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稲荷神社の妖達  作者: 朝凪
水鏡編
86/93

手伝いたい


探すこと二時間で何とか三冊見つかった。むしろ三冊も見つかったんだ、大した手柄だと思う。

見つけ出した本を早速読みたいが、今は十二月。このオンボロ小屋に暖房器具などは一切ない。今現在ですら凍え死にそうである。

特段、持ち出し厳禁なここでしか物でもないようだ。けれど誰かに見つかると面倒だということで俺は客間へと連れてこられた。


「どれも同じような内容だな。罪を打ち明けて神に許しをこいて祓ってもらうか」


「けれど、狗神のは自分のというよりも今までの妖・狗神が起こしてきた怨念や呪いのようだから少し違う」


「狗神自身が罪を打ち明けたところで全ては祓われないってことか?」


「そう。それに抱え切れないほどの邪気を纏うなんて初めて見た」


見つけるというところまでは上手くいったがこれから先がどうやら難航しそうだ。とりあえずは、神月の中にある記録と小屋だけではなく図書館にある資料で探してみることとなった。



***



数日間、狐川に先に帰ってもらい図書館で調べていた。今日もそうしていると向かいの席に誰かが座った。思わず顔を上げれば今回の悩みの種である狗神が怪訝な顔でこちらを見ていた。


「どういうつもりなわけ?」


「どういうつもりも、俺は関わったものを無責任に放置したくないだけ」


なにが?とは聞かない。そんなのは一つしか決まっていないし、惚けたところで意味がないから。


「何かってに責任とか言ってんの?迷惑なんだけど」


確かに。狗神からすれば勝手に押し付けられたことに違いない。ここで俺の意見をただ押し通したらいい迷惑になる。だからといって、この前のを見て手を引くわけにはいかない。


「ごめん、勝手にやって。でも、俺は知ってしまった以上それを知らなかったことにはできない。だから責任とか義務じゃなくて、知人として手伝いたい」


それから狗神は何も言わずに俺の見ていた本を一冊開く。ざっと目を通すとパタンと閉じてしまう。


「ここで調べるよりもいいところがある」


ついて来いとは言わない。

地図か何か渡してくれるのか。

俺は去りゆく狗神の背中をじっと見ていたら、図書館を出て行ってしまった。しばらくそのまま待っていれば先程と同じで何も持たず、ただ早足でイライラしながら戻ってきた。


「ついて来いよ!」


「え、あ。行ってよかったのか。じゃあ本戻してくるから待ってて」


俺はそこから使っていた本をメモに取り元の位置に戻した。犬神もそれを手伝ってくれてた。そうして、全て片付けてから狗神跡をついていけば着いたのは市杵島神社だった。

稲荷神社の埃だらけの物置小屋とは違い掃除も整理整頓も行き届いていた。これが巫女の違いだというのであろうか。


「何やってんの?」


「いや、格の違いを感じてた」


怪訝な顔をされるけど、これは見たものにしかわからない。自分にそう言い聞かせて中へと入る。


「これがリストその年に起こったことが箇条書きになってるから」


中身を見てみれば稲荷神社との違いが見えてくる。あくまでここにあるものは、その神社での伝記でしかないのだろう。


「ありがとう、探してみるよ」


「別に。帰る時になったら声かけて」


狗神はそのまま立ち去ってしまった。自分のことなのに調べる気はないらしい。

違うのかもしれない。自分のことだから知りたくないのかもしれない。知ったが最後、この身滅びるのみみたいな感じで。

ありがたく貸していただいたものだ。俺はそのリストから邪気や穢れといったものを探していった。


「797年、巫女により妖・狼死亡……?」

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