好きなのです?」


ついに聞いてしまいました。

ですが、彼女からの返事は無く、相変わらずティーカップの中身をスプーンで回しています。


また暫しの無言。


不意にカトレアさんが顔を上げ、私を真っ直ぐに見つめて来ました。

その射抜くような眼差しに、私は釘付けになりました。


「大嫌いよ。」


カトレアさんは立ち上がり、庭のテラスへと移動しました。

私も遅れまいとついて行くます。


「確かに、彼は……恩人ではあります。

思う所も沢山あります。

……だけれど、彼は私を選んではくれない。

どんなに想っても、あの人の中に私は居ないの。


だから……」


ぽつ、ぽつと雨の雫がゆっくりと降り注ぎ始めました。


「大嫌いよ。」


その一言を言ったカトレアさんの顔は、とても寂しげで悲しげで。

頬を伝う一筋の雫が、雨なのか、涙なのか……


私には判りませんでした。

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