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自動的なマシーン  作者: 森本泉
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去年書いた小説を大幅に加筆修正したものです。

テーマは「いじめ」です。

いつかマシーンが死んだら、この木の下に埋める。私はずっと昔から決めていたもの。一人では何も出来ない女だけど自分との約束は守る。破ったりなんてしない。

 私はお前を赦さない。お前が加害者になったとき、必ず私が制裁しよう。なんとしても私が。そう決めていた。それは、きっと十七歳の時から。

他の誰の手にも委ねず必ず私が断罪する。もしも子供を授かることがあったら、その時が来たら自分の手で始末する。

私は高校生だった。何が起きているのかは分かっていた。そして自分に何も出来ないことも知っていた。私は哀しかった。何か、自分に出来ることがないだろうかと考えていた。これはその時に思いついたこと。

必ず私が断罪する。もし自分の子供を授かったら。もしそのこがあいつらの様な自動的なマシーンになったのならば。私はお前を赦さない。必ず赦さない。赦してしまったら、あの時の悲しみと、憤りを私は無かったことにしてしまうでしょう。

もしお前が自動的なマシーンになってしまったら、必ずこの木の下に埋める。私は今日もこの木を見ている。買い物の途中に寄るのが習慣だから。近所の神社の、大きな木の下に私は居る。私はこの木がとても好き。

根の張り出した、その根にぎっしり苔の纏わりつく樹木。境内は涼しく空気が良い。 

この木は毎年五月に小さな花を付ける。私はその木の名前を知らない。知りたくて、図鑑で調べたけれど良く分からなかった。花は小さくてあいまいで、本に載っているものに似ているようであるし、全く違っても見える。

神社は小高い丘の上にあって、その丘そのものが古代の古墳だった、ということになっている。史跡として市が管理してる。古墳とされている盛り土の中に、どんな人物が葬られたのか、誰か知っているんだろうか。私は不思議に思っている。この土の中に埋まっている人も、ずっと昔は誰かに酷く憎まれたのか。

お社の周囲は、蒸せる緑。多くの木が入り乱れるように立っている。まるで砦の様に森は其処にある。五月が来ると木々は一斉に枝から生臭い息を吹いた。

 その息吹の中に木は花を付ける。青、と言っても赤、と言っても頼りない、紫というならなおのこと心もとない、何とも言えない微妙な色合いの花を付けた。

 小さな花が密集しているように咲いていて、不思議なことにいつまでたっても花弁は地に落ちてこない。

 いつまで咲いている。私が気になって様子を見に来ると、やはりあいまいな紫に枝を飾っている。

 そしてある日突然、何にもないただの樹木に戻っている。花はどこからかやってきて何処かへと去っていく。それが私の上に降ってくることはなかった。私はその花弁の行方がいつも気になっていたのだから。だからでしょう、この木の下にマシーンを埋めようと思ったのです。マシーンはきっと礎になる。この木のいい肥やしになって、そしてもっとはっきりとした、青なり紫なりの花を燃やすようになるでしょう。私はそれを見てみたい。

 私は必ず赦さない。佐藤くんがそうなったように、あの子も死んでしまえばいい。汚い泥に飲まれるみたいにして。自分のした事の意味を悔いて。

その日が来るのを私は待っている。それまで、ずっと家の中に置いて外の世界とは一切交わらせないと決めている。買い物袋を提げて木の下に立っている。


 それは大きな事件だった。私と同じ年のある女の子が、いじめを苦に自殺した。高校二年生の時の出来事だった。彼女は遺書を書いていて、そこに彼女をいじめた女の子たちのことが、実名で記されていた。死んだ女の子の親は、遺書を週刊誌に売ったのだ。

 そのために加害者の女の子たちの名前が、未成年に関わらず流出してしまった。

 大谷佳代さん、橋場綾子さん、木戸美穂さん、小谷理沙さん、自分たちのしたことはわかっていますよね? もうこんなことは止めてください。

 これが遺書の一番重要な部分で、全部が週刊誌の紙面に刻印されてしまったのだから、大騒ぎになった。

 遺書をリークした父親は、個人情報保護法違反と名誉棄損で立件されて、でも、実名が出てしまったからことが話題を呼んで、彼女たちの情報は瞬く間にネットの中にあふれた。保護者と学校には非難が集中して、脅迫文や偽装の爆弾が届いた。警備の手が入ると今度は最寄りの警察署に火炎瓶を投げる人がいたりして。あまりの事に厚生労働省が学校に捜査に入るという異例の事態に発展した。

一部始終を私はニュースで見ていた。朝、学校に行く支度をしている時、制服のリボンを留めながら、髪の毛を一つに結びながら。これはとても哀しい事なんだと思った。その思いで私は今でもマシーンを管理している。


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