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第29話 決着

サルガタナスが咆哮を上げ、再び魔導障壁を展開する。

すかさず、シルト三機に超高温焼夷榴弾砲を斉射させ、魔導障壁を無力化し、エーテリックライフルで攻撃を加える。

フレッシルもエーテリックメガランチャーで攻撃する。


何度もこの流れを繰り返しているが、正直いたちごっこに過ぎない。

こちらの攻撃は効いているとはいえ、相手は体長50mのあの図体だ。

恐らくは針でチクチクと刺されている程度のダメージしか与えられていないだろう。


それに……

超高温焼夷榴弾砲も、合計で100発しか無い。


一度の斉射に6発使っている事を計算すると、計16回しか魔導障壁を無力化出来ない事になる。

すでに9回も一連の流れを繰り返している。


こちらが圧倒的に不利だ。

単純に火力が足りない。


何か手段はないか……

考えを巡らせる。


ふとマルドゥクへと目が行く。

まだシステムダウンから立ち直っていない。

しかし、大口径レールガンは二門とも損壊している。

自動迎撃システムのエーテリックライフルではこちらと同じで決定打にはならない。


と、すれば………


マルドゥクの奥の手、『荷電粒子砲』以外に手段は無い。


「リヴル、マルドゥクの復旧にはどれくらいかかる?」


『あと180秒なのですよ。』


ならば、まだ時間稼ぎが必要だな。


「再起動したら、荷電粒子砲の発射シークェンスに入れ。」


『タカティン、ダメなのですよ。

荷電粒子砲を使用するには、砲手(ガンナー)が搭乗していないといけないのですよ。』


「だったら、私が乗るまでだ。

ともかく、復旧を急げ。」


『判ったのですよ。』


シルト三機は連携を崩さず、少しずつサルガタナスをマルドゥクから引き離して行く。

私も攻撃に参加して、ごく僅かずつだが、ダメージを与え続ける。


一方のサルガタナスは周りを蠅のように飛び回るシルトを叩き落とそうと、必死に腕を振り回している。

だが、腕の攻撃範囲ギリギリ外側を飛び回っている為、まず打撃攻撃が当たる事は無いだろう。


後120秒。


魔導障壁が展開され、再びシルトから超高温焼夷榴弾砲が発射される。

炎で姿が隠れた一瞬で、サルガタナスは左後方へ一気に跳躍し、飛び回っていたシルトの一機にその腕を打ち当てた。

硬質で大質量の打撃はシルトを一撃で叩き落とし、機能停止へと追い込んだ。


ふむ、流石にいつまでも同じ手は喰わんか……

興味深い。


シルトの攻撃パターンを変え、フェイントと時間差を織り交ぜて攻撃を続行する。

サルガタナスを再び防戦一方へと押し戻す。


後70秒。


サルガタナスが腕の発射口から質量弾を発射して来た。

回避に専念させ、やり過ごす。

その間にまた魔導障壁を展開して、守りを固めてきた。


あと50秒。


今度は超高温焼夷榴弾砲で魔導障壁を無力化した直後に、もう一斉射、超高温焼夷榴弾砲をサルガタナスにお見舞いする。


サルガタナスはその巨体を炎に包まれた事で取り乱し、腕を激しく振り回して暴れている。

しかし、動きには陰りが見えない。

思ったよりも効いていないようだ。

超高温焼夷榴弾砲も、あと3斉射分しか残っていない。


あと20秒。


炎が消え、サルガタナスが再びこちらに向かって動き出す。


超高温焼夷榴弾砲を残り全弾斉射。

サルガタナスの前身を満遍なく火達磨にして足止めを行う。


シルト二機も吶喊させ、ビームサーベルを使って近接戦を行わせる。

私はマルドゥクに向かい、移動する。


「リヴル、砲手席(ガナーシート)を開けろ。乗り移る。」


『了解なのですよ。』


マルドゥクの頭部近くのハッチが開き、砲手席が姿を現した。

私はフレッシルをマルドゥクに取り付かせて、素早く乗り移った。

シートに座り込み、ハッチを閉める。


『荷電粒子砲、発射シークェンス開始。

チャンバー内、エーテル粒子加速開始。

臨界まで60秒、なのですよ。』


「頼むぞ。」


私は柄にも無く、祈るように呟いた。


一方、サルガタナスは………

身体の半分近くはまだ炎に包まれたままではあるが、機敏に腕を振り回し、シルトの攻撃に応戦している。

が、ついにシルトの一機が打撃を受けて、ペチャンコに潰された。


炎に包まれていても、残る一機が攻撃を加えていても、あまり意に介さなくなってきている。

魔導障壁を展開し、こちらに頭を向け、再び近づいて来る。


不味いな、間に合わん。


残ったシルトも今し方叩き落とされた。


私はフレッシルを、積まれているエーテリックリアクターの出力だけで遠隔操作する。

細かい動きは必要無い。飛ばせて、ぶつけるだけだから。


臨界まで30秒を切る。


テューポーンユニットのブレードビットを全て飛ばす。

8本のブレードビットは飛翔する高速振動剣と化し、魔導障壁に衝突した。

魔導障壁はすぐに霧散し、サルガタナス本体にブレードビットが突き刺さる。


フレッシル自身もサルガタナスへ吶喊させる。

テューポーンユニットからビームサーベルを8本発振させて、サルガタナスの顔面へとブチ当てた。


顔面にビームサーベルを突き立ててへばり付いたフレッシルを引き剥がそうとサルガタナスがもがく。


貼り付いたフレッシルを遂に引き剥がし、再び魔導障壁を展開した。

だが、もう終わりだ。


『エネルギー臨界!耐閃光、耐衝撃防御準備良し!安全装置解除!

発射準備完了なのですよ!』


「荷電粒子砲、発射‼︎」


トリガーを押し込んだ。


モニターは閃光でいっぱいになり、視界が真っ白になった。

次いで凄まじい振動に機体が揺られる。

ほんの数瞬の事である筈だが、この時はとてつも無く永い時間が過ぎたように感じた。


閃光が治まった時には、モニターが暗転して使い物にならず、どうなったか判らない。


またシステムダウンを起こしているらしい。

一切のモニター、計器が止まっている。


どうせ、失敗って(しくじって)いたら、終わりなのだ。

すぐに砲手席のハッチを強制解放して、外の様子を観た。


マルドゥクの目の前に、私の眼前に、黒い物体が影となって立ち塞がっている。


駄目か……一瞬、そう思った。だが……


黒い物体は動かない。


全身が完全に炭化している。

やがて音を立てて崩れ落ちた。

その先には、扇状に大きく削り取られ、すっかりと更地と化した大地が広がっている。


荷電粒子砲、恐るべき威力だ。


と、ここでマルドゥクの頭部がせり上がり、中からマーチヘアが現れる。

マーチヘアは脚を折って駐機体制になると、コクピットが、

開く。


「タカティ〜ン!」


中から、少女が、勢いよく飛び出す。

彼女は真っ直ぐに、私に向かって、飛び込んで来た。


「うえぇ〜ん、怖かったのです、恐かったのですよ〜。」


私にしがみ付き、声を上げて泣きじゃくるリヴルの頭を、そっと撫でた。


「馬鹿者、一人で勝手に飛び出すからだ。

………無事で良かった、リヴル。」


彼女の、確かな暖かみを掌に感じる。

やっと……触れる事が出来たな……


「ウェエ〜ン」


「リヴル、いつまでも泣くんじゃ…な、い……

り、リヴル、力を入れ、過ぎた、か、身体が、キシ…む…」


「びぇぇぇ〜」


リヴルが渾身の力で胴を締め付けている。

LCEは身体能力が非常に高く、あらゆる面で人間のそれを凌駕している。

こ、ここまでは、せっかく手に入れた身体を破壊されてしまう。


「ぇえぃ!落ち着かんかっ!」


リヴルの脳天に拳骨を落とした……





「うぅ、ぐすっ、酷いのです、あんまりなのです、凄く痛かったのですよ……」


「全く、だから加減を覚えろと、いつもいつも言っているだろう。」


頭を抱えて蹲るリヴルに向かってそう言い切った。

リヴルは拳骨を落とした箇所を摩っている。


「ふう、とにかく……これで終わったな。」


漆黒に散りばめられたように星々が煌めいている。


「タカティン、マルドゥクも壊れてしまったのです。他に何か出来る事は無いのです?」


「我々が出来る事は全てやった。後は同盟の力次第だ。」


今この時も、もっと北では同盟軍と魔獣軍団が戦っている。

我々のした事が彼らの助けになっているだろうか…


「リヴル、彼等を、[人]の事を信じよう。

今の我々に出来るのはそれだけだ。」


彼らの勝利を、ただ願うばかりだ。

度し難い事に、私はそう言いながらも同盟軍の、決死で戦う彼等の勝利を疑っていない。

これは不可解で興味深い。


「帰ろう。」


リヴルへ手を差し出した。

リヴルはその手を取って立ち上がり、静かに返事をした。


「はい、なのです。」


やれやれ、とんだ年末になってしまったな。

満天の星空を二人で眺めながら、そう思った。

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