表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/80

第31話の2 カンナヅキ祭 当日

午前5:30

遠くどこからか聞こえてきる鶏の鳴き声と共に、


「ぅう〜ん……」


布団の中で伸びをして、


「おはようなのですよ。

今日も素敵な1日の始まりなのですよ。」


そう言って、リヴルは起き出した。


「ああ、おはよう。」


私も横になったまま答えた。


リヴルは窓辺へ行き、薄く明るくなってゆく街並みを見下ろしている。

私も起き上がると、その横へと並んだ。


徐々に溢れ出す朝の光に合わせるかのように、街の人々も少しずつ動き出している。


「今日はカンナヅキ祭か……」


「タカティン、リヴルは今から待ち遠しいのですよ。」


満面の笑みでリヴルが言う。


「気が早いな。まだ日が昇ったばかりだぞ。」


「楽しみなものは楽しみなのですよ。」


実に楽しそうだ。

とは言え、まだこんな時間だ。朝食にも早すぎる。


「タカティン、リヴルはまた温泉に入りたいのです。」


「朝風呂か……

時間もあるし、そうするか。」


「リヴルは先に行ってるのですよ。」


そう言って、洗面用具を持ってさっさと部屋を出て行ってしまった。

忙しないな、アイツは。


私も旅館の客や中居の観察がてら、温泉へ行く。


流石に時間が早いので、人は少ないだろうと思っていたが、案外と早起きしている客は多いらしい。

脱衣所の籠は半分近くは埋まっており、浴場にも思いの外、人はいた。


客達は思い思いに温泉を楽しみつつ、今日の祭を待ち侘びているようだ。

そこかしこで祭についての話し声が聞こえる。


ゆっくりと湯舟に漬かり、彼等の様子を観察しながら、今は私達も彼等と同じ『カンナヅキ祭』を観に来た客なのだな、と考える。


今すでに、祭は始まっているのだな。

雰囲気でそう感じた。


………おっと、長考したようだ。

昨日も遅いとリヴルに怒られたところなのだ。

これくらいにして部屋へと戻るとしよう。





部屋に戻るとリヴルはすでに戻っており、また窓辺から、賑やかになりつつある、朝の街並みを眺めていた。


「むぅ、遅いのですよ。アンドロイドの癖に長風呂なのですよ。」


私に気が付いたリヴルが頬を膨らませて叱責してくる。


「ああ、すまない。」


「もうすぐ朝食を持って来てくれるのですよ。食べたら着替えて、街を散策するのですよ。」


「そうだな、そうしよう。」


そう言って、私もリヴルの側へ行き、窓の下を眺め始めた。


と、リヴルが腕にしがみ付いてくる。


「どうした、リヴル。」


「なんでもないのですよ。」


そのまま頭を私の肩に預けるように寄りかかってくる。

空いている方の手で、リヴルの頭をそっと撫でた。


「おはようございます。失礼いたします。」


中居が朝食を持って来たようで、戸を開き、中へと入って来た。


「あぁ、申し訳ありません。これは失礼致しました。

その、朝食を運んでもよろしいでしょうか?」


何が失礼なのか?

一瞬考え、今の私達が寝衣姿で寄り添っている状況から、そういう風に受け取ったのだろう……


一応、念の為、私とリヴルは肉体関係は持っていない。

そもそも、機械であるアンドロイドには性欲というものが存在しない。

LCEがどうであるかは、これからのリヴルを観察する事で解ってくるだろう。

そしてそれ以前に、アンドロイドもLCEも生殖能力を持っていないのだ。


なんにせよ、私達の間にそういった情事など無縁なのだ。

………だが、もう面倒になったので、いちいち訂正はしない。


「ええ、お願いします。」


「どんな朝食か、楽しみなのですよ。」


リヴルは朝食がテーブルに並べられる様を間近で見るように、席へと座り込む。

私も向かいに座り、程よい量の朝食が並ぶのを眺めた。



朝食後、再び窓から街が活気付いてくるのをひとしきり観察した後、私達はまた街へと繰り出す事にした。


リヴルは寝衣を脱ぎ、下着姿となったところで寝衣を胸の前で抱きしめてから、こちらを見て、


「タカティン、エッチなのです。」


と、言った。


挿絵(By みてみん)


「いいから、サッサと着替えろ。」


「ムフ、照れなくても良いのですよ。」


悪戯っぽい笑みを浮かべている。

本当に、コイツはこういう事をどこで覚えて来ているのだろうか……

度し難い……


リヴルの行く末が心配だ。



私達は通りを抜け、真っ直ぐにある場所を目指した。

町外れの山へと向かうその道を辿って行く。


「この先の山に『威之地の社』という、この土地の神である『チノヨリヒメ』を祀る場所があるそうだ。」


「そこが今日のお祭の要なのです?」


以前、この街に立ち寄った際に、その社の場所は教えてもらっていた。


「まぁ、そういう事になるな。だが関係者以外の立ち入りは禁じられているそうだから、せめて麓まで行こう。」


「むぅ、神様の住まいを拝見出来ないのです?

それは残念なのですよ。」


そんな話をしながら歩き続け、目的の山の麓、山道の入口が見え始めた時、数人の男達に呼び止められた。

男達は護身用程度の武装をしている。

だが、山賊の類などでは無く、カミナの里の自警団の者達であった。


「あんた達、観光客か?

申し訳ないが、この先は立ち入り禁止なんだ。引き返してもらえるかな。」


「あぁ、やはりそうですか。

いや、申し訳ない。つい好奇心で来てしまったのだが、ご迷惑をお掛けししました。

私達は街へ戻ります。」


自警団の者達に詫び、私達は踵を返した。


「ご苦労様なのですよ。」


戻り際、リヴルが笑顔で言い、男達も笑顔で手を振った。

男は大概、女児から笑顔を向けられると警戒心を解いてしまう。

リヴルが微笑みかけると、ほぼ例外なくそういう態度になるのだから、実に興味深い事だ。


「さて、残念だが仕方ないな。街へ戻ったら昼飯とするか。

リヴルは何が食べたいんだ?」


「リヴルは『テンプラソバ』と『ソバガキ』というのを食べてみたいのですよ。」


聞くと間髪入れずに返答して来た。食べ物の話には異様なレスポンスを見せるな……


「蕎麦か……ではそうしよう。確か通りの中程に蕎麦屋があったな。」


「いっぱい歩いたからお腹ぺこぺこなのですよ。楽しみなのです。」


「リヴル、この街に来てから食べてばかりじゃないのか?……太るぞ?」


「むぅ、リヴルは燃費が良いから太らないのですよ。」


「そういう事では無いぞ。」


さてさて、祭りが本格的に始まるまでには、まだまだ時間があるな。

昼食を済ませたら、また里を一回り巡るとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

\『聖華文庫』より電子書籍が発売中/
詳細は下記画像をタップ!

アンドロイド
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ