異文化交流
モウネルネ国の王女、ダフネが一人で海辺を歩いていると、男が倒れていた。
ダフネが介抱してやると、男は目を覚ました。
「ここは、どこ?」
「トヤマヌス海の岸辺よ。あなた、どうしてこんなところに? お名前は?」
ダフネが訊くと、男が頭を振った。
「わからない。何もかも、覚えてないんだ」
男はうなだれて、頭をかきむしった。どうやら記憶を失っているらしい。ダフネは可哀想に思い、慰めるように言った。
「そのうちに、きっと思い出すわよ。あせらないで。……私も、狩りをしていたら、みんなとはぐれてしまったの」
ダフネは優しく微笑んだ。ポケットから、ペットにしている小動物を取り出し、
「何か食べるものを探してくるわ。その間、この子たちと遊んでいてね」
そう言って、立ち上がった。
男は、小さな毛むくじゃらの動物を掌に乗せ、しばらくじっと見ていた。ところが急に、
「ぐお、ぐお、ぐるるる」
と唸り出し、口をあんぐりと開けると、その小動物をぺろりと食べてしまった。
「あ、なにするの」
ダフネは男を突き飛ばした。
突き飛ばされた男は、「ああ」と声を上げて倒れたが、すぐさま起き上がり、
「君こそ、なにをするんだ」
「私の可愛いペットを食べるなんて、ひどい」
ダフネが責めると、
「ペット……? あれって、食べ物じゃないの?」
男はきょとんとした顔をして、ダフネを見返した。
その顔を見て、ダフネははっとした。
「あなた、もしかして……、海の向こうの島に住んでる、ジャルル族の人なのね」
「わからない」
「きっとそうだわ。だから、あの子を食べたんだわ」
「ジャルル族の人は、あの動物を食べるのかい?」
男が尋ねると、ダフネは黙り込んだ。黙ったまま、男をじっと見つめた。
その視線に耐えられず、男は言った。
「君のペットを食べてしまったのは、悪かったよ。……でも、お互いに食べるものが違うのは、仕方ないよ。君たちにはペットでも、僕たちには、食べ物なんだから、それを咎めるのは、間違ってないかい?」
男は訴えるように言った。そうしてから、恐る恐るダフネの目を見返した。
すると、ダフネがにっこり微笑んだ。
「そうね。あなたが言うこと、よくわかるわ。私には可愛い子でも、あなたには食欲そそる食べ物でしかない。だから、その食欲を抑えられずに、あの子を食べたのね」
ダフネは、何度も頷いて、男に近寄った。そして、男の腕を捩り上げると、いきなり口をあんぐりと開けた。
「ぎゃあ」
ダフネのあまりの形相に、男は叫び声を上げた。
「な、なにをするんだ」
「もちろん、私たちがいつもしていることを、するのよ」
ダフネはなおも口を大きく開けた。これでもかと、大口を開け、男をぺろりと食べてしまった。
「やっぱりジャルル族の男って、最高だわ」
ああ、美味しかった、と言うと、ダフネはその場を立ち去った。