文具発明家
※このお話に登場する文具は全て架空のものです。仮に現在、過去において同様のものがあったとしても何の関係もございません。偶然の一致とご理解ください。
小さい時からかわいい文具を集めるのが好きだった私は、大学を卒業して文具発明家となった。まあ、実際は不景気で、つぶしのきかない美大出の女子大生の私にとって就職先がなかったたけなんだけど・・・。
文具の発明家と言っても、資格があるわけでなく収入はほとんどゼロに等しい。コツコツと手作りしたものをネットのフリマソフトで細々と販売していた。極貧生活は辛い。
「うぅー!お腹が空いた。君たち、もちょっと売れてくれないかなー。でないと私、極貧ダイエットで餓死しちゃうんだけど」
私は一人、机の上に並べた発明品達に愚痴をこぼした。その中の一つを手に取る。
「プニプニ定規くん。君なんて優等生だと思うんだけど。この手触り。癒やされるわー。定規を使って測ったり、線をひいたりって緊張するのよね。そんな時にこのプニッてする感覚は何とも言えないでしょ。ただ、柔らかくて真っすぐ測ったり線が引けないのが欠点だけど・・・。はあー」
ため息をついて別のものを手に取る。
「フラーワー付箋さん。花びらが付箋になっているなんて乙女チックだと思わない?恋占いをしながら伝言を伝えられるのよ。好き、嫌い、好き、嫌い、好き、嫌い。あっ!花びら、六枚だった。失恋しかしない・・・。はあー」
二度目のため息で次のものを手に取る。
「訂正スタンプくん。ふふっ。傑作だわ。間違えた場所にポンと押すだけ。定規が無くても簡単に二重線が引けるのよ。修正液や修正シートみたいに書類を汚すより、いさぎがいいと思わない。しかもこれ、単なる線じゃないのよ。拡大してみるとマイクロ文字で『間違ってごめんなさい』って繰り返し書いてあるんだから・・・。はあー」
三度目のため息。
「ふふ。あなたは失敗作。鉛筆サイズのスリムノートさん。市販のノートをカッターで一行分切り取っただけのもの。ペンケースに入るノートのつもりで作ったけどどうかしていたわ。一回の授業で使い切っちゃうし、後で見返すのが面倒だってクレームが殺到・・・。はあー」
ピポーン。
「あっ。フリマアプリに注文が来た。久しぶりだ。嬉しい!」
私はスマートフォンを取って注文を確認した。
「んっ?スリムノートを百冊?何かの間違いか?コメントが書いてある。どれどれ」
『一言日記として使っています。一言なので三日坊主の私でも続けられました。ペンケースにしまって直ぐに出せるのが良いですね!友達に教えたら、一言つぶやくSNSみたいだって。私も欲しいって喜んでいた。なので友達の分も合わせて注文します』
「へーえー。なるほどねー」
ピポーン。
「おっ!またスリムノートの注文だ。彼女の友達がSNSにあげてくれたんだ。ふーん。今どきの女子高生ネットワークだね!」
ピポーン。ピポーン。ピポーン。ピポーン。ピポーン。
「ええー。たて続けに注文が・・・。信じられない」
その後は狂ったかのように注文が殺到した。いつの間にかネット動画で紹介されている。私は嬉しい悲鳴を上げてホームセンターにノートを買いに走った。一晩中、ノートをカッターで一行分づつに丁寧に切り分ける。腕がだるい。まめができた。
「うわっ!注文メールが五十万件?全てスリムノート・・・。はあー」
無理だ。絶対に作れない。私は友達に連絡をとって量産体制に入った。行き付けのホームセンターでは足りず、近隣の文具店のノートを全て買い占めた。ブームを聞きつけたマスコミが殺到し、スリムノートさんは文具界の人気スターに!
大手工場との量産契約を済ませた直後だった。ライバル業者から類似品が大量に出回った。しかも、あっちの方がキラキラ表紙にキラキラスリム下敷き付き。
私は自分のスリムノートさんに書き綴っていた日記に、一言こう記した。
『負けました。だってあっちの方が、かわいいんだもの』
おしまい。
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