第30話 手記
遠い遠い遥かな未来…
造物主である[旧人類]と創造物である[新人類]との間で、種としての存亡を賭けて長く繰り広げられた戦争[旧大戦]も過去の話となった頃…
アンドロイドである私は、製造が終戦直前であった事から[旧大戦]には参加しておらず、 戦後約600年の間、コールドスリープ状態で眠り続けていた。
ある時、製造設備の一時的なバグにより、たった一人で私は覚醒した。
造物主である[旧人類]が滅び、すでに自らの存在意義が失われている事を知った。
高度な人格を与えられていた私は、その事実に自問自答を繰り返し、ひとつの答えを導き出す。
今はもういない造物主に代わり、[新人類]の事を知ろう、と...
今の自分に出来る事はそれしか無いのだと...
以後、施設に残された素体を乗り換えながら、200年もの長い旅を続けている…
*
聖刻暦898年 冬
もうすぐ、新しい年を迎えようとしている。
長い、実に永い時を過ごし、何百回と新年を迎える事を繰り返して来た。
多くの[人]と出会い、別れを繰り返してきた。
毎年、毎年、同じ事を、飽きる事なく同じ事を繰り返し、その都度、新しい事を発見し、また繰り返す。
[人]は度し難い、不可解で興味深い。
あれから、大きな戦争と、いくつかの小さな紛争を繰り返しながら、[人]はちっとも変わっていない。
そのくせ、世の中は大きく変動している。
戦争をしては、その傷痕を無くすように立ち直り、復興しては戦いを繰り返す。
実に度し難い。
[人]の本質は、善なのか、悪なのか?
愛なのか、憎なのか?
創造?破壊?
それら全てを内包し、常に自己矛盾を起こしておきながら、機能不全も起こさずに存在し続ける。
実に不可解。
これから何百年、何千年、何万年経ったとしても、[人]はあいも変わらず[人]であり続けるのであろう。
色々なものが変わりゆく[人]。
本質的には何も変わらない[人]。
実に興味深い。
まだまだ解らない事は幾らでもある。
まだまだ知りたい事は幾らでもある。
だが、私の旅はもうすぐ終わりを迎える。
リヴルが機能停止して16年になる。
肉体的な寿命が来たのだ。
私はリヴルに[書籍型記憶媒体]に記憶を移して、新しいLCE(身体)を探す事を提案した。だが、リヴルはその提案を断った。
…リヴルはもう、タカティンと出会って、いっぱい色んな事を知る事が出来たのです。
一緒に旅して、色んな[人]に出会えて嬉しかったのです。
とっても幸せだったのです。
だから、もう十分なのですよ。…
そう言った。
私はリヴルの意思を尊重し、静かに目を瞑るまで、その手を取って………
そして最後を看取った。
リヴルは私に、色々な事を教えてくれた。
リヴルに出会って、他者を思い遣ること、他者を愛するという感情を知った。
リヴルを失って、喪失するということ、その悲しみの感情を知った。
あの子と出会ってからが、本当の『[人]を知る』為の旅が始まったのだ。
そして、あの子が居なくなって、私の存在意義がまた失われてしまった。
この身体もあとどれくらい持つかは判らない。
だが、私は素体の交換をもうしないと決めた。
私は自らの寿命を決めた。
AIでありながら、実質、自殺する事を選んだ訳だ。
実に度し難い。
だが、すぐに終わらせようなどとは思っていない。そんな事をすれば、あの子の事を否定するのと同じ事だ。
しばらく考え、私はこれまでの旅の記憶を[本]に記し、残す事を決めた。
これは、この手記は、私の、私達の記憶。
私とリヴルが出会い、旅をして、見聞きした経験、その全てを記すものである。
誰かが、この手記を読む事もあるだろう。
その時、この手記の内容を真実と取るも良し、虚構と取るも良し。
どちらと思うかは読み手に委ねるものである。
私の名は、タカティン・モーントシュタイン。
268年の間、世界を巡り、度し難く不可解で興味深い[人]を観続けた、酔狂な観察者である。
これで、本編は完結となります。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
次話から時系列を無視したサイド・アフターストーリーとなります。
もう少しだけお付き合いくださいますよう、お願い致します。





