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使い魔はドラゴンです。  作者: 江田 豆子
第一章
5/6

特殊なんです。


ステラはその肩に小さくなったドラゴンを乗せ、彼のお墓を目指していた。

隣には念の為、担任のネイルも一緒だ。

と言うのも、現在ドラゴンは魔力も体もドラゴンの赤子同然で、襲われたら一溜まりもないのだとか。


昨日の昼間はあれだけパタパタ飛んでいたのに、今日は人が通るとステラの髪に隠れるような仕草を見せる。

それも仕方が無いことだった。


ドラゴンは言った。


自分は誰かに狙われている、と。



「んっしょ、…ふぅ、着いたよー」


「おう、じゃあここを掘れ!」


「はーい」



急遽昨日執り行われたドラゴンの火葬に立ち会ったのは、ネイルと学園長のみ。

この場を知っているのも現在ステラを含め、そのたった3人だ。

情報は極力漏れていないと思いたい。

要は、既に掘り返されて骨が盗まれていないことを願っている。

もしなかったら…犯人は自ずと二人に絞られるのだが。



「地の精霊様、どうか力をお貸しください。」



ステラが両手を地面につける。


「対価としてこのトピの実を授けます。存分にお受け取りください」


ついでに袋いっぱいの果実も魔法陣の中に置き、呪文を唱えた。

すると魔法陣は瞬く間に淡く光り始め、土の中がボコボコ音を立てる。

どうやら精霊様の力を借りることに成功したようだ。


お目当ての場所に到着すると、地の精霊は地中で発掘作業をしているのかと言いたくなるほど地面に盛り上がりを作り始めた。

そしてものの数分で、ズボンッと白い骨を土の中から吐き出したのである。



「よし、あったか!」



ドラゴンは自分の骨に飛びついて喜ぶ。


簡易的だが棺桶のようなものに入れていたはずなのに、骨だけで出てきた。

地の精霊様にドラゴンの骨を出してとしか念じなかったのがいけなかったんだな、とステラは後に反省した。

棺桶はきっとぶっ壊されたのだろう。


ドラゴンは土にまみれた骨になんの躊躇もなく噛み付いた。


これにはネイルもびっくり。


「何してるんですか!?」と思わず質問すると、「食べてる」などと平気な顔してのたまう。


いやだから、何で食べてるのかを聞いてんのよ。


ネイルは段々ドラゴンへの遠慮が無くなってきていた。



「これがあれば、もうちょいマシな体になれるからさぁ」


「えー、その姿のドラゴンさん可愛いのに…」


「うるせー小娘」



バリバリバリ、まるで煎餅を食べているかのように軽快な音を立て自分の骨を食すドラゴン。

「お茶」と言われステラは「はい」と自分の水筒を手渡す。


教え子がこの光景に全然動じていない。

むしろ嬉しそうにドラゴンが骨を食べる姿を見ている。


ネイルはステラの行く先が少し心配になった。



「ゲプッ、はぁもう無理かな。残りは晩飯に食うわ。小娘、これ包め」


「うん」



腹を撫でながら、その辺の小枝でシーシー牙の間をほじくるドラゴン。まるでオッサンである。


ステラは精霊に出してもらった骨を欠片も残さず拾い集めた。



「おい地の精霊、骨の残りカスはお前らにやる。さっさと自分たちの養分にしちまえ」



ドラゴンは地面に向かってそう吐いた。

すると掘り返されたその場所が、さらにボコボコと蠢く。

魔法陣もひかず、対価も支払わずに精霊が言うことを聞くなんて…ネイルは唖然としたのだった。



「言ったろ、オレの体には価値がある。…精霊にもな」



ドラゴンがニヤリと笑った。


その体躯は先程より一回り大きくなっていた。







※ ※ ※ ※ ※ ※








「ただいまー」



ステラが自分の家に到着すると、ドラゴンはパタパタと部屋中を飛び回った。

小さな体を活かして、ありとあらゆる隙間を調べてまわり、ネズミや虫に追いかけられてプチファイヤーを浴びせる、といった動作を小一時間繰り返した。

家の中を魔法で盗聴盗撮されていないか、確認していたのだとか。


ゼェハァ息切れするドラゴンにお茶をだし、ステラはじっと彼を眺める。



「ングッ、ングッ、…ブハッ!…ん?なんだ小娘、何見てる」


「んー、ほんとにドラゴンさん、生き返ったんだなぁと思って」


「転生な、て・ん・せ・い」


「てんせい?」


「そうだ。前の体の一部さえ残ってりゃ、オレたちは何度でも転生できる。ただし、それは“ホワイトドラゴン”だけの特権だけどな」


「ホワイト、ドラゴン…」


「別名、蘇生ドラゴン。不死のドラゴンとも呼ばれてる。まぁ、治癒系がとんでもなく得意なドラゴンとでも覚えとけ」


「おぉぉぉ!」



鼻息荒く興奮しきった表情で、ステラはドラゴンを見つめた。

キラキラしたその瞳が、更に気分を良くさせる。

ドラゴンは仰け反らんばかりにまた胸をはった。



「加えてホワイトドラゴンはドラゴンの中でも数少ない希少種だ。故にオレサマは貴重!特に転生してまで主の元に戻るなんて稀なんだぜ!だからオレに感謝しろよ小娘」


「わー!ありがとう!実はやっぱ弱っちかったんだなとか思ってごめんなさい」


「…なんだと?おまえオレが頑張って生き返ろうとしてる間にそんな事思ってたのか!?」


「だって…馬に負けたから…」


「違うって言ってんだろうが!あの馬車は普通の馬じゃなくてスレイプニル!高位の魔物だ!オマケにオレは魔法で動けなくされてたの!オレが弱いんじゃないの!わかった!?」


「でもでも、やっぱりよわ…っていうかドラゴンさん口調変わったね。ジジ臭くない」


「そりゃ生まれたてだし歳もチャラになったから…って、今ジジ臭いつったかおまえ」


「言ってない」


「嘘つけ言ったろ、やっぱ弱いも言いかけたろ」


「言ってないってば」


「じゃあこっち見ろよ!」



ゲシゲシッ

小さなあんよでステラの腕を蹴りつけてくる。

痛くないわけじゃないが、ドラゴンと会話出来る今が楽しくてステラは笑った。

今朝まで沈みこんでいた気持ちが嘘のようだ。



ホワイトドラゴン


不死のドラゴン



その血肉を食した人間は不老不死を手に入れられると信じられているようで、通常ドラゴンの血は人間に毒だがホワイトドラゴンの血は別なのだとか。


人間に狩られたせいで個体数が減ったとも言われているが、実際のところ転生を繰り返せるドラゴンが人間ごときに淘汰されているはずもなく、

ただホワイトドラゴン達の間で、個体数を増やさないことを定めただけだそうだ。


「オレらみたいなのがバンバン生まれたら、世界の秩序が乱れるからな」


ドラゴンは意外と周りをよく見ていた。

自分たちが人間からどう思われているかも理解している。

力を持ちながらそれを振り翳さない。

実はそこらの暴君な王様より頭のいい種族なのでは、とステラは思った。



「それより、明日は学校行くんだろ?」


「あ、うん」


「じゃあ早く飯食って寝ろ」


「…ドラゴンさんも」


「嫌だ、もう抱っこはさせてやらん」


「う~、なら枕元に、」


「オレをぬいぐるみ扱いすんじゃねぇ」


「やだー!おーねーがーいー!一緒にねてー!」


「あーあーうるせー!尻尾にぎんな!」



ブンブン尻を振って嫌がるドラゴンに、ステラは今日、自分がどれだけ絶望し後悔したかを語った。

トドメは「一緒に寝てくれなきゃもうお酒は飲ませない」の一言。目頭に涙をいっぱいためてグスグス鼻をならせるとドラゴンは気まずそうな表情で、


「…くっそ、今日だけだからな!」


折れてくれた。


ステラは満面の笑みで頷く。


そしてドラゴンを抱え、一人にしては大きすぎるキッチンへと足を運んだ。


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