無機物
夜、一日の終わりに
洗面台で歯磨きを終えたあと
毛先がすっかり開いてしまった
変え時の歯ブラシを見て思ったんだ
こいつは、彼は、もしくは彼女は
今どうしたいのかなって
できる限り使い続けてほしいのか
それとも歯ブラシとしての役目を全うできなくなった今
もう身を引きたいのかって
こんな事を言ったら
そもそも彼が歯ブラシとして
生まれて来たかったのかどうかすら
分からないんだけど
そもそも使われたかったのかなって
きれいにパッケージされたまま
僕が買ったあの店の片隅で
々型の仲間と共に
ずっと並んでいたかったのかなって
彼のこれからの未来は
本来の使用目的を終えたあと
水回りの軽い掃除道具になって
お役御免なんだけど
本当はどうしたかったのかなって
幾ら思案を重ねた所で
ここから何かを新しい人生観を導き出す訳でも
新しい考え方に展開させられる訳でもないんだけど
思えば今の家には
そんなものが多くあって
一度読んだだけで本棚に眠っている漫画や小説
着なくなってタンスの肥やしになっている洋服
捨てるまでの処理が面倒で置きっぱなしの
一世代前のノートパソコン
これ等は適切な処理をすれば
新しい姿になってもう一度世界へ漕ぎ出せるものもあるのに
もちろん中には思い入れが強くて
手元に残しておきたいものだってあるけれど
彼らは
何を思っているんだろうって
もしも彼らが
何かを考えているのなら
彼らの望む幸せって
何なのだろうと