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稲荷神社の妖達  作者: 朝凪
水鏡編
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囲まれた密室

あれから数日過ぎて期末テストも返却されて、あとは冬休みを残すのみとなっていた。クラスがそちらへと浮き出す中で、俺は一人取り残されていた。日に日に狗神の顔色が悪くなっていることに気づかないほど鈍感ではない。それは神月だけではなく水嶋さんも心配をしていた。


「何を聞いても狗神君教えてくれなくて」


その相談をしに稲荷神社に水嶋さんはやって来た。こんな状況下にいながらも狗神は黙秘を続けているようだ。もうこちらから何もかもバラしてしまいたくなる。


「水嶋さんは何が起きていると思うの?」


「感じ方からして悪霊に近い者な気がするけど、いくらあそこまで正気を保ってはいられないと思う」


そこまでわかっているのかと感心してしまう。それが巫女ゆえというところなのだろう。


「狗神に会いに行こう」


半ば強引に神月は水嶋さんの手を引いて市杵島神社に向かった。その途中で神月は何も話はしなかった。

市杵島神社に近づくにつれて俺の体調は悪くなってきた。それでも二人は何も感じていないのか平気な顔をして歩いていく。すると、前から酩酊歩行でくる人がゆっくりと近づいてくる。


「い、いち……か様」


「白雪!?どうしたの?」


怨霊に取り憑かれた時とは違い意識がはっきりとしているが、体力の消耗は激しく見える。


「穢れに触れたせい。多分ここ一体がもう穢れの塊になりつつある」


「私達は何も感じていないのに」


「妖は私達よりも影響を受けやすいってことだと思う。大神、白雪を連れて稲荷神社に戻って」


俺も弱ってきていることが分かったのだろう。確かに次第に呼吸が苦しくなってくる。


「嫌だ。俺は狗神の元に行く」


関わったからには見届けたい。幸い、俺はまだ歩けないほどではない。市杵島神社まであと三、四分といったところだろう。ならば無理をしても行きたい。


「仕方ない。フィズ、白雪を稲荷神社まで連れて行ってあげて」


潜んでいた影からひょっこりと出てきたフィズは神月と瓜二つの姿を成して、白雪のことを支えるようにして稲荷神社へと歩き出す。


「使い魔には影響出てないんだな」


「主人の力を貰っているからね。あとは、乖離せよ邪気から守れ」


術式をなぜ使ったのかは次の瞬間に分かった。


「苦しくない」


「簡単に言えば内と外。今の大神は四方八方を囲まれた密室」


前に手を伸ばせば確かに何か硬いものに当たった感じがする。


「でも完璧な密室じゃないの。空気が通るように隙間は空いている。でも、囲いがないよりはあった方が穢れには触れずに済む」


「なら先は急いだ方がいいよな」


「あまり無理をすると壊れるから気をつけて」


これには壊れる危険性が加味されてるのか。けれど、ここで止まっている場合ではない。神月の忠告を胸に留めて先を急いだ。

境内へと急ぐ中、明らかに穢れが強くなるところを感じた。そしてそちらに歩を進めると、全身を黒が覆い尽くして辛うじて姿が見てとれた。


「狗神」


興奮する声と怯える声を隠しながら、あくまで冷静を保って声をかける。


「大神……と、水嶋さん」


焦りと絶望を醸し出した表情は、なんとも苦しそうだった。


「狗神、一体何があったの?」


「来るな!」


近づこうとする水嶋さんを遮るようにして声を荒げて叫んだ。

そこから穢れが狗神自身を飲み込むかように黒い渦を巻きながら覆い隠す。


「伏せて!」


神月はガチャガチャのカプセルの下だけを手にしたかと思うと、それを上へと投げた。俺と水嶋さんは神月に守られるようにその場に伏せた。台風のような風と音。その中で聞こえた微かな声。


『ごめん』

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