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稲荷神社の妖達  作者: 朝凪
水鏡編
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歪んだ刃物

その日はそのまま狗神の容態も落ち着いたのもあって解散となった。


「神月、このままでいいのか?」


稲荷神社へと二人で戻る途中、俺は神月に問いかけた。


「少なからず、規約違反をした焔と炎には裁きを受けてもらうことになる。それは主人であるものも一緒」


「あいつらの主人って」


「火村燁、私達の二つ上の今三年A組の人」


俺はその名前に聞き覚えというか、顔見知りだった。中学時代、陸上部に所属していた俺は火村先輩に引退するまでの間同じ競技だったためよく面倒を見てもらっていた。人情に厚く正義感の強い人でみんなからは部長として慕われていたように思う。


「正義感があるのはいい。けれどそれは時として歪んだ刃物になる」


「歪んだ刃物?」


「例えば、自分の両親が目の前で殺された。そうしたらどうする?」


言われた状況を想像してみる。どうも現実が帯びない。けれど、月宮のことを思い出して答えを出す。


「その瞬間は何もできないと思う。けれど後からそいつに対しての憎悪が込み上げてくると思う」


今だってあの黒蝶という集団のロベリアとシレネという奴のことを忘れたことはない。そして今でも復讐心が揺らぐことはない。


「すぐに反撃を移れる人なんてそうそういない」


言われてみればそうだ。神月達と行動を共にするようになって麻痺していたのかもしれない。今なら怒りに任せて拳を振るっただろう。


「けれど全員がそういうわけではない。両親が死んで歓喜する者や感謝する者もいる」


「それが歪んだ刃物ってことか?」


「正義の反対は悪ではなく、もう一つの正義なんだよ」


どんなヒーロー者でも敵のキャラが出てきてそいつを悪として戦う。ヒーローは正義の味方として悪を倒す。けれど、敵にあるの悪とは何か。それが神月の言う悪ではなくもう一つの正義なのだろう。立場が違い見方が違うとそれだけでその人は自分にとっての敵になるのかもしれない。


「それにしても随分と突拍子もない話だったけど、どうしてこんな話を?」


「私の体験談だから。他にいい例えも出てこなかったし」


「は?」


言われてみれば神月の家族を見たことがない。不思議には思っていたが、触れていい話題でもないだろうからと何も聞かずにはいた。


「前に聞いたでしょう?なんのために戦うのか。私の理由は親を殺した相手に対する復讐のため」


俺と同じように復讐に心奪われた人がもう一人いた。


「それはやっぱりシレネ達なのか?」


「ううん、違う。けれど誰が犯人なのかはまだわかっていない」


犯人探しの途中ということだろう。

神月の家に着くと俺は玄関で神月と別れて居間へと向かった。そこには帰るのを待っていたかのように四季がお茶を入れてくれた。


「大神さん、お疲れ様でした」


「四季もありがとう。心配して起きててくれたんだろう?」


「まぁ、そうですね。基本的に私は待つしか出来ないので」


苦笑いしながら四季は向かいに座る。狗神の一連のことを掻い摘んで話してそこから神月の親の話をした。長年の付き合いの四季ならば何か知ってるのではないかと思ったのだ。


「雅様がその話をしたんですね。私から何も言うなと口酸っぱく言われているので何も言えないです」


「そうなのか?」


申し訳ありませんと四季は謝る。


「前に神月が他者を殺すことはできないんじゃなかったか?」


「そうですね、そこだけ話しておきましょう。雅様は確かに他者を殺すことを許されてはおりません。神の御前です。けれど巫女となる時に雅様は三つの契約をなさいました」


「三つの契約?」


「その中の一つにご両親を殺した犯人に対する殺害の許可というのがありました」


神はなんでもできるというが本当になんでもできてしまうのかと感心してしまう。


「けど、それなら犯人探しもそっちに頼めば解決だったんじゃないか?」


「そこまでおんぶに抱っこしてくれないです。犯人は自らの手で探し出すこと。もし間違った人を殺した場合、そのときは──」


思わず息を飲んでしまう。そのとき髪月はどうなるのだろうか。


「それこそ神のみぞ知るセカイですね」

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