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 愛しい人の声が聴こえた…。


 と思ったと同時に閉じた瞼に眩しい光を感じて目を覚ますと、すぐそばに今日も麗しい二の宮様が居た。


 ……なぜ?


「うさぎ!目が覚めたか?気分はどうだ?」


 当たりを見渡すと見慣れぬ部屋に見慣れぬ女房達。ほっとしたという顔で身を乗り出してくる宮様に、ぼんやりと回らない頭でとりあえず疑問点をぶつけてみる。


「ここは何処でしょうか?」

「私の邸の北の対だな。」

「私は何故ここにいるのでしょうか?」

「私の北の方になったからだな。」

「………は?」



 北の方とは正妻の事ですね。はい。


 …なんだろう?これは夢か妄想の世界なのだろうか?

 あの誘拐事件で気を失って…ってそうだ!

 急いで起き上がろうとするも、身体に力が入らず(しとね)に突っ伏す。


「まだ起きない方がいい。二日も寝込んでいたから身体が弱っているんだ。」


 宮様に甲斐甲斐しく(ふすま)を掛け直されて額を撫でられる。

 ええ、徐々に思い出して来ました…。

 もしかしなくとも私と二の宮様は、なんやかんやあってすったもんだの末に想いが通じ合ったんでしたよね?

 恥ずかしさのあまり衾に顔半分埋めて目だけで宮様を見つめると、こちらが蕩けんばかりの笑みをくれる。


 ゆ、夢だきっと…!


 私はまた意識を飛ばす事になった。



 ****



 それから、宮様のお邸でお世話になる事数日。ようやく起き上がれるようになり、日取りも良いからと風呂に入り髪を洗ったりして人心地ついたある日の昼下がり。

 少納言にざっくり切られた髪を揃えようという事になった。

 誰か女房がやってくれるのかと思っていたらなんと、二の宮様自らがやってくれるという。

 申し訳ないので必死に辞退したら、これも権利だからと言い張って聞かない。

 なんの権利か分からないが仕方なくされるがままになっていると、中将が邸に来たという報せが入った。


「日暮れまで…いや、明日の朝まで外で直立不動で待たせておけ。」


 相変わらず身も凍る中将への対応。

 そんな事は中将もお見通しなようで、先触れの女房もそっちのけで軽やかな足取りが近づいてくるのが聴こえる。


 主の許しも待たずに御簾内までズカズカ入り込んできた中将は次の瞬間、私の目の前に滑り込んできて頭を床に激しく擦りつけた。


「うさぎ様申し訳ありませんでしたぁぁ!!」


「…え、何ですかコレ気持ち悪い…。」


 中将様は変態が進みすぎてついにおかしくなってしまったのだろうか?

 いつまでも平身低頭の姿勢を崩さない中将に困り果てて二の宮様に助けを求めると、


「そのままにしとけ。コイツあの時もっと早く助けられたのに、俺に灸を据えるつもりでギリギリまで出て来なかった最低野郎だから。」


 と、しれっと言いながら「千尋、千尋」と言祝ぎの言葉を唱えながら私の髪を整え続ける。

 中将は烏帽子(えぼし)がすっ飛んで行くのではと心配になる勢いでガバっと頭を上げ私に訴えかける。


「だぁって宮ってば、うさぎが攫われたと分かるやいなや、なにも相談無しに一人で飛び出して行くんだよ?

 それでカッコ良く助けられるならまだ良いけど、あんな風に無様に捕まって自分も危険に陥るなんてアホだよアホ。こっちは堀川殿と連携したり今上に報告した上で、急いで二の宮の事も追跡しなきゃだしで本当ぉぉぉに大変だったんだから!」


「……要するに、中将様は宮様の安否を本当に死ぬほど心配したので、以後はこんな危ない真似はせずもっと私を頼ってくれよ!…と言いたいのですね?」


 中将様の気持ちすごく良くわかる。助けに来てもらっておいて何だけど、一人で来るなんて無謀だと思ったもん…。


「二の宮様が思ってる以上に周りの人間は貴方様の事を大切に思ってる。という事ですよ。」


 そう言うと、宮様は切れ長の目を丸くして、やがて照れたように顔を逸らし呟いた。


「中将、悪かったな。文も残して置いたし、お前なら最終的に全て上手くやるだろうと思ってたんだ。」

「なるほど、宮様は既に中将様に全幅の信頼を置いているという事ですね。愛ですね〜。さすが鴛鴦(おしどり)!」


 少しでも空気を明るくしようとワザと茶化しておだてると、中将様も乗ってくれたようで、満開の笑みで二の宮様に向かって両手を広げる。


「宮!そうなんだね!さぁ、私の胸に飛び込んでおいで!」

「断る。火桶でも抱いてろ。」


 と、いつもの掛け合い?をこなしたあと、私が廃寺で気絶した後の事件の顛末を聞かせてくれた。



 船岡宮様は私が居なくなった後、少納言へ計画を中止するよう命を下すとともに、高倉入道の陰謀をお上に伝えるべく宮中へ向かってくれたそうだ。


 その陰謀というのが、廃寺で少納言が語っていた通り、私と二の宮を廃寺もろとも燃やし無理心中に見せかけ、その罪を東宮に着せ退位に追い込むというものだった。


 東宮が弟である二の宮を殺害するという話に真実味を持たせる為に、一年以上前から二人の不仲説を流布していたという。私が出仕する事になったきっかけである、東宮退位の脅迫文の犯人が二の宮であるという噂に始まり、朝顔の君が二の宮を装って白菊の君に通おうとしたのも、二の宮が東宮更衣内定の姫を横取りしたという噂を流すため。


 さらには、私が桐壺に通っていた時も、後宮で女を侍らすなど二の宮は東宮を蔑ろにしていると噂を立てていたそうだ。

 少納言と大江は船岡宮様に説得されて諦めたようで今までの事を自供。責任を取る形で船岡宮様は自ら少納言達と共に大宰府へ下ると仰っているとか。高倉入道は最後まで知らぬ存ぜぬを通したようだが、東国へ遠流の刑に処されることになったそうだ。


 そこまで語って、中将は真面目な顔をして私に向き直った。


「うさぎには今回本当に辛い思いをさせてしまった。こんな調子の私だけど、本当に申し訳ないと思っているんだよ。仁寿殿であの時うさぎと離れなければこんな事にはならなかったはずだからね…。守ってあげられなくてごめんね。私に出来る償いがあれば何でも言って欲しい。」


「中将様のせいではありません!少納言は私に狙いを定めていましたし、遅かれ早かれ事件は起こっていたんだと思います。結果的にちゃんと助けてくれたんですから感謝こそすれ謝って欲しいとは思っていません。」


 怖い思いも、痛い思いも沢山したけど、五体満足でさらには二の宮様と想いが通じ合って帰って来れたのだから結果的に幸せだ。


「なんとお優しいお言葉!流石うさぎだね!二の宮の北の方様ともなると、相当に肝が据わって…いやいや、菩薩の様な慈愛に満ちた方でないと務まらないからねぇ〜んふふ。」

「おい、庭の池に放り込むぞ。」


 また出た夢の続きの北の方設定…。

 意識を取り戻してから今日まで体を回復させるのに精一杯でつっこむ機会を逸していたのだが…。


「あの、その北の方と言うのは何かの作戦なのでしょうか?…まだ他にも東宮様を狙う輩が?私は何をしたら良いでしょうか?」


 何らかの理由で二の宮様に急遽結婚の事実が必要になったから私を据えた。目が覚めたらいきなり北の方なんて怒涛のような急展開など、そう考えるのが一番納得がいく。たとえどんな敵であっても二の宮様をお助けして東宮様を守らねば…!


 決意も新たに真剣な面持ちで二人に問いかけると、脇息(きょうそく)に身を預け、疲れたようなそれはそれは長い溜息を吐く二の宮様。

 そしてまた平身低頭に逆戻りした中将は突っ伏したまま檜扇で床をバンバン叩きながら肩を震わせて笑っていた…。


「仕方ないだろ…!うさぎはずっと寝たきりで何も出来なかったんだ…!!」

「そうだねそうだね!ナニも致さなくて北の方なんて言われても実感湧かないよねぇ!んふふふふ!」

「中将下品だ。未来永劫我が邸への出入りを禁ずる。」


 何だか分からない会話を繰り広げる鴛鴦に困っていると、二の宮様がそれはもう良い笑顔で笑いかけてきた。


「うさぎ、髪もほら綺麗に出来たぞ?もう体調も大丈夫だよな?」

「ええ…その…まだ本調子ではないですが…。」

「畏れながら申し上げます。お方様はちょっとした夜の運動(・・・・)ならば充分耐えられる程回復なさっております。」

「えっ?!」


 二の宮様の良い笑顔に何やら危機感を覚え、濁すように答えると、我が家から呼び寄せた古参の女房が澄まし顔で横槍を入れてきた。


「そうかそれは良かった。ではどうしてうさぎが私の北の方になったのか、今夜から三日三晩かけてじっくり教えてやるから皆もそのつもりで用意をしておいてくれ。」

「畏まりました。準備も調っております。」

「ちょっと!何のお話で…というか三日三晩て長過ぎませんか?!」


 私を置いてどんどん進む会話に慌てて、ひとしきり笑い終えた中将に助けを求めるように視線を送ると、中将はにやりと笑って立ち上がった。


「では私は、うさぎへのお詫びも兼ねて最高の三日夜の餅を用意して二人に贈るとしよう!まぁ、君達は既に八晩共にしちゃってるけどその辺は気にしないとして…さてさて、そうと決まれば早速手配をせねば。という訳で失礼するよっ!露顕(ところあらわし)にももちろん出席するからね〜!!」


 そう言って来た時と同様、先導も付けずにるんるんと我が物顔で帰って行った。



「三日夜の餅…!露顕…!!」


 中将の言葉で二の宮様の言う三日三晩の意味がようやく分かった。

 三日夜の餅と言えば、正式な夫婦となる二人が三日続けて夜を共に過ごし、その後に食べる餅の事。そしてその(のち)、親族やらを招待して正式に結婚した事を披露するのが露顕(ところあらわ)しである。


 遊びの恋などではなく、きちんと妻として位置づけてくれるという事。しかも住まいは北の対という事は、正妻である事の証。


 二の宮様は私を本当に正妻として迎えてくれるという事…のようだ…。


 嬉しさと恥ずかしさで急激に顔や耳に熱が集まるのが感じられる。


「ほら、顔も耳も真っ赤だ。」


 甘い声で耳許で囁かれ、倒れそうになりながらも、差し出された鏡を見ると、少納言にぶつ切られた所を上手く利用して見事な鬢削(びんそ)ぎが整えられた私が写っていた。


 今までは耳が見えるのが嫌でなるべく隠れるような重たい髪型にしていたのだが、何段も作られた鬢削ぎで顔周りがスッキリして、心なしか大人っぽく見える気がする。

 でもこれだと動くたびに耳が見え隠れして恥ずかしい…。

 私が耳許をしきりに気にしていると、


「うさぎの可愛い耳が見えやすくなったな。我ながら素晴らしい出来栄えだ。」


 そう言って満足気に笑む宮様。



 嫌で仕方なかった大きな耳も、かつて自分を苦しめた聡耳も、宮様が喜んでくれるなら…宮様の為になるなら許せる気になるのだから不思議なものだ。



 幸せそうな顔をして鏡に映っている自分から目を離し御簾の外を見やると、私の二の宮様への想いと同様にこんもりと降り積もった雪が、陽の光を浴びて眩いくらいに輝いていたーーー



 終

ありがとうございました。平安時代風でやりたかった事これでもかと詰め込みました(自己満足)


この後プチざまぁを1話追加します。

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