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稲荷神社の妖達  作者: 朝凪
水鏡編
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記憶の記録

あの後は何も起きずに目覚ましの音共に目が覚めた。なんだか起きる気がしない体を無理に起こして準備を整える。俺達は三人仲良く登校となった。けれど今狐川がここにいる以上昨日の話は何一つできない。

……いや、できる。

自分の能力をすっかり忘れるところだった。けれどそれをするのには夏麻の力が必要不可欠だ。夏麻が事情を知っていれば話は別だが、昨日の時点では何も知らないはずだ。俺は仕方なしに携帯を取り出して短い文を打ち送信を押す。

そうして高校の最寄り駅に着けば昨日と同じ二人が前を歩いていた。昨日のこともあるから俺は思い切って二人に声をかけた。


「おはよう、水嶋さんと狗神」


「あ、おはようございます。大神さんに今日は神月さんと狐川さんも一緒なんですね」


「たまたま準備が今日は間に合ったの」


だからいつも狐川に置いて行かれていたのか。仲が悪いのかと思ってた。


「そういえば、狐川。英語の和訳やったか?」


三限にある英語では毎回その日の出席番号の人が当てられてそこから一文ずつ和訳をさせたれる。簡単なのが当たれば楽に越したことはないが、詰まったそこからが地獄だ。しばらく答えられなければ次の人また次の人へとたらい回しされる。


「やるもなにも、あんなの教科書読めばすぐにわかるだろう。やる必要もない」


なんて余裕の一言。たしかに、たらい回しにされた結果それを答えるのは狐川がほとんどだ。俺たちのクラスにとってのピンチヒッターとなっている。逆に止まることが多いのが神月だ。

思わず隣にいる神月を見やる。


「なに?」


「いや、別に」


本人目の前にしてそんなこと言えるわけない。それよりも昨日の狗神の件の方で神月に関しては頭がいっぱいだ。狗神の様子自体は見た目は普段となにも変わらない。けれど狗神の周りだけ音がざわつくのを感じる。話し声や独り言とは違う音。目には見えずにけれど存在だけはある幽霊や呪いのような声。



***



放課後、夏麻との組みが終わると俺は稲荷神社本殿の裏手に来ていた。理由は朝に送ったメールの返信がここに来るように書かれていたからだ。

しばらく待っていると制服ではなく、ジャージ姿の神月がやって来た。


「待たせてごめん。それじゃあついてきて」


何の説明もないのはいつものことだ。俺は黙ってその後をついて行くと小さな物置小屋へと着いた。

中に入れば手入れがされていないのが一目瞭然。埃だらけの床に無造作に置かれた書物。極め付けにそこが抜けた床と切れかかった豆電球。

ハウスダストアレルギーだと言って逃げたくなる。けれどもう片足を突っ込んでしまった以上引き返すことはできない。意を決して俺は中へと入って行く。


「ここにあるのは代々の巫女が描きつられてきた物やそれに関する資料なの。ここから今回の狗神に対して関連するものを探して対処を考える」


「お、おう。で、一覧表とかあんの?」


「ないけど?」


なにそのちょっとわからない感。

さらっと絶望に追い込む現状押し付けるのもやめてほしい。つまり、ここから手当たり次第に探さなきゃいけないってことだろう。

一体何百冊あるんだろう。


「とりあえず、同じように穢れや邪気に覆われた事例があるのは1846年と1655年それから……」


「え、いや。ちょっと待て!神月もう全部調べたのか?」


「調べるのはこれからだけど?」


「は?けど今年号いってたじゃん」


それが何か?という表情をする。また俺と神月の間に認識というか知っていることの差が埋まらずに進んでいる。

すると、神月は状況を飲み込んだ表情をする。


「私には巫女の創生から今に至るまでの巫女の記憶が入っているの」


「創生から今までの記憶?」


「そう、代々の巫女がやってきたことや言ってきたことそういうことは記録として私の中に刻まれているの。ここにあるのはその巫女が記録してきた書物だから私の中にある記録と照らし合わせながら探すの」


ここまできて漸く理解した。ここに一覧表がないのはその役目を神月自身が担っているからなのだ。

ならもうそれを頼りとして探していくしかない。



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