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稲荷神社の妖達  作者: 朝凪
水鏡編
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頼れる強さ

真っ暗な中に取り込まれて辺りに手を伸ばす。けれど何も触れることはできなかった。この中に狗神君がいるはずだ。まずは探すことを始めようと一歩踏み出せば風景は百八十度変わった。


『あなたは誰?どうしてお供物を食べているの?』


『お供物なんて誰が食べても一緒だろう』


『それは神様のものだから、他の人が食べちゃダメ』


この光景はよく覚えている。狗神君に初めて会った日のことだ。彼は暗闇に隠れるように、体を蝕む病のように静かにけれど着々とお供物をひたすらに食べ続けていた。


『うるせぇな。どうせ捨てるんなら誰が食ったって同じだろう!』


見つかったことと食事を邪魔されたことに腹が立ったのか彼の声は次第に大きくなる。


『お、同じじゃない。それは神様のものだから』


それにここのお供物を準備するのは私の役目だ。ここで引き下がってはいけない。


『そんなにお腹が空いているなら私の家で食べればいいわ』


このままでは話しは平行線のままに終わってしまう。そこで妥協案として一つ提案する。幸い、今の家には自分と面倒を見てくれている使用人しか居ない。一人増えたところでどうということはないはずだ。


『お前、何言ってんだ?』


『だってそれが一番いいじゃない。貴方はお腹が空いている。私はお供物を食べて欲しくない。二つの条件が綺麗に重なるわ』


『お前は俺がどんな奴か知らないからそんなことが言えるんだ』


『知ったら言えなくなるの?』


『言えないな。むしろ邪魔だと捨てる』


何がそこに繋がるのか全く検討もつかない。


『そんなのおかしいわ。少なくとも今こうして話して私は貴方のこと一緒にいたいと思った』


『俺が一族を殺す妖・狗神だとしてもか?』


その名前には聞き覚えがあった。前から言われていた狗神という妖には気をつけろと関わったら最後一族ものとも呪われる。


『私には家族はいないの。お母さんもお父さんも死んじゃったの。だから、一緒にご飯を食べない?』


呆気に取られていたのは狗神君だった。きっと彼はここで私が退くと思ったのだろう。けれどそれとは逆のことが起きたのだ。私にとっても家族がいないということがこんな風に有利に働くとは思わなかった。そして、結局折れたのは狗神君の方だった。

そんな思い出に懐かしんでいると場面が一気に変わり、教室の中へとなっていた。


「懐かしかった?」


見慣れた制服に身を包み、狗神君は立っていた。


「うん、初めて会った日のこと今のでもよく覚えてる」


あれからは狗神君と一緒に暮らすことを使用人に話すとその翌日にやめていった。その者とも長い付き合いではあったが、どこか距離があるような感じでどうも打ち解けはられなかった。退職金としても急ではあったが多めに包み渡した。そして狗神君との二人きりの生活が始まっていった。


「もう一緒に暮らして六年になるんじゃないかな。途中から白雪や小豆ちゃんが来て賑やかになったよね」


そこから狗神君は何一つとして話すことはなく、まるで時間が止まっているかのように感じられた。


「……話してくれないかな?」


今回の件、神月さん以外にも大神君も知っている感じがした。そこの違いはなんだろうか。年齢であれば皆同じだし、性別に関して違いがあるようには思えない。


「本来穢れは分けて消費される。これは元々の仕組みとしてある者だ。誰が多いも少なきもない均等に。けれど誰がそれを拒否すればそれは誰かの負担になる」


「つまり、狗神君は誰かの分まで負担をしていたってこと?」


「そして、それはいつか主人へと牙を剥く」


それは私に危害が加わるということなのだろう。


「私が危険にならないように黙っていたの?」


「調子のいいやつ」


「え?」


「主人が水嶋さんじゃなくて神月さんなら良かったのに」


その言葉で全てを察する。狗神君が言いたいのは私の強さだ。覡町には私と神月さんを含めて六人の仕え人がいる。その中で一番強いのは神月さんで、私は下の方だ。私一人では神月さんには到底勝てない。


「というわけで、よろしく」


私が何も言わないでいると、狗神君は左腕を出していた。契約の証である、組紐が手首に巻かれた左腕を。その意味がわからないほどではない。狗神君が求めているとはひとつだけ。

破門だ。



***




二人が黒い箱に入ってからもう一時間は経とうとしていた。


「結界だからって暖かくなったりはしないんだな」


「家か何かを勘違いしてない?結界は内にあるものを守るためで保温効果とかないから」


「そんなんだけどさ、四時間近く外にいるとな」


寒さで指先の感覚は無くなってきた。仕方なく、普段から持ち歩いているブランケットを鞄から取り出して膝にかける。


「そんなに?」


「いま絶対俺のこと、男のくせにとか思っただろう。そういうの関係ないから」


「いや、むしろ。その柄を堂々と使える度胸を讃えるかな」


「な、ハッピーるーたんは可愛いんだ!」


俺の愛用しているブランケットはうさぎをモチーフにしたキャラクターで幼児向けに作られた番組のキャラクターだ。口癖は「みんなの大好き、るーたんに教えて」だ。物心つく前から今に至るまで俺は欠かさずに番組を見ている。


「大神が周りから声をかけられない理由がよくわかった」


「それ、俺に対する侮辱だぞ」


一体何が悪いというのかわからない。

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