2話 羽衣 追人
俺は羽衣 追人、十一とまだ幼いながらにこの世界に嫌気がさしてきている。先日も父が最近力を付けてきている葉隠一族統領の息子二人と他の兵も何人かを殺して来た。
別に強い奴が勝つ世界は可笑しいわけではないが、その弱肉強食の世界に幼い子供までも紛れていると言う所に疑問が生じてきているのだ。
俺は三人兄弟の長男だが、いつこんな世の中だから弟達が殺されて帰って来るかも分からない。何なら先日父が殺した葉隠一族統領の息子二人っていうのもまだ兄や弟がいて悲しんでるかもしれない。
そう考えるとまるで白い布に墨汁でも溢したかのように『この世界』に段々と疑問と言う液が染み込んでくるのだ。 何なら戦場に幼い子供を巻き込む様な世の中にした大人たちに対して嫌気や苛立ちと言う液が染み込んでくる。
しかし一番その様な感情の液を染み込ませているのは『自分自身』なのかもしれない。
・・・数時間前
俺は次男の隆人と三男(末っ子)の隼人とのスリーマンセルを組んで戦場に出ていた。
「敵が兄者先頭と考え後方から3・4人程また、前方から5・6人程が攻めてくるけどどうしたらいい?」
「俺は前方の奴らをやる、お前等は後方の奴らをやれ・・・俺の方が終わったらお前等をバックアップしてやるから安心して修行通り戦え!!」
俺は隆人と隼人の頭をポンポンと優しく撫でてそう言い前方の敵に戦闘態勢を構えたが、俺は敵の異変に気が付いた
「!?貴様等・・・同盟を組んでいる吉良一族の者ではないか、敵だと思って思わず構えてしまったではないか」
「同盟ねぇ・・・それは上の方が勝手に手を結んだこと。俺等には関係ないね・・・ただ俺等は俺等の土地を増やすのみ、いちいち上の指図を鵜吞みに出来るかよ!」
「そうか・・・では隆人と隼人を生かせたままで良かったな」
と言い襲ってくる5人を華麗な体術で片づけた、そして奮闘している後方に素早く苦無(苦内)を投げつけ一人を片付ける。
また兄弟から俺の方に注目を向けた他の三人には石を顔に当たるよう投げ、もたついてる1~2秒の内に腰に差している短刀を抜いて三人の腹を一直線に掻っ捌く。
これで弟達も安全になった・・・と思った瞬間。
「先ずは一人目じゃてぇ」
後ろから大きな悲鳴と知らない奴の声が聞こえた。
丁度俺の後ろにいた次男の隆人の体に頭が無く、辺り一面に粘り気のあるまだ温かい血が飛び散っていた。
そしてその頭の無い弟の隣に知らない奴が立っていて、俺じゃなくてもう一人の弟隼人の方に刃を向けていた
「兄者ぁぁぁぁぁぁぁ!!助けて!!」
「気付くのがおせぇんじゃねえか?」
俺は弟を失ったことで一気に無力さを知ることになったんだ。
たかが一人も守れない。そして、
『俺は無力だ、俺が強くならなくちゃ誰も守れやしない、俺にとって大切なモノなんてすぐに目の前から消えちまうんだ、強くならなきゃ、強くならなくちゃ、俺が俺が俺が・・・大切なモノを俺の目の前から消えない様に!!!!』
と一瞬のうちに頭に流れ込み、俺の心に大きな濃い赤色の染みが付いた。そして感情の液が完成目前の漫画の原稿に流れ出るインクの様にドバっと流れ染みた。
そしてそれが俺を強くした。
「何故・・・だ?貴様が立っていた処からここまで5間(約10m)はあったはずなのに・・・」
俺は名も知らない弟を殺した男の懐に腕を差し込んで貫通させていた。
「己がどれ程うつけな事をしでかしたかあの世で悔いるがよい」
そうやって言いつつ男の腹から腕を抜き、隆人の死体を担ぎ一族の集落に向かって歩き出したのだった。
また、平和な世界を創ると言う夢のスタート地点から歩き出したのだった。




