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稲荷神社の妖達  作者: 朝凪
水鏡編
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愛宕神社の狛犬

俺は狗神を追いかけるようにして同じく外へと飛び出す。追いかけた先で狗神は蹲るように座り込んでいた。


「おい、どうしたんだよ」


背中を摩りながらそう問いかけるが、息を荒げていてそれに答えられる様子はない。

これではこの前のと同じ状況だ。とにかく神月へ連絡をとも思うのだが、この前のやつを読んで以降会話もほとんどしていない。けれど迷っている時間はもうない。夏麻にバレるが仕方ない。


『夏麻、神月に繋いでくれ』


夏麻は何にも聞かずに返事をせずに神月へと繋いでくれた。


『大神?どうしたの』


『緊急事態だ。今すぐ市杵島神社の蔵の前まで来てくれ』


それだけを伝えると俺はすぐに切ってしまった。その間も俺は狗神のそばに居座った。


「無様無様」


「哀れ哀れ」


いまのこの状況を嘲笑うような声の方を向けば、四季と同じくらいの背丈が口元を着物の袖で隠すようにして二人立っていた。

夏麻と冬歩と同じように双子のように見えるが、なんといっても感じが悪い。互いに白髪の耳にかかるくらいの短髪で目ものとアイラインはこれでもかと赤色で濃くされていた。


「お前ら誰だ」


このタイミングでまた黒蝶なら、完全に不味い。せめて神月が来るまで間に合えばいいのだが。


「炎と焔」


「狗神、知ってるのか?」


苦しながらも狗神は教えてくれた。


「愛宕神社の狛犬だ」


「愛宕神社」


聞き覚えはあるがあまり詳しくは知らない。市杵島神社よりは南にあることくらいしか俺の頭にはない。行ったこともない。


「君は狗の神だ。ならば同族の犬からの妬みや穢れは君が受けるが当然だ」


「あたし達は慎太郎様に仕える清き美しい狛犬。穢れを被るなんてあたし達のやることではないの」


なんだか話がややこしくなってきた。今回の狗神の件に関係があることだけはわかる。それがどう関わっているかまではわからない。

敵ではないけれど裏切り者という言葉が今のこの二人にはよく似合う。


「怖い怖い」


「恐ろしい恐ろしい」


「お前らがここに来たのは、苦しむ狗神を嘲笑うためか?」


「いいえ違いますね。無様に死にゆく姿を楽しむためです」


「哀れに野垂れ死ぬのを見るためです」


一種の見せ物を楽しむ観客のような。ライブ前の高揚感にも似たような感じをはらんで二人はいた。こんな頭の狂った奴らの主人がいるだなんて。ここで狗神を死なせることもこいつらに負けるわけにもいかない。その時音が微かに聞こえた。俺は来る衝撃に備えるために狗神から離れずに庇うように前に出た。そして、それは辺りに土埃を立ち上がらせながら現れた。


「狗神!」


「間に合ってよかった」


「悪魔悪魔」


「邪魔邪魔」


明らかにあちら側の態度が変わった。都合が悪くなったこの感じがする。けれど今戦わなければいけないのはこいつらではない。追っ払わなければいけないが、神月が来たことで優勢の風はこちらに向いている。


「炎と焔か。妖同士での争いは令状で禁止しているはずなのに何しているの?」


「争いなんてしてない」


「戦ってなどいない」


「じゃあ、なぜ狗神を取り囲んで嘲笑う?罰は主人と共に受けてもらう」


神月は自ら武器を抜くことはしないが、いつでも戦うという気を持って二人と接する。それを見てなのか、主人という言葉でなのか二人はそれ以上煽ったりや罵倒はしなかった。


「怖い怖い」


「恐ろしい恐ろしい」


「……傀儡せよ、我が命に準ぜよ。平伏せ」


二人の逃げるのが一歩遅かったため。神月の術式に従うように反抗することはするされずに言う通りに地に平伏す。


「どんなことを言ったって口を割る気は無さそうだから、こちらも強行手段に出ます」


神月は二人に近づくと、目の前に膝をついて座りそれぞれの額に手を合わす。

両方の手から違う記憶を読み取る。二人それを防ぐことなどできず、それどころか身動き一つ取れずに横たわる。


「二人がしたことよくわかった」


神月が術式を解いたのか、二人は何も言い残さずにその場から立ち去ってしまった。神月はそれを追うことはせずに狗神の方へとやってきた。


「狗神、飲んで。聖水なら少しは落ち着くはず」


持ってきていた水筒を狗神に渡すと、ゆっくりと確かめるように口にする。半分ほど飲み切る頃には狗神自身も落ち着きを取り戻していた。


「神月さん、ありがとうございました」


「礼はいい。それよりも狗神自身今回のことに関して二人が絡んでいたのには感づいていたのでしょう?」


狗神は諦めるように語り出す。


「……なんとなくです。確証はありませんでしたから」


違和感を覚えたのは神月が気づく少し前だという。本来、狗神は自身の罪からくる受け続けているため関係しない他者からの嫉みは同じ犬の妖である者が半分請け負うことになっている。けれど、あの二人がそれを拒否した。その結果、狗神に全ての負担がかかったということだった。


「だから今までの妖・狗神には同じような事例がなかった」


「なら、あの二人が拒否したように狗神も拒否すれば」


「そうすれば行き場を失った怨念は消化されることはなくこの世を彷徨い、誰か他に取り憑き被害を出すかもしれない」


その被害者は稲荷神社や自分の家族の可能性があるのだ。


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