女狩り
死体は十階建てのマンションの非常用階段の横に横たわっていた。首には絞殺されたとみられる痕があり、顔と体の傷から、殺害後、非常用階段の上から投げ落とされたようだった。しかし、このマンションに入るには一階南の防犯カメラがある入口から入るしかなく、防犯カメラの映像には殺された男も怪しい人物もうつっていなかった。
警察の捜査が行き詰まり見せたとき、探偵領木蘭太郎が登場する。
(原稿用紙90枚)
一
死体は、体をくの字に曲げて、右を下にして芝生の上に横たわっていた。だから上から見ると、ちょうどくの字を左右反転した格好になっていた。
上はジャケット、その下に丸首のセーターとワイシャツ、下はウールのスラックスをはいた、小柄な小太りの男だった。
太い鼻筋と大きな鼻の丸い顔。温厚な人柄をうかがわせる顔である。目は閉じていたが、それでも大きな目をしているとわかった。七三にわけた髪には白髪がまじり、年齢は五十代後半といったところだろうか。
顔の右側には、おそらくそちらから地面に落ちたからだろう、傷が多かった。額の右、右の頬、鼻の頭にすり傷があり、そこに血がにじんでいた。
男が倒れていたのは、十階建てのマンションの北東角に設置された非常用階段の横である。
それは、多摩ニュータウンの一角の、かつては都営アパートが建っていたところに建設された比較的新しいマンションだった。
このあたりには、十年ほど前までは、中央の公園をとり囲むように十棟の都営アパートが並んでいたのだが、一九七〇年代につくられたアパートは当然ながら老朽化し、居住者は次々に転出、空室も目立つようになった。そこで、東京都は、北側の五棟をとり壊し、その土地を不動産会社に売却したのである。
不動産会社はアパートが建っていた場所に、やはり五棟のマンションを建設した。その一つが、このマンション、ヘブンリー多摩H棟だった。
だからその南側には、薄汚れた都営アパートが、美しい眺望をけがす障害物のように今でも立ちはだかっていた。
男を発見したのは、午前四時ごろやって来た新聞配達員である。新聞配達員は、一つ北の棟、ヘブンリー多摩I棟に行くところだった。それでH棟の北側の道に入ったのだが、そのとき、H棟の東側の芝生の上に人が倒れているのを発見したのである。
新聞配達員はすぐに警察に通報した。するとまず派出所から、制服の巡査がやって来た。
巡査は、芝生の上に倒れている男の顔と体を観察し、男はどこか高いところから落ちたのだろう、と推測した。
すぐとなりに、その入口は鉄の扉でふさがれているが、マンションの一階から最上階まで続く折り返しの階段がある。
巡査はしかし、男は飛び降り自殺をしたのだ、とか、何かの事故でその階段から落ちたのだ、とは考えなかった。
男の首に、索状痕だと思われるあとがついていたからだ。
これは殺しだと、すぐに気づいたのである。
そこで巡査は無線で報告し、やがて最初の新聞配達員からの通報でこちらへ向かっていた所轄署の刑事たちが到着し、それからしばらくして、今度は本庁から、巡査の報告を受けた刑事たちがぽつりぽつりとやって来た。本格的に見分が始まったのはそれからである。
まず男の身元が判明した。
男のジャケットの胸のポケットに財布があり、中に図書館の利用証と大学の教職員証が入っていたからだ。
真垣康男、五十七歳、多摩国際文化大学、現代社会学部の教授である。教職員証の顔写真は、眼鏡の有無を除けば、芝生の上に横たわっている男の顔と一致していた。
――ということは、どこかに眼鏡が落ちているかもしれない。
と、捜査一課からやって来た刑事、来島昇一は推測した。するとそれに答えたかのように、所轄署の刑事が、階段の五階の踊り場で、被害者のものだと思われる眼鏡、つまり、教職員証の写真に写っているものと同じ種類の眼鏡を発見したのである。
――となると、被害者がどこで殺されたのかはひとまずおくとして、犯人は、死体をかかえて階段をおりてきて、五階の踊り場で眼鏡が落ち――犯人はそれに気づかなかったか、あるいは気づいたがそのままにして――そして階段のどこかから、死体を投げすてた・・・・・・。が、投げすてたのは五階や四階からではない。それにしては死体の損傷が軽微だからだ――。
その後、やはりそれが被害者のものかどうかはわからないが、男物の黒いウールのコートが、丸められた状態で、マンションの北側西の芝生の上で発見された。しかし刑事たちをより瞠目させたのは、コートのポケットに入っていたアイマスク、何かの錠剤、折りたたみ式ナイフ、使いかけのガムテープ、そして、ロープといった奇妙な所持品だった。
いっぽう、マンションの住人からも次々と重要な証言が出てきた。
最初は管理人である。水越芳郎、年のころは六十なかば、白髪頭の細面に銀縁の眼鏡をかけた、人の良さそうな初老の男である。
水越は、遺体のそばに連れてこられ、来島から真垣の教職員証を見せられると、それまで無表情だった顔を俄かに輝かせた。
この人ならこのマンションに来たことがある、と言うのである。
「七〇三号室の安西さんから、といっても、安西さんの奥さんのほうですが。変な男の人が突然やって来て部屋を見てみたいので中に入れてほしいと言われた、と連絡を受けたんです。それで、防犯カメラの映像を確認してみたらこの人がうつっていました。たぶん、この人だったと思います」
「それはいつのことです?」
「二週間前の火曜日、えーっと、二月五日です」
「防犯カメラの映像は残っていますか?」
「いや、たぶんあれは一週間分しか保存していないので・・・・・・」
管理人は申し訳なさそうに答えた。
「それで彼は何をしていたんですか? 防犯カメラに何かうつっていましたか?」
「西側の部屋の郵便受けですね、つまり、ここの西側の部屋の郵便受けは入口を入ったホールの西側にあり、東側の部屋の郵便受けは東側にあるんです。それでこの人は、西側の郵便受けの七階から八階の部屋のものをじっと見ていました。それで、手に小さなダンボールの箱を持っていて、最初は背広を着ていて、インターフォンで誰かと話して・・・・・・」
「誰と話したのかわかりませんか?」
「わかりません。ただ、入口のホールの内側の扉は暗証番号を入力するか、部屋の中からしか開けられないんです。だから、誰かに開けてほしいと頼んだんじゃないでしょうか。ともかく扉が開いて、中に入っていきました」
「ということは、その後、その安西さんのところにこの人があらわれ、部屋を見せてほしいと頼んだわけですね?」
「いえ、たぶん違います」
来島は、話のつながりが理解できず当惑した。
「しばらくして、もう一度ホールに出てきたんです。そのときは、背広を脱いでいて、今度は濃い色のジャンパーを着ていたんです。それでまたインターフォンに行って誰かと話しました。たぶん、その後、安西さんのところに行ったんだと思います」
「なるほど」
「ただ、奇妙なのは、再び出てきたときはまた背広を着ていたんですよね」
――ということは、マンションの中に入ってから着替えたわけである。しかも、二回も、である。しかしマンションの部屋を見せてもらうために、そんな手のこんだことをするだろうか。
「この人は、あなたのところへは部屋を見せてほしい、と言ってこなかったんですよね」
「そうです、安西さんに言われて初めて防犯カメラの映像を調べたんです」
ともかく、被害者は二週間前にこのマンションを訪れ、住人に会っている。
住人からさらに話をきいてみる必要があった。
その二十分後――来島は、リビングの中央にすえられたソファーに座っていた。
管理人に死体を確認させた後、マンション一階の入口を入ったところのホールで居住者からの聞き込みに行った刑事たちを待っていたのだが、管理人が、うちの部屋を使ってください、と言うので、その言葉に甘えることにしたのである。
南側の窓から、ようやく空をのぼりはじめた冬の太陽が、柔らかい光をさしこんでいた。
来島のとなりには、丸いふくよかな顔にレーズンのような小さな目をつけた、恰幅のいい御仁がその大きな体をソファーに沈めるように座っている。多摩署の刑事課長、桜坂慎太郎警部である。が、二人はほとんど会話を交わさなかった。
と、そこへ、その二人よりは明らかに一世代は若いと思われる、短い髪を突っ立てた男が飛びこんできた。来島と同じ八係からやって来た速水翔太である。
「八階の八〇五号室の芦水雅子ですが、彼女も被害者と会っています。やはり、部屋を見させてほしいと言って、部屋の中に上がりこんできたそうです」
それだけなら七〇三号室の安西珠代、七〇五号室の湯ノ沢真子と同じである。が、速水はここからが肝心かなめの点だ、とでもいうように得意げな表情を見せた。
「でも僕は、日時は言わなかったんです。被害者を見たことがありますかとだけ訊いたんです」
と自分の聴取の方法がうまかった、と言いたげな口調。いや、実際速水はそれを自慢したいのだろうが。
「それで彼女が、部屋を見せてほしいと言われた、と言うので、僕は、それはいつのことですか、と訊いたんです。すると、二週間前の木曜日、二月七日と答えたんです」
来島と桜坂は顔を見合わせた。
七〇三号室の安西珠代は、それは二週間前の火曜日、二月五日だったと言っている。また、七〇五号室の湯ノ沢真子も、二週間前の同じ日、二月五日に真垣の訪問を受けた、と言っている。やはり真垣は、部屋を見させてほしい、と告げたそうである。その二月五日のことは管理人の水越も把握していて、彼は防犯カメラで確認した。
しかし、二月七日の木曜日のことは初耳だった。
「それで、他の日にも来ませんでした、と訊くと、彼女は、その前の火曜日にも来た、と認めました。どちらの日も、被害者は部屋を見せてほしいと言ったそうです。それに彼女が了承すると、西側のリビングに行き、窓から外を見て、いい見晴らしですね、と言って帰ったそうです。それって奇妙じゃないですか? 一回目はともかく、二回目も、それだけで帰ったそうなんです。それと、彼女、すらっとしてて美人です」
来島も、彼女に一度直接会って話しをきいておこうと思った。刑事の勘にピンとくるものがあったのだ。
それで速水と一緒にエレベーターに乗り、八〇五号室に行き、玄関のドアのブザーを鳴らすと、ややあってドアが開き、きれいなかたちの卵型の顔があらわれた。その中の、くっきりとふちどられた涼しげな奥二重の目は、たしかに、美しい彫刻のようだった。そして、かわいらしくとがった顎が、ちょっとすねているかのようにも見える――。
彼女は、再び刑事がやって来たからだろう、驚いた様子だった。そして明らかに当惑していた。
が、来島は、「中に入らせてください。すぐ終わりますから」と言って、相手が何も言わぬうちから靴を脱ぎ上がりこんだ。それからリビングのほうへ進んで行く。
「あの男の人ですが、真垣康男という名前で多摩国際文化大学の教授です。ご存じですか?」
「いいえ、ただ、先ほど申し上げましたように、ここに二回来たことがあります」
「それで、部屋を見せてもらいたいと言って、このリビングから外を眺めたんですよね」
「そうです」
来島は、西の窓から外を見た。
このマンションの六階から上の階にある両端の部屋には、それぞれマンションの東の壁、西の壁から飛び出たベランダがついている。その内側は一面の掃き出し窓になっており、南側にもベランダがついているので、リビングの二方は全面がガラス窓になり、陽当たりもよく、このマンション群が小高い丘の上に建っているので、周りに障害物がなければ、素晴らしい眺望が目の前に開けている。とりわけ東の部屋からは、はるか先の新宿の高層ビルまでが見渡せた。
ただし、マンションの西側には多摩丘陵の山塊が間近にせまっており、西側の部屋からの眺望はそれほどでもない。
ところで、このとき速水は、リビングのグラストップのテーブルの上に電源が入ったまま置かれていたノートパソコンをのぞいていた。
彼女は、ちらちらと不安げなまなざしをそちらへ投げかけた。これから外出するつもりだったのか、彼女は白いワンピースを着ていた。服のうえからでも、彼女が均整のとれたすらりとした美しい肢体をしていることは見てとれた。
「それで彼は、いい眺めですね、って言ったんですよね?」
来島の問いに、芦水雅子は突然我に返ったように振りかえった。
「はい、そうですが」
その声は、自信がなさそうで小さかった。
「それで、この人は、昨夜殺され、このマンションの東の芝生の上で倒れているのを発見されました。昨日この部屋へは来ませんでしたか?」
芦水雅子はかぶりをふった。
「会ってもいない、と?」
「会っていません」
彼女は、少し語気を強めて言った。怒っているようにも見えた。
管理人室に戻ると、桜坂警部が新たな情報を得て待っていた。
まず、真垣の妻とはすでに連絡がとれていたが、発見された眼鏡とコートの写真を彼女に見せたところ、コートは、昨日の夜七時、真垣が出かけるときに着ていたものであり、眼鏡も、真垣が毎日使っているものだと認めたということだった。
そして、住人からの聞き込みで、真垣が背広からジャンパーへと着替えてマンションの入口の防犯カメラにうつっていた事情も判明した。
二週間前、二月五日にやって来たとき、真垣はまず宗教の勧誘員のふりをしたようである。二〇一号室の寺前静江がインターフォンに出ると、教職員証の写真と同じ男が、「直接お話しできないでしょうか」と告げたという。寺前が「今は忙しいので」と断ると、男は、「郵便受けにパンフレットを入れておきます」と伝えてから帰ったそうだ。後で彼女が郵便受けを見てみると、キリスト教系の教団のパンフレットが入っていた。
次に真垣はインターフォンで二〇三号室を呼び出した。二〇三号室の内島聡子が出ると、濃い色のジャンパーを着た、宅配便の配達員のような格好をした男が、「お荷物が届いているのですが郵便受けに入らないのでお届けにあがりたいのですが」と告げた。そこで内島はインターフォンから入口のドアを開錠し、配達員が来るのを待った。ところがしばらくすると、廊下から、二〇二号室をノックし「鈴木さん」と呼ぶ声がきこえてくる。内島聡子が玄関から顔を出すと、先ほどの男が、「部屋の番号を間違えました」と言って苦笑した。
その後真垣はジャンパーから背広に着替え、七〇五号室に行ったようである。その七〇五号室の湯ノ沢真子は、真垣はいきなり部屋の前に来てブザーを鳴らした、つまり、その前に彼とインターフォンでは話さなかった、と言っている。
「まあ、これで被害者が何をしていたのかわかりましたね」
来島は、皮肉めいた笑みを浮かべ桜坂のほうへ目を向けた。
「最初は宗教の勧誘員で、次が宅配便の配達員、これはマンションの中に侵入するためでしょう。郵便受けに入らない郵便物があります、と言ってしまうと、その郵便物を渡さなければいけません。そこで、まず宗教の勧誘員になって、不在の部屋を探すんです。それで不在の部屋が見つかると、そのとなりの部屋のインターフォンを鳴らし、ポストに入らない郵便物があります、と伝える。そして中に入り、不在の部屋のほうをノックするんです。となりの居住者は不審に思って顔を出す。ああ、さきほどは部屋を間違えてお呼びしてしまいました、と言えばすみます。でもこれは、単にマンションに侵入するためのトリックです。それから被害者は、背広に着替え、七階に行き、一番の西の七〇五号室から訪ねる。そして、部屋を見させてください、と言う。七〇五号室の住人は、不審に思ったが了承する。次に、七〇三号室に行く。七〇三号室の住人は被害者を中に入れなかった。そして、後から管理人に通報した。それから彼は八階に行き、一番の西側の八〇五号室に行く。彼はここでも部屋を見せてほしい、と言って中に入る。しかし、それ以後被害者は他の部屋を訪ねていないんです。まあ、彼の目的は明白ですよ。彼は、マンションの部屋を見たかったんじゃない。それに、もしそういう目的だったら、もっと眺めのいい、上の階や東端の部屋を訪ねたはずです。でも彼はそうしていない。つまり、彼は、八〇五号室の芦水雅子を探していたんです」
来島は語りながら、少し前に会った彼女の顔を思い浮かべていた。
幹部級だけが集まった最初の捜査会議が開かれたのは午前九時、それから十二時間がたった午後九時、この日の捜査を終えた捜査員たちが一堂に会し、二回目の捜査会議が開かれた。
まず確認事項として、以下の点が報告された。
――被害者は昨日、大学から帰宅した後、午後七時ごろ、妻に友人と飲みに行くと告げて出かけた。その後の行方はわかっていない。
――被害者の死亡推定時刻は昨日十八日午後九時ごろである。
――二〇一号室の居住者が、時計を見なかったので正確な時間はわからないそうだが、午前三時ごろ、外からどすんという物音がきこえてきた、と言っている。
――マンション北東角の階段の五階の踊り場で、被害者の眼鏡が、次いでマンション北側の西の芝生の上で被害者のコートが発見された。コートのポケットには、アイマスク、ロープ、ナイフ、ガムテープ、白い錠剤が入っていた。その錠剤は睡眠薬だと判明した。
次に鑑識課からの報告――被害者の死体の下の地面は、衝突の衝撃で少しへこんでいた。また、その地面の芝生には血液が付着していた。そして、被害者の右掌には木の棘が刺さっていた。殺されたときに抵抗し、何かをつかもうとしたか、手をこすったからだと思われる。鑑識課員は、ベニヤ板からではないかと推測した。
それから、マンションの構造について、かなり詳細な説明があった。
――まず、このマンションの一階には、中央の南側に出入口、その奥に二つのホールがあり、ホールの東側は管理人室になっている。一階の残りの部分、つまりホールと管理人室の両側は、駐車場になっていて、管理人室以外には住居は一つもない。
駐車場の車の出入口は北側の壁にそれぞれ一つ、そこからアスファルトの道路が、マンションの北側の道路に向かって伸びている。その道路の両側は芝生の広場になっている。ちなみに、真垣のコートが発見されたのは、一番西側の芝生の真ん中あたりである。
一階の駐車場は四方を壁に覆われているので、外からは、車はおろか人間も、北側の入口を通らなければ入れない。また、駐車場は地下にもつながっている。つまり、地下にもう一つ大きな駐車場がある、ということである。
次に南の出入口だが、まず大きなガラスの両開きの自動ドアがあり、その向こうに、左右に入居者の郵便受けが並ぶホールがある。西側の郵便受けは西側の部屋のものであり、東側は東側の部屋のものである。両方の郵便受けの奥の壁に、一台ずつインターフォンがはめ込まれている。また、このホールの奥の左右の天井に、一台ずつ防犯カメラが設置されている。
さらにそのホールの奥に、もう一つガラスの両開きの自動ドアがあるのだが、このドアは、インターフォンに暗証番号を入力するか、中の部屋から操作して開けてもらわなければ開かない。
そのドアの向こうはエレベーターホールで、左右に一基ずつエレベーターがある。東側のエレベーターの手前に管理人室の入口、西側のエレベーターの手前に階段の入口が開いている。エレベーターの奥の壁に一つずつドアがあるが、それは一階の駐車場に通じるドアである。このホールの奥にも防犯カメラがついていて、駐車場に続くドアと、エレベーターがうつるようになっている。
さて、次に上の階に行くと、まず一階と同じようにやはり中央にホールがある。ホールの両側にエレベーター、南西角に階段の出入口である。そしてそのホールの北側から左右に廊下が伸びていて、廊下の北側は、大人の胸ぐらいの高さのコンクリートの手すりになっている。したがってそこからは外の景色が見え、逆に外からもこちらが見える。
マンションの各部屋に行くには、この廊下をとおって行くことになるのだが、そのまま廊下を東へ、あるいは西へ進めば、マンションの北東角、北西角の階段に出る。これは非常用階段で、使えないことはないのだが、使う人は多くないと思われる。その階段も、コンクリートの手すりがついているだけなので、上り下りしている人間は外から見える。ただし、二階から下では手すりの上から鉄柵が天井まで伸びていて、そして一階の出入口には鉄の扉がはまっており、それは常時施錠されているので、外部からその階段に入ることはできない。
つまり、外部から二階の北側の廊下か、マンションの西側と東側の階段、あるいは二階の部屋の南側のベランダによじのぼり侵入するといった方法をとらずにこのマンションの中に入るには、南の中央の入口を通らなければならない、ということである。そこには防犯カメラが設置されているので、マンションの中に入る人間は、必ず防犯カメラにうつることになる。
それは地下の駐車場から直接中に入る場合でも同じである。地下からエレベーターで直接上の階に行けるのだが、地下の駐車場のエレベーターの入口にも防犯カメラが設置されているのである。また、各階の駐車場にも防犯カメラが設置されている。
ところで、このマンションの部屋はすべてが同じというわけではない。二階から五階までは一つの階に六部屋(六戸)が並んでいるが、五階から上では四部屋(四戸)になる。さらに、六階から十階までの東端と西端の部屋には、それぞれマンションの東の壁、西の壁から突き出たベランダがついている――。
と、ひと通りマンションの説明が終わったところで、次は、被害者の人間関係である。報告したのは中路という、とがった顎の細面に、両端がややつりあがった細い目がついている、嗅覚の鋭そうな刑事である。中路は、今日一日、真垣が勤務していた多摩国際文化大学に行き、その後いくつかの大学をまわって帰ってきたところだった。
「肩書きは、現代社会学部、社会学科、教授。大学のホームページの教員紹介では、労働問題、非正規雇用問題、新しい労働運動というような言葉が並んでいます。まあ、表の顔はそんな感じの社会正義の男なんですが、実は・・・・・・」
と言ってから、中路はその狡猾そうな顔をにやつかせた。
「女性関係でいろいろと問題があったようです」
刑事たちの顔に、何か含みのある笑みが浮かんだ。
「真垣は、教授という地位を利用して、何か便宜を与え、見返りとして体を要求するということを繰り返していたようです。それで、満沢貴子という真垣と同じ現代社会学部の準教授ですが、彼女は去年の四月に就任しています。そして満沢がそのポストを得ることができたのは、真垣に体を与えたからだという噂が立っているんです。専門は政治学だそうで、現在アメリカにいます。大学はいま春休みなんです。ということは、満沢にはアリバイがあることになります。次は、鵜原真美子、現在、町田学芸大学のやはり准教授。専門はフランス近代史。二年前真垣は多摩文理大学の教授でした。そこで准教授の募集が行われ、その選考が終わった後、鵜原が、自分が落とされたのは、真垣に性交渉を要求されたが、それを拒否したからだ、と大学に訴えてきたそうなんです。真垣は、落とされた腹いせで彼女はそう言っているだけだと反論し、証拠もないのでその後うやむやになったそうですが。そんな男なので、教え子の女子学生との良からぬ噂にも事欠きません」
「それに関連して、重要な証言が得られています」
八係の勝沼が語った。来島はすでに勝沼から報告を受けていたので、内容は知っていた。
「真垣がラインでよく連絡を取りあっていた女性がいて、名前は、樋波小夜子です。真垣のかつての教え子で、ときどきアルバイトをしているそうですが、現在は無職で両親と同居しています。それで、今日彼女からきいたんですが、もう真垣が死んだので隠す必要がなくなったからでしょう、実は、真垣は二日前、わざわざ彼女を呼びだして、もしかすると自分は十八日の夜のことについて警察の取調べを受けるかもしれないが、そのときは、彼女と一緒にホテルにいたと証言してほしい、と頼んでいるんです。しかも彼女に、交際相手をつれて新宿のダーティ・ハニーというホテルに行け、とまで指示しています。そして実際彼女はその交際相手をつれて、昨夜そのホテルに行っています。つまり、アリバイ工作なんです。真垣のコートにはナイフとロープとガムテープ、そして睡眠薬もありましたし、何か良からぬことを企んでいたことは明らかです」
続けて来島が報告した。
「真垣が狙っていたのは、八〇五号室の芦水雅子です。それは間違いありません。夫は京都経済大学の教授で、彼女より二十近く年上です。そして、週末にしか帰って来ません。真垣は、二月五日と二月七日の二回、彼女のもとを訪れています。マンションの住人の中で、二回真垣の訪問を受けたのは彼女だけです。真垣は他の住人にも部屋を見せてほしいと言っていますが、実際そう言って訪れたのは四人だけです。その最後が芦水雅子なんです。それ以後、彼は他の住人を訪ねていません。つまり、おそらく真垣は、殺された二月十八日にも、彼女に会うためにあのマンションに行った、と考えられるわけです。ただし、彼女は会っていないと否定していますが」
「しかし実は会っていて、その芦水雅代が殺した、と考えられるわけですか?」
今回の事件の捜査本部長となった山代基一警視・多摩警察署長が訊いた。
刑事課長の桜坂警部とは対照的に、頬骨の出たやせた細面に、ぎょろりとした眼、その上に眼鏡をかけた、むっつりとした馬を思わせる顔である。だが、その語り口には優しい響きがあった。
「いや、それはわかりません」
という来島の答えに桜坂警部がうなずく。
「それに真垣は十八日には入口の防犯カメラにうつっていませんからね。マンションの住人も真垣を見ていないと言っている」
が、中路刑事が、少し剣のある口調で答えた。
「それについては簡単に説明できますよ。アリバイ工作までしているぐらいですから、何か悪事を企んでいたんです。だったら、その前に防犯カメラにはうつりたくない、ってなりますよ」
翌日、その悪事がさらに明らかになってきた。
まず、真垣のノートパソコンから芦水雅子の写真が見つかったのだ。
インターネット上のどこかのサイトで彼女のプロフィールとして使われた写真のようだったが、それがどこのものなのかはわからなかった。
が、速水の勘が冴えていた。早速、それは出会い系アプリのものではないか、と言うのである。そこで刑事たちが手分けしてその手のサイトの運営会社に問い合わせていったところ、芦水雅子は少なくとも二つの出会い系アプリに登録している、とわかったのだ。
それをきいた来島は、すぐに速水を、再び芦水雅子から聴取するために送りだした。中路という狐目の刑事を同行させた。
そして、速水が出かける前に、次のような指示も与えておいた。
――出会い系アプリをとおして直接会いましょうとメッセージを受け取り、待ち合わせ場所に行ったのだが、相手があらわれなかった。そんな体験が芦水雅子になかったか、それを彼女にきくように、と指示したのである。
七階、八階の居住者のポストを調べている真垣の姿が防犯カメラにうつっていた、という話を管理人からきいたとき、来島はふと、真垣がそんなことをしていたのは、それ以前に真垣か誰かが芦水雅子を尾行し、彼女が住んでいるマンションを探り当てていたたからではないか、と考えた。それからその考えを心の片隅においていたのである。
そんなところへ、芦水雅子が出会い系アプリに登録していた、という情報が飛び込んできた。とすれば、真垣、あるいは別の誰かは、その出会い系アプリを使って芦水雅子のマンションを突き止めたのではないか――と思いついたわけである。
さらにその後、真垣のコンピューターを調べていた科学捜査官から、再び興味深い情報がよせられた。一見とりたてて珍しいことではないように思われるが、真垣はいくつかの動画サイトに登録していた。
ともかくその情報を受けて、八係の膳場が、動画サイトの運営会社に問い合わせ、真垣がよく視聴していた、たとえばお気に入りリストに入れていた動画を教えてもらった。それをきくと、今度はそのあらすじを調べていった。
その中に、『アンビリーバブル』というアメリカのドラマがあった。真垣はそれを繰り返し視聴していた。気になった膳場は、部分部分ではあるが、ドラマそのものを見てみた。興味深い場面があった。
それは、連続レイプ犯を警察が追いつめていくという刑事物のドラマなのだが、犯人は、女性の部屋に侵入し彼女たちをレイプするとき、フルフェイスのマスクをかぶり身元が割れないようにし、PCV手袋をつけ指紋が残らないようにし、さらには、行為の後で銃やナイフで彼女たちを脅してシャワーを浴びさせ、あるいは彼女たちの体を殺菌消毒剤で丹念に拭き、自分の痕跡を消すのである。
真垣が、ここから犯行の手口を学んだことは十分に考えられる。
「真垣がフルフェイスマスクやPCV手袋や殺菌消毒剤を購入した記録はなかったのか?」
来島は訊いた。
「いや、それは見つかっていません。ただ、一月二十九日にビデオカメラと三脚を買っているんです。それが奇妙なのは、真垣の妻は、真垣はすでにビデオカメラは持っていた、と言うんです。それで、昨日彼の部屋の捜索を行ったとき、その新しいビデオカメラはありませんでした。古いほうしかなかったんです。三脚も発見されていません」
それからしばらくして、今度は速水から連絡が入った。速水は喜々とした声で報告した。
「彼女、認めましたよ。二回目のとき、つまり七日に訪れたとき、真垣は、出会い系アプリのことは知っている、と言ったんです。そして、他の男性と同じように彼女とデートするにはどうしたらいいか、と訊いたそうです。それで彼女が、そんなことはしません、と拒否すると、彼女の夫に出会い系アプリのことをばらす、と脅したそうです。ただ、彼女が、だったらどうぞと言って再び拒否すると、真垣はあきらめて帰ったそうです。それから彼が殺された十八日ですが、やはりその日には真垣は来ていない、と彼女は言っています。それで、例の件ですが、彼女、やはりそういうことが一ケ月ほど前にあったと言っています。会ってほしいとメッセージが届いて、写真ではイケメンの男性だったので、新宿の喫茶店で会うことにしたんだそうです。でも相手の男性はあらわれなくて、仕方なくデパートで買い物をしてから帰ってきたらしいです」
来島が予想したとおりだった。
すぐにそのサイトの運営会社に警察から問い合わせが行き、イケメンの写真で登録し、芦水雅子にメッセージを送ったのは、やはり真垣だったことが確認された。
これで、真垣のとった行動がさらにわかってきた。
――真垣は、芦水雅子に会いたいとメッセージを送り、待ち合わせ場所として新宿の喫茶店を指定した。彼女はその喫茶店にやって来て待っていたが、約束した相手はいっこうにあらわれない。当然である。真垣は別人の顔で出会い系アプリに登録していたし、このときの彼の目的は、彼女と会うことではなく、彼女の住所を探ることだったからだ。
やがて彼女は待つのをあきらめ、喫茶店を出る。真垣はその後をつけていき、そして、彼女がマンションに入り、メールボックスの中を見たところまでを観察してからたち去る。
そして後日再び真垣が、彼女がどこの部屋に住んでいるかを突き止めるために、マンションのホールにあらわれることになった――。
この日の夜の捜査会議でも、真垣の女狂いぶりに焦点が当てられ、耳を傾けていた刑事たちの顔に、しばしば含み笑いがもたらされた。
来島は、改めて真垣が狙っていたのは芦水雅子に違いない、と強調し、真垣は彼女をレイプするつもりだったはずだ、と述べた。
「昨日も言いましたが、真垣が狙っていたのは芦水雅子です。そして彼は彼女をレイプする計画を立てていたと思われます。しかも、その後、足がつかないように、痕跡を消すような方法です。これは先ほどの報告からも容易に推測できることです」
来島の前に、膳場と中路刑事が報告していたのである。
「とすると、そういう動機で被害者はマンションに行き殺された、と見ていいのでしょうか」
山代署長が訊いた。来島が答えないうちに一人の刑事が質問した。
「真垣が何かそういう悪事を企んでいたのは確かでしょう。しかし、その計画と、彼の殺害は結びつくんでしょうか? それとは関係なく殺されたのかもしれません」
すぐに別の刑事が反論した。
「いや、コートのポケットにロープやガムテープやナイフが入っていたんだから、殺された日、真垣は彼女をレイプするためにマンションに行ったんだよ」
「そう思わせるために、犯人が入れたのかもしれない」
「だったら犯人はそれまでの真垣の行動を知っていたことになる。それに、真垣は十八日の夜のアリバイ工作もしていた」
ここで桜坂警部が口をはさんだ。
「真垣がそういう計画を立てていたのなら、芦水雅子の部屋へ行くはずですよね。しかし彼女は来ていない、と言っている。それについてはどう見ますか?」
「彼女には動機がある。出会い系アプリのことを夫にばらすと脅されていた。また、レイプされそうになったかもしれない」
と、先ほど、真垣はレイプするつもりだったはずだと主張した刑事が言った。
それに対して速水が答えた。
「鑑識の話では、真垣は殺された際に抵抗し、それで掌に棘が入ったようで、それはベニヤ板からだろう、ということでした。しかし芦水雅子の部屋にはそれらしい家具や内装はありませんでした。すべての部屋を見たわけではありませんが」
「いや、家具の裏とか、キッチンの戸棚やタンスの扉の裏とかはベニヤ板になっている場合が多いが・・・・・・」
「でも、普段からそちらを表にしていることはないと思いますが」
「私も今日彼女と話をしましたが、彼女の話は信じていいような気がします」
と中路刑事。
「まあ、ともかく、今日新たにいろいろなことがわかりましたし、それを考えると、早めに家宅捜索をしておくべきだと思いますね。彼女が事件に関与していないのなら、それならそれで身の潔白が証明されることにもなるわけですから」
山代署長が提案した。それがそのまま捜査本部の次の方針となった。
翌日、芦水雅子は躊躇することなく家宅捜索を受け入れた。だからといって鑑識課員にどやどやと踏み込まれるのを歓迎する様子ではもちろんなかったが、警察から家宅捜索を受けたことをマンションの他の住人や夫に知られたとしても――実際これだけ多くの警察関係者が出入りすれば他の住人は当然それに気づいただろうが――それはかまわない、というような態度だった。もっとも、彼女の夫はこの日も不在であり、夫には知られずにすむと、彼女は思ったのかもしれないが――。
その際、来島は、昨日速水が彼女からきいたことを、もう一度彼女自身の口からきいて確認するために彼女と話をした。
芦水雅子は言葉少なに答えた。きれいなかたちの小ぶりの顔の中の、くっきりとした切れ長の目が、冷ややかな視線で来島を捕えた。最初に会ったとき、彼女はおずおずしているように見えたが、このときは、内に強い意志を秘めた、芯の強い女性のように見えた。すっと出たいかり肩が、その華奢な小さい丸みで、威嚇しているかのようだった。
が、ともかく、十八日の夜のことに関して、彼女が嘘をついているようには見えなかった。
いっぽう、この日も引き続きマンションの住人から聞き込みが行われたが、十八日に真垣を見たという証言は得られなかった。警察は調査の範囲を近隣のマンションや都営アパートにも広げたが、やはり目撃情報は得られなかった。また、大学へは真垣の人間関係を探るために連日刑事たちが送り出されていたが、やはり収穫はなかった。
だからこの日の捜査会議は議題に乏しく、刑事たちの関心を引いたのは、鑑識からの追加の報告――真垣の死体の下の芝生に付着していた皮膚の組織と血液が、真垣のものだと判明した、それから、階段の五階の踊り場の少し下で採取された毛髪が、やはり真垣のものであると確認された――ということぐらいだった。
そしてその二日後、芦水雅子の部屋の科学鑑定の結果が出た。
リビング以外の部屋からは、真垣がいたという痕跡は見つからなかった。つまり、リビングの窓の桟と玄関のドアに彼の指紋が残っていたが、それは、真垣が、彼が殺された十八日ではなく、五日と七日の二回そこを訪れていた、ということで説明できるのである。
こうなると刑事たちの心証に、俄然、芦水雅子は白に見えてきた。
そしてそれに代わって登場したのが、芦水雅子はむしろ真垣をおびきよせるための囮だった、という考えである。それを率先して提唱したのは来島だったが、来島はさらに、真垣を殺した犯人は、芦水雅子をレイプするという真垣の計画の共犯者でもあった、と主張した。むろん真垣を自分の懐近くにおびき寄せ、そして殺すためである。
が、刑事たちの中には、その説に反対するものもいた。
――真垣の計画に共犯者がいたという証拠はまったくない。そもそも真垣が芦水雅子をレイプする計画を立てていたということも、そう推測できるというだけで、決定的な証拠があるわけではない。
来島はそれに対して、まず、これまでに判明していることから、真垣が芦水雅子を狙っていたことは間違いない。その目的は彼女をレイプすることではなかったかもしれないが、レイプだったと仮定してみると、いくつかの点で辻褄が合い、共犯者がいたことも推測できる。だから自分はその説をとる。そこで、それをもう一度説明すると、真垣はアリバイ工作をしていたぐらいだから、足がつかない方法を考えていたはずだ。アイマスクと睡眠薬とロープとガムテープは発見されたが、それ以外に必要だと思われる道具、フルフェイスマスク、手袋、殺菌消毒剤などは発見されていない、また、真垣が犯行に及ぶ前に殺されたと推測されるので、真垣がどこでそれを実行しようとしていたのかは不明だが、芦水雅子の部屋ではない可能性もある。たとえば、フルフェイスマスクをかぶって彼女の部屋に押し入り、ロープで体を縛り、顔にアイマスク、ガムテープで口をふさいで拉致する、という方法をとった場合、協力者がいたほうがやりやすい。また、車が必要になるが、真垣は車を所有していない。それらの道具は共犯者が用意していたのではないか――と説明した。
ただし、捜査本部は、真垣の協力者=真垣殺害犯説はいったん棚上げし、ここでもう一度、真垣の遺体がマンションの階段横で発見された、という事実から、それが可能な人物を絞り込み、かつ問題点を挙げていったらどうか、と提案した。もっとも、以前にもそういう議論は行われていたのだが――。
そこで順番に見ていくと――真垣が何らかの目的をもって芦水雅子を狙っていたのなら、彼が殺された十八日の夜、真垣はマンションの近くに来ていたと思われる。その決行日が十八日だったことは、真垣がその日のアリバイ工作をしているのだから、間違いないだろう。
だが、その日、マンションの近辺で真垣を見たという目撃情報は得られていない。
次に、真垣を殺したのはマンションの住人だったと想定してみる。真垣は殺された後、マンションの階段から投げ落とされたのだから、その前にマンションの中に入っていなければならない。ところが、入口の防犯カメラに真垣はうつっていなかった。
となると、犯人は、二階の廊下か東か西の階段から、ロープを垂らすか梯子を差しだすかして真垣を導き入れたことになる。二階の住人なら、南のベランダからロープか梯子を出す方法も考えられる。
しかしこれまでの捜査では、真垣とマンションの住人との繋がりはまったく見つかっていない。唯一の例外が芦水雅子なのだが、真垣が彼女の部屋で殺されたという証拠は、彼女の部屋を捜索しても見つからなかった。
次に、マンションの外部の人間が、真垣をマンションに導き入れた場合。今度は、真垣と犯人の二人が、防犯カメラにうつることなく侵入しなくてはならない。しかも、その後犯人は、マンションのどこかで真垣を殺さなければならない。外部から侵入した犯人が、マンション住人の部屋で真垣を殺したとは思えない。
いっぽう、真垣が外で殺され、死体となってマンションに運びこまれた場合。今度は犯人と真垣の死体の両方が、防犯カメラにうつることなく侵入しなければならない。やはり二階の廊下か、東か西の階段から侵入することになると思われるが、高さは、最低でも五メートルある。死体をかかえて侵入するのに物理的に不可能な高さではないが、真垣が生きている場合よりも難しくなる。
いずれにせよ不可能ではないのだが、どの場合でも、クリアしなければならない問題がある――。
刑事たちはめいめいに自分の考えをつけ加えた。
「管理人室を通って侵入する方法もありますが」
「いや、だめだ。管理人室からホールへの出口は奥の監視カメラにうつっている」
ここで、一人の若手刑事が思いついたように話しだした。
「犯人はどこか他の場所で真垣を殺し、死体をマンションの東に運んできて置いていったとは考えられないでしょうか? 眼鏡と毛髪は、マンションの内部に共犯がいて、その共犯者に郵送し、共犯者が階段の踊り場に眼鏡と毛髪を置いておいたんです」
が、すぐに先輩刑事のダメ出しを食らうことになった。
「そりゃだめだ。真垣の妻が、真垣が家を出ていくときその眼鏡をかけていたと証言している。それに、真垣の死体は三階ぐらいの高さから落とされたんだ。鑑識の報告にあっただろ。芝生に衝撃の跡があり、彼の皮膚の組織と血液もその芝生についていた。死体がどこかから運ばれてきたにしても、あの階段から落とされたのはたしかだよ」
「ちょっといいでしょうか」
と、これまであまり発言していなかった田倉という刑事が言った。
「犯人は、やはりマンションの住人ではないでしょうか? ただその根拠は、今まで出てきた話とは違うんです。まず、犯人はなぜ六階や五階からではなく、三階から死体を投げすてたのか? 高いところから落とせば大きな音がでる。だから三階あたりから落とした、ということが考えられます。しかし、犯人がマンションの住人だったと考えれば、違う見方が可能なんです。つまり、マンションの住人が殺したのなら、死体をマンションの外へ運びだしたいですよね。ところが、出入口には防犯カメラがついている。だから、東の階段から死体を外に捨てたんです。どの階から捨てるかはあまり重要ではなかった。ただし、高いところは避けた。音が大きくなるということもありますが、死体が損傷し、周囲に痕跡を残すからです。そして自分も二階あたりから飛び降りて外に出て、駐車場から車をとってきて、死体を乗せて運ぶつもりだったんではないでしょうか?」
「駐車場には防犯カメラがあるぞ」
「わかりました、じゃあ車は別のところに置いてあったことにしましょう。ともかく車で死体を運ぶつもりだった。ところが、それができなかった」
「わかった、新聞配達員か」一人の刑事が叫んだ。
「そうです、あのあたりでは午前三時半頃から新聞配達員がまわりはじめる。だから、犯人は、マンションの外へ出て死体を他のところへ運びたかったんですがそれができなかった。そこで仕方なく死体は放置したまま自分の部屋に戻った。すると、真垣のコートが残っている。だからあわててそれを北側の廊下から外へ投げすてた、というわけです」
刑事たちはうなずいた。それはうがった見方に思えた。
しかし、それは、マンションの住人が真垣を殺した、ということなのだから、やはり前述の、マンションの住人が真垣を殺した場合とまったく同じ問題にぶちあたるのである。真垣とマンションの住人とには接点がない、ということである。
その点から異論をとなえたのは桜坂刑事部長だった。
「私は、外部の犯人が他の場所で真垣を殺し、遺体をマンションの中に持ち込んで、階段から投げすてたという説をとりますね。そうやってマンションの内部の人物の犯行に見せかけたんです。根拠は、防犯カメラに真垣の姿がうつっていないということ、マンションの住人と真垣との接点がないということ、その二点です」
来島も、マンションの住人が犯人だとする説は支持できないと述べた。
「犯人がマンションの住人だとすると、真垣が芦水雅子の部屋を探しにマンションに来たことと矛盾します。だったら、彼女の部屋は何号室だと教えればいい」
「しかし誰かが死体を運び入れたなら大きな荷物を持っていますよね。そんな人物は防犯カメラにうつっていませでした。そうなると、死体を抱えて二階に侵入することになる。物理的に不可能ではないでしょうが、けっこうな高さです」
「いずれにせよ、犯人は十八日の夜に彼の近くにいたわけですから、真垣の近辺の人物に違いありません。彼の身辺捜査をさらに徹底することが必要です」と山代署長。
桜坂警部も、この際もうひとこと言っておこうと思ったのか、
「それと、私は前から何度も言っているんですが、真垣が防犯カメラにうつっていないこと、居住者からの目撃情報もないことが気になりますね。それがヒントになるような気がする・・・・・・」
そのときだった。速水が奇妙な提案をした。
「ちょっと思いついたんですが、領木蘭太郎という人に依頼してみたらどうでしょうか?」
「それは誰ですか」
桜坂警部が訊いた。
「僕もよく知らないんですが、探偵で、まあ、メインの仕事は浮気調査のようですが、でも、空島拓人というアイドル歌手が殺された事件がありましたよね、あれを解決したんです。今回の事件も、一階の出入口に防犯カメラがついたマンションですよね。あの事件も同じなんです」
とんでもない――来島は思った。
「私もさらに真垣の身辺を洗うことが必要だという方針に賛成です。そんなときに外部の人間を呼んできて意見をきいても得るものはないと思います」
「私も真垣の身辺をもっと洗うべきだと思う」
――やはり山代署長は心得ている。来島はそう思った。
ところが、そんな山代署長が、そう言ったはなから、速水の案にも興味を示したのだ。
「状況が似ているということですよね。だったら、そのなんとかという変な名前の人、話ぐらいきいてもいいんではないでしょうか」
というわけで、捜査本部長の鶴の一声で、海のものとも山のものともつかぬ領木蘭太郎という変な名前の輩が、呼び出されることになったのである。
二
応接間から、蘭太郎のくしゃみがきこえてきた。
こちら側の事務室で、僕と匹田さんは顔を見合わせた。
この領木探偵事務所では、応接間が、この事務所の代表の部屋を兼ねている。だから蘭太郎は、仕事で外出していなければいつも応接間にいるのだが、おそらくそこにいるときは、イヤホンをつけてゲームをしているか、何かの動画を見ているか、そうでなければ来客用のソファーの上で寝ているからだろう、応接間から物音がきこえてくるのは滅多にないことなのである。いや、むしろ、何か不吉なことが起こるという前触れなのではないか? あまりいい比較ではないが、川端康成の『山の音』のようなものである。
と、そのときである。――やっぱり来た。
応接間のドアがばたんと開き、長いわかめのような髪、ぎょろりとした大きな目、大きな鼻の、全身黒づくめの男が、その長い髪をゆらし、目をむいて、鼻をひくひくさせながらやって来た。
「僕は体質といい性格といいデリケートにできているから前から花粉症になるんじゃないかと思っていたけど、それと今日は暖かいから、花粉がたくさん飛んでいるのかもしれないけど、そうじゃないと思うんだよね」
と言ったところで、激しくくしゃみをし、受付のデスクの上にあったティッシュペーパーの箱からティッシュペーパーをとると、この事務所全体に響き渡るぐらいの音をたてて鼻をかみ、そのティッシュペーパーを丸め、僕の目の前に投げすてた。
それから、僕のほうをその大きな目でじろりと見て、
「友近君、最近応接間のエアコンの掃除してないよね?」
と訊くのである。
「ええ、ただ応接間の掃除は以前領木さんが自分でするからやらなくていいと言いました」
「いや、僕は応接間の掃除は自分ですると言っただけで、エアコンの掃除をするとまでは言っていない。やっぱりそうか。だからホコリが舞ってるんだよ」
そのとき、ちょうどいいタイミングで電話がなった。
僕は、この事務所で事務補助をしているアルバイトである。だから電話に出るのは僕の役目、ということで、受話器をとると、タマケイサツショノモノデスガ、という声がきこえてきた。名前は言わなかったようだが、警察署というのは聞き取れた。
「警察からみたいです」
僕は受話器の口を手で押さえ、蘭太郎に差し出した。すると蘭太郎は、
「警察? 警察? うっほ、やっと来たか!」
と叫んで、もう一回ティッシュぺーパーをとって鼻をかみ、それを丸めて再び受付のデスクの上に投げすてると、それから今度は両手をズボンの太腿のところでふき始め、なかなか電話に出ようとしない。
実は、以前こんなことがあったのだ。
世間を震撼させた事件だったので改めて説明するまでもないだろうが、四ヵ月ほど前、男性アイドルグループの中心メンバーが殺さるという事件があった。蘭太郎は興味本位でその事件を調べてみた。ところが、どういうわけか――そのときは匹田さんも協力したのだが――犯人のトリックを見破ったのだ。それを警察に進言し、それが犯人の逮捕につながった。だから警察から感謝の電話かメールぐらいは来るはずだと蘭太郎は思っていた。だが、そんなものはいっこうに来なかった。蘭太郎は、「本当は、今ごろは応接間に警察からの感謝状がかかっていてもおかしくないんだがなあ」としばらくのあいだ言っていたが、今ではそれも言わなくなった。そんなところへ、警察から電話がかかってきたのである。
「はい・・・・・・はい・・・・・・明日ですか? いや、明日は依頼人との面会がたてこんでいて・・・・・・え? そうですか、あ、間違えました、明日って、水曜日ですよね。木曜日だと思ってました」
――明日は木曜日である。
「明日が木曜日ですか? あ、でも大丈夫です、問題ありません。・・・・・・わかりました、行きます、行きます。では」
受話器を置くと、蘭太郎はニヤリと笑って、その浅黒い顔をほころばせる。
「警察から調査の依頼だよ。明日。友近君、行くだろ?」
と僕に訊いたのだが、僕がまだ何も言っていないのに、
「匹田さんは、どうする?」
と奥の机にいる匹田さんに呼びかけた。
匹田さんは、右手の人さし指を毛糸の帽子に突っ込んで、それをくるくると回して言う。
「私はこれがありますから」
実は、匹田さんの頭には髪の毛がない。といっても、そこに眼光鋭い目がついているので、匹田さんの顔は、往年のユル・ブリナーのようでもあり、男の僕からみても――というのは褒め言葉になるのだろうか――格好いいと思う。
それで、匹田さんが毛糸の帽子を回して、これがありますから、というのは、それをかぶって外出する、という意味である。
仕事の依頼はここのところまったく来ていなかったのだが、ちょうど先週末、歯医者の夫の浮気を調べてほしいと依頼が来て、匹田さんが担当していたのである。ちなみに、匹田さんは元警視庁の刑事である。
それで、その歯医者は午後の休診時間を利用して愛人と会っているようで、匹田さんはここ数日、毎日午後になると調査に出かけていたのである。
でもこのとき匹田さんが行かないと言った裏には、別の理由もあるような気がした。――匹田さんは元刑事だから、現職の刑事と会うのはいやだったのではないだろうか。
そんなわけで、その翌日の午後、僕と蘭太郎は多摩ニュータウンの一角にある、ヘブンリー多摩という名前のマンションにやって来た。
先方は管理人室で待っているということだったので、玄関のガラスの自動ドアを入った先のインターフォンで管理人室を呼び、来意を告げると、「今、行きます」との返事。ややあって、ガラスの向こうのもう一つのホールに四人の男があわれた。ひと目みて、刑事だとわかった。
まず、精悍な顔立ちの四十後半ぐらいの男がリーダーのようで、後から捜査一課から来ている刑事だと知った。となりの細面で優しい感じの目をした、前髪を突っ立てた若めのがその部下のようで、もう一人は、引退した力士のような、人の良さそうな五十前後だと思われる中年。最後の一人は、狐のお面に適量の髪をのせ、歳相応のしわを入れたような顔の、ギスギスした感じの男である。これも後で知ったのだが、名前は順番に、来島、速水、桜坂、中路である。
死体が見つかった場所に案内する、というので、再び玄関を出て、僕らは東のほうへ回った。このマンションの一階の壁は――玄関を出たところに生垣があり、その向こうに管理人室がある以外は――一面、光沢を帯びたグレーのタイルで覆われていて、中は駐車場になっているのだそうだ。その壁にそって進み、東の角を回り、今度は北へ向かう。マンションの影が、枯れた色の芝生の上におちていた。
少し行くと、マンションの北東角に、横向きに階段がついている。その階段の東側まで来たところで、精悍な顔立ちの刑事、来島刑事は、地面を指さし、ここです、と言った。――被害者の遺体が見つかった場所である。
それから来島刑事は、これまでに警察が知り得た、事件を解く鍵になると思われる重要な事実を説明していった。ただし、個人名に関しては被害者以外匿名で語った。
蘭太郎はききながら、ときどきマンションを見上げていたが、ふと上を向いてマンションの壁の上のほうを指さし、
「あのベランダは上にしかついていませんが、何か理由があるんですか」
と訊く。
「中の部屋が違うんです。上は部屋も広いですし、まあ、値段も違います」
と来島刑事が答えると、蘭太郎は、
「なるほど、格差社会を体現したというわけですか」
と言って一人で笑ったが、来島刑事は表情を変えずに話し続けた。
やがてその説明が終わり、すると蘭太郎は、何も言わずに階段の北のほうに向かって歩きだし、マンションの東側の壁、それから階段の東の側面から直線を伸ばしていったあたりに行って、こちらに向きなおり、それから上を見上げた。が、上を見たのは一瞬のことで、すぐに、じゃあ戻りましょうか、と言って南のほうを指さした。
今度は蘭太郎の後に、残りの五人がついていくかたちとなった。
マンションの南側は、他の周囲と同様に芝生の広場になっている。そこにベンチがいくつか置いてあり、蘭太郎はその一つに腰をおろした。
誰も彼のとなりには座らなかった。
「紙と何か書くものがありますか?」
蘭太郎がたずねると、太った刑事、桜坂刑事が手帳をとりだし、ページをちぎってペンと一緒に手わたした。
蘭太郎はその紙の上に、このマンションだと思われる細長い長方形を描き、そのとなりに、もう一つ長方形を描いた。南側の都営住宅のようである。
「あそこの、六階か五階の部屋だと思います」
と言って蘭太郎は持っていたペンで、その南側のアパートを指さした。白い吹き付けの塗装が、風雨にさらされてだいぶ汚れている、階段の両側に部屋があるタイプのアパートで、階段の両側に窓が縦に並んでいた。
「あのあたりの六階か五階の部屋に、真垣さんと犯人がいたんです」
狐目の刑事、中路刑事が何か言おうとしたようだが、来島刑事と目を合わせて、それを思いとどまったように見えた。蘭太郎は続けた。
「どうしてそんなところにいたのか? 真垣さんは、あるいは犯人は、このマンションに忍び込み、ここの上のほうに住んでいる女性を襲うか拉致するか、そんな計画を立てていたんですよね? だとしたら、いきなりマンションには忍びこまないでしょ。二階の北側の廊下によじのぼったら目の前のドアが開き、住人とはち合わせ、なんてことになったら困りますから。だから、あの南側のアパートから偵察していたんです。あそこから見ると、こちらのマンションの全部の部屋の南側の窓が見えます。電気がついているかいないかで、中の住人がいるのかいないのか、まだ起きているのか寝ているのかがわかります。そしてカメラ付きのドローンを飛ばして偵察する。犯人は、いずれドローンを使う予定でしたので、ドローンは用意してあるんです。ドローンを飛ばして、侵入する場所を探り、それからターゲットの女性の部屋も偵察する。その女性は、このマンションの上の階の西の端の部屋に住んでいるんですよね。このマンションの西のほうは、あのように山がせまっている。つまり、そちらには人目がないということです。だから彼女は夜になっても西側のカーテンを閉めないかもしれない。とすれば、ドローンを飛ばせば簡単に観察できます。それと、もしかすると、犯人がドローンを飛ばし、逐次真垣さんに電話を入れ、真垣さんに指示を出すことになっていたのかもしれません。といっても、実際にそんな偵察を行ったわけではありません。偵察なんて何もしていないんです。つまり、それは真垣さんをあのアパートの部屋に呼び寄せるための口実です。まず偵察をしてから例の計画を実行するから、あそこへ来い、というわけです。ところで、犯人は、ドローンで他にも面白いことができると真垣さんに言っていたかもしれません。例の女性は夜になっても西側のカーテンを閉めないかもしれないわけですよね。だとしたら、風呂から出てきて下着のまま、ワイン片手にリビングでくつろいでいるなんて光景が見れるかもしれない。しかも美貌の、すらりとした美しい女性です。生唾ごくりというもんでしょ」
と言って蘭太郎は実際喉をならして見あげたが、そこにあったのは僕らの神妙な面持ちだけだった。なんだ、つまらない、というような表情をしてから蘭太郎は続けた。
「もちろん、これも実際にやったわけじゃない。犯人は、そういった口実で、真垣さんをあの部屋に呼び寄せたんです。それで真垣さんはあの部屋にやって来る。そして犯人は彼をすぐに殺したんでしょう。あとはマンションとこちらのアパートの住民が寝静まるのを待つだけです。その間に、死体をくの字に曲げ、ロープにひっかかりやすい角度にしておきます。さて、ここからがドローンの本当の出番です。あの部屋には、軽くて丈夫な長いロープとドローンが用意してあります。ドローンは大きいものと小さいものが二機。最低でも大きめのものが一機必要です。というのは、長いロープを運んでいかなければならないからです。そこで、ロープの一方の端はあの部屋の柱かどこかに結びつけておき、もう一方をドローンに結びつけ、あの窓からドローンを飛ばします。ドローンはこちらのマンションの屋上へ行き、そこには、ここからは見えませんが、避雷針があり、その土台はコンクリートになっています。それからドローンをその避雷針の西から北に回るように飛ばします。でもそのままこちらのアパートに戻すのではなく、十階のベランダと九階のベランダの間を通すんです。ロープの通し方では他の方法もあるかもしれませんが、そんなふうにするのは、こちらから放した死体がマンマンションに衝突しないようにするためです。ともかくそんなふうにロープを通しながら、ドローンをこちらのアパートの部屋に戻す。それでドローンを戻したら、結びつけていたロープをほどき、今度はそのロープで大きな輪をつくる。死体がひっかかったまま落ちないと困るので、大きな輪でないといけません。また、その輪の大きさが変わらないような結び方にしないといけません。それからその輪に死体をひっかけ、あの部屋の窓」
と言って蘭太郎は再び南側の都営アパートを指さした。
「六階か五階の窓から死体を放す。死体は振り子のようにあちらのアパートからこちらのマンションに飛んで来て、ロープは十階のベランダと九階のベランダの間を通してあるので、ベランダの南端に来たときに、ロープは九階から六階のベランダの端に引っかかり垂直になります。死体は最下点に来て、そこで振り子の半径が変わり、今度は小さい半径で上へ向かっていきます。ロープの角度が水平に近づいていき、死体がはずれやすくなるんです。速度も落ちるので遠心力が低下します。それで、北東角の階段の三階あたりの高さにきたときに、死体がロープからはずれたんです。そして下の芝生の上に落ちた。たまたま犯人とって都合のいい場所に落ちたんですが、そうでなくても、たとえば、もっとこちら側に落ちたとしても、犯人にはそれなりに工作ができた。ドローンで真垣さんの眼鏡を運んでいって、マンションの東や南のベランダに置くことができるからです。ともかく今回の場合は、死体は北東の角の階段の東側に落ちた。次はロープを回収します。ロープの一端はこちらのアパートの部屋に結びつけておいたわけですから、引っ張ってたぐり込こんでいけばいい。そうやってロープを回収したら、再びドローンを飛ばし、真垣さんの眼鏡と髪の毛を、マンションの階段の五階の踊り場に運ぶんです。そうすれば、死体は五階より上の階から運ばれてきて、階段の三階あたりから投げ落とされたように見えます。マンションの防犯カメラに真垣さんはうつっていなかったんですよね。でもそれは当然です。彼はマンションへは一歩も入っていないんだから。犯人もマンションへは入らなかった。だから犯人の姿も防犯カメラにはうつっていないんです。しかし犯人は、あたかもマンションに侵入し、マンションの北の階段から死体を投げすてたかのように見せかけることができたんです。もちろん、以上のことは、僕がそう推測したというだけです。ともかく、あの部屋ですね」
と蘭太郎は言って、再び南側のアパートを指さした。
「あそこを調べてみるべきだと思います」
刑事たちは、最初に蘭太郎があらわれたときから、この長髪の、怪しげな風采の男をうさんくさそうに見ていたが、それは今彼が話していたときでも変わらなかった。わけても来島刑事は、そんなことはあり得ない、とでもいうように首をふり、皮肉めいた笑みをしばしば浮かべていた。
が、蘭太郎から、あそこの部屋を調べるべきです、と言われると、刑事たちは、いけすかない体育教師に柔道場へ行けと言われた高校生のように、しかたがないというような様子でそちらへ向かって歩きだした。
蘭太郎もついていくのかと思ったら、ベンチに座ったままである。僕はどう言葉をかけていいのかわからず、黙っていた。すごい推理だと思ういっぽうで、話がうまくいきすぎているようなところもある、というよりも、ありすぎる――。
だいぶ西に傾いてきた太陽から、弱い光がさしていた。芝生の広場には、欅の木だと思われる落葉樹がまばらに植えられていた。黒く、細い裸木は、みすぼらしく見えた。
十分ぐらいして、速水という若手の刑事が、渋い表情を浮かべて戻ってきた。
「あそこへ行ったんですが、まず、五階の東側、そこには中国人の夫婦が住んでいます。ですが、日本語がわからないのか、わからないふりをしているのか、話が通じません。そのとなりは空室で、鍵がかかっていて最近使った形跡がありません。それから六階の東側には七十代の夫婦が住んでいるんですが、どう見ても関係なさそうです。そのとなりは八十代の女性で、ここ二週間ほど静岡に住んでいる娘のところに滞在していて不在です。それで今、それぞれの部屋を見させてもらっていますが、ドローンもロープもないようです・・・・・・」
「あ、は、は、は、辻褄が合うとか、合理的だなんていっても、それが事実とは限らないという好例に出会ったということでしょう。僕は驚きませんよ」
と蘭太郎は言うものの、妙にそわそわしだした。
「被疑者とか、関係者とかの情報は教えてもらっていませんし、僕にできることはこれだけです。だからこれで失礼させていただきたいと思います」
と言って、立ち上がった。
速水刑事は驚いたような表情を見せたが――それでいったら僕も驚いたが――蘭太郎は速水刑事の前を通りすぎ、そこで軽くお辞儀をして、南の、ヘブンリー多摩と都営アパートとの間にある道路に向かってすたこら歩いていく。
雇い主が帰っていくので、僕もついていくほかなかった。失礼します、と速水刑事に声をかけ、蘭太郎の後を追う。
が、道路に出たところで、蘭太郎はふと立ち止まり、くるりと向きを変え、「ちょっと待ってて」と僕に声をかけ、速水刑事のところに戻っていった。蘭太郎は速水刑事と短く言葉を交わしたが、何と言っているのかはわからなかった。
その後、今度は本当にヘブンリー多摩を後にしたのだが、最後の会話はやはり気になる。だから帰り電車の中で、僕は蘭太郎に、速水刑事に何と言ったのか、と訊いてみた。
すると返って来たのは、こんなすげない答えである。
「僕がロープとドローンの仮説を披露したとき僕のことを笑っただろ? だから教えない」
「いや、笑っていませんが」
「いや、心の中で笑っていたはずだ。まあいいや、自動車の所有とかレンタカーの使用を徹底的に調べたほうがいいって言っただけだよ」
「自動車の所有? どういうことですか?」
「自動車だよ」
蘭太郎は、その大きな浅黒い顔を僕のほうへ向け、ニヤリと笑うだけである。
警察から連絡が来たのは、それから一週間後のことだった。
蘭太郎に直接連絡が行ったようで、僕と匹田さんは蘭太郎から、重要な容疑者が見つかった、と知らされた。応接間のソファーに腰を沈め、脚を組み、僕と匹田さんを目の前にしてそれを語る蘭太郎は、どことなく得意げだった。
ともかく蘭太郎によると、その最重要容疑者というのは、都内のいくつかの大学でスペイン語を教えている教師だった。警察はまだ逮捕に至っていないという理由で名前を教えてくれなかったので、とりあえずXとしておこう。
警察は当初、Xと真垣とは顔見知り程度の関係だと把握した。Xは真垣が勤務する大学にも出講していたが、真垣は現代社会学部の教授、いっぽうのXは複数の学部の一年生にスペイン語を教えるだけのアルバイト講師で、二人を知る教員によれば、以前教員たちの飲み会があり、Xを知る教員がXに声をかけ、Xも参加することになり、たぶんそこでXは真垣と顔見知りなった、それだけですよ、ということだったからだ。
だがXは、一月末から二月上旬までに四回、真垣と電話で話をしている。その直近は二月十日だった。警察はXに説明を求めた。
するとXは、自分はアメリカのメキシコ人移民について研究していて、二月二十一日から現地調査でアメリカに行く予定である。そこでその前に、やはりアメリカで研究したことがある真垣と相談したのだ、と答えた。Xを知る教員、真垣を知る教員のそれぞれに確認してみると、前者は、Xが二月二十一日からアメリカに行くのはその通りで、だからXの言うとおりだろう、と言い、そして後者も、たぶんそうだろう、と語った。
それに、真垣にメールを送ったり電話で話したりしていた大学教員、しかもX以上に頻繁にそうしていた教員は他にもいた。
そんなわけで、警察は、早々にXを容疑者リストから外してしまった。その後は、Xはアメリカに行ってしまい、Xから話をきくことはできなかった。
だがXは、真垣に対して怨恨を抱いていた――はずである。
Xは去年の春、突然Y大学の授業五コマを失った。事の発端は真垣だった。
しかし大学関係者の多くは、それに真垣が関与していたことを知らなかった。だからその事件は、警察の耳には届かなかったのだ。
真垣には、六年前に彼のゼミを卒業し、それから関西の旧国立大学の大学院に行って博士号をとった女性の教え子がいた。彼女はスペイン内戦を研究しており、スペイン語を教えることができた。真垣は、彼女に仕事を与えたかった。そこで、Y大学のスペイン語主任に連絡し、彼女を採用できないだろうか、と打診した。スペイン語主任は、真垣に何か弱みを握られていたのか、言われたとおりにした。Xには、Xの授業はわかりくい、それなのに評価が厳しすぎると学生から苦情が来ている、と理由を伝えた。Xは、自分は以前から同じように授業をしており、今年になって突然そういうことを言われるのはおかしい、と抗議したが、大学は、学生から苦情が来ているのは事実であり、もう教授会で決定している、と言って取り合わなかった。
Y大学のスペイン語主任は、後に警察から聴取を受けたとき、真垣からは彼の教え子を採用してほしいと言われただけで、代わりにXを首にしろとか他の誰かを首にしろとかという指示は受けなかった、と供述した。しかもそのような口利きがあったからXを雇い止めにしたのではなく、それは、単にXの授業の評価が悪かったからにすぎない、とも述べた。しかし、本当に真垣は代わりにXを首にしろと指示しなかったのか、かやの外にいるXにはわからない。逆にその雇止めの理由として、学生からの評価が悪かったという説明しか受けなかったので、それがかえってXの猜疑心を刺激したとも考えられる。
ともかく、翌年度の時間割を見れば、新しく採用された教師の名前はすぐにわかる。さらにその教師の出身大学やかつての指導教官も、調べようと思えば簡単に調べられる。おそらくXは、それを調べた。そして真垣のことだから、自分の教え子に大学の教職を与えたいというのとは別の動機もあった――とXが想像をたくましくしたとしてもおかしくない。
いや、たとえ真垣の動機が単に教え子に仕事を与えたかっただけだったとしても、この仕打ちはXには許せなかったに違いない。真垣の専門は、非正規雇用労働者の労働環境である。彼は日頃から、非正規労働者を守る制度が必要だ、と訴えていた。そんな男が、きわめて個人的な理由から、非正規労働者であるXから仕事を奪ったのだ。
それに思い至ったとき、Xの中に殺意が生まれた。――警察はそう見ている。さらに警察は、Xの両親、Xの高校時代、大学時代の友人に聴取し、Xは、見た目は穏やかだが、性格は粘着的、加えて復讐心が案外強いということも突き止めた。
だが警察がXに注目したのは、Xが巻き込まれたその事件を知ったからではない。それは後からわかったことだ。
きっかけは、調査の範囲を広げ再度調査したことだった。
警察がXに少しでも嫌疑をかけていたなら、Xの所有する自動車を調べたはずだ。だが警察は、Xを早々に容疑者リストから外していた。だからXの自動車についても調べていなかった。――実は、蘭太郎の進言もそれだったのだ。つまり、蘭太郎はあのとき、自動車の所有、とくにトラックを所有していないか、あるいはレンタカーの使用、とくにトラックを借りていないか、それを徹底的に調べるべきだ、と進言したのである。
たしかに警察は、それまでも自動車の所有やレンタカーの使用は調べていた。そしてその自動車には、当然トラックも含まれていた。しかし関係者は誰も犯行時間にレンタカーを借りておらず、自動車を所有していたとしてもそれは皆普通自動車だったので、警察はトラックにさほど注意を向けていなかった。が、蘭太郎の提言もあり、というよりも、手がかりがなければ調査の範囲を広げ再度調査するのは捜査の鉄則だからだが、警察は、関係者の枠を広げ、改めて自動車の所有とレンタカーの使用を調べてみた。すると、これまでまったくのノーマークであったXが、二トントラックを所有しているとわかったのだ。大学の教師がそんなものを持っているのは奇妙である。しかも、Xは、住んでいるアパートから離れたところに駐車場を借りていた。警察は、とにかくその駐車場に行ってみた。
すると、たしかに、アルミ製の箱型の荷台がついたトラックがとめられていたのである――。
さて、Xはアメリカに行ってしまっており、警察はまだXに接触できていない。したがってXがどのように真垣を殺し、どのように死体を運んだのか、本当のところはわからない。
しかしXの所有するトラックが発見されたことにより、警察はおおよその犯行の手口を推察することができた。以下は警察が思い描いたその筋書きである。
――Xはまず真垣に声をかけるのだが、もちろん、Y大学での雇止めの発端が真垣だったことには気づいていないふりをする。こんなときに真垣を糾弾したところで、この、もっと重要な計画が早々に頓挫するのがオチだろう。だからXは、真垣に対する恨みはおくびにも出さない。むしろ真垣教授を私淑する、若き未熟な研究者のふりをする。
そこで、まず真垣に声をかける。――出会い系アプリを使って不倫をしている人妻を探しだし、夫にばらすと脅せば、通常の方法では拒否されるような相手でも、先生のものになりますよ。(実際にこんなことを言ったのかどうかはわからないが。)
真垣先生は飢えた鯉のようにその餌に食いついた。そして、Xのアドバイスに従って、偽の写真で出会い系アプリに登録する。それから二人で候補を探していくと、格好の対象が見つかった。しかしXが彼女を選んだのは、むろん真垣とは違う理由からだった。彼女の住んでいるマンションが、Xの計画にとって好都合だったのだ。
次にXは、真垣を女の住むマンションに送りだす。Xにとっては痛快なことに、真垣はにべもなく拒絶された。
そこでXは、真垣に、だったら彼女をレイプしてしまえばいいんです、犯行が発覚しないようにできます、真垣先生、まかせてください、とそそのかす。彼女の体をどうしても味わってみたい真垣先生は、その口車に乗せられる。
決行の日は二月十八日となった。
その二月十八日、真垣がそれまでどこにいたのかは不明だが、ともかく真垣はXのトラックにやって来る。Xは、中を見てみますか、と言って、真垣を荷台の中に案内する。中には、マットレス、布団、毛布、枕、バスタオル、ティッシュペーパー、温風ヒーター、予備のバッテリー、ビデオカメラ、フルフェイスマスク、アイマスク、ロープ、ガムテープ、革製の手枷、ボールギャグ(玉猿轡)、PCV手袋、殺菌消毒液、睡眠薬、コンドーム、それから大人のオモチャと呼ばれる、その名のとおりおそらく子供には使用方法がわからないオモチャ等々、今回の計画に必要なものが入っていた(と思われる)。
真垣はそれを確認する。Xは背後から忍び寄り、彼の首をロープで絞めて殺害する。死体は寝袋か何かの袋に入れ、そのままそこに置いておいた。(実際袋に入れたかどうかはわからないが、後にトラックから出して運ぶときの便宜を考えて何か袋に入れたと考えらえる。)
その後Xがどこへ行ったのかはこれまた不明だが――おそらく自分のアパートに戻ったと思われるが――午前二時ごろ、Xはトラックに戻ってくる。トラックを運転し、ヘブンリー多摩に行くのである。もし真垣が生きていれば、女を拉致するために侵入するはずであったマンションである。荷台の中には、皮肉なことにその真垣の死体が入っている。
やがてそのマンションが見えてくる。まず東側の二車線の道路でトラックを止め、マンションの南側を観察する。部屋の灯りがついていないか、確認するためである。
幸いなことに、二階の部屋はどれも真っ暗だった。実際、後に警察から聴取を受けたとき、二階の住人たちは、すっかり眠っていたので気づかなかった、と答えている――ただし二〇一号室の住人だけが、どすんと物が落ちる音がした、と証言した――。
そして再び出発するのだが、ただし、ここからは、低速でトラックを進めていく。このトラックはハイブリッド車であり、低速時にはモーターで駆動する仕様になっているため、低速で運転すればエンジン音がしないのである。
マンションの北側の道に入り、もう一度トラックを止める。荷台の中から真垣の死体が入った寝袋を出し、荷台の屋根の上に乗せておくためである。
マンションの駐車場へ向かう道に入り、ゆっくりと進んでいく。
そして、マンション一階にある駐車場の入口にトラックの頭が少し入ったところで、トラックを停止させる。
そうすれば、地上から二階の廊下の手すりの上までは五メートルあるのだが、地上からトラックの荷台の屋根までの高さが三・五メートルなので、トラックの荷台の屋根にのぼれば、手すりまでの距離は一・五メートルに縮まるのである。(トラックを後ろ向きに駐車場の入口に寄せる方法も考えられるが、いずれにせよ、荷台の屋根は水平なので、マンションの手すりまでの距離が短くなることに変わりはない。)
大人ならさほど苦労せずに乗り越えられる高さである。
運転席側の窓に足をかけ、運転席の屋根にのぼり、そこから荷台の屋根にあがる(荷台の上へのあがり方に関しても、他の方法も考えられるが)。そして真垣の死体が入った寝袋を、まずマンションの手すりにひっかけるようにして置いておき、そうしておいて、自分が先に手すりを乗り越える。手すりの向こう側に渡ったら、寝袋をかつぎあげ、廊下を東へ進んでいく。マンションの東の階段をのぼって三階の踊り場に行き、そこで寝袋から真垣の死体を出し、眼鏡をはずし、死体を階段の手すりから外へ投げすてる。
次に寝袋は持ったまま階段をのぼって行き、五階の踊り場に眼鏡を置く。ついでに真垣の髪の毛を数本ばらまいておく。
あとは来た道を戻るだけだ。トラックに戻ったら、真垣のコートをとって西の芝生へ持っていき、運転席に戻ってきて、トラックをバックさせ、マンションから離れていく。やはり低速で進んでいくので、エンジン音はしない。ちなみにこのトラックは、バックする際に鳴る警告音、そしてハイブリッド車が低速発進時に発する電子音が鳴らないように細工されていた。後に警察が確認している。
話を前に戻すと、警察は、Xが借りている駐車場に行き、アルミ製の箱型の荷台がついた背の高いトラックを発見したのである。
トラックを取り囲んだ刑事たちは、この銀色の箱の中に、何か重要な証拠が入っているのではないか、と期待した。しかし荷台の扉を開けるにしても所有者はアメリカにいるのですぐに同意を得るのは難しい。だったら、ということで勝手に鍵を壊して扉をあけた。
何もなかった・・・・・・。
おそらくXは、証拠になりそうなものを処分したのだろう。刑事たちはそう推測した。
だが、処分できないものが一つあった。
この手のバントラックと呼ばれるトラックの箱型の荷台は、外装はアルミだが、内装は、ベニヤ板でつくられていることが多いのだ。