狼の特徴
秋が終わりを告げつつ冬が姿を現し始めた。年を越すまではあと一ヶ月ほどあるだろう。俺は制服の上にコートとマフラーを巻いて家を出た。珍しく家にいた母親からはお弁当まで用意してもらった。これはこれで楽しみだ。駅まで歩きそこから電車に乗り学校の最寄駅で降りれば狐川が待っていてくれている。そこからは二人で学校に行くのだが、今日はいつもとは違う人がもう二人いた。
「おはようございます、大神君」
「どーも」
「水嶋さんと狗神?どうしてここに」
学校へと向かう道を今日は大所帯で歩くことになった。前を歩く二人に対してそう聞けば、水嶋さんが少しだけ振り返る形で答えてくれる。
「はい、今日はいつもよりも一本早い電車に乗れて駅に着いたら狐川君がいたので少し話をしていたんです」
「狐川がいるってわかっていればあの電車に乗らなかったのに」
「それはこっちの台詞だ。朝から狗神と会うなんて今日はついてない」
よくこの二人の間で話しながら待っていたものだと水嶋さんに対して関心してしまう。この二人の仲は一向に良くなることを知らずにこのままで過ごしている。学校へ向かう途中で唯一あるコンビニが目にはいった。
「そういえば、白雪の様子はあれからどう?」
「白雪なら問題ありません。ただ、夜に出かけるのは少し怖がるようにはなりましたね」
白雪は満月の日大禍時に出かけて悪霊に取り憑かれて俺を襲ったのだ。飲み込まれて自分の体が思うように動かないのは恐怖でしかないだろう。思わず身に覚えのある術式を思い出してしまった。
「それより来週は期末試験ですね」
「今から焦ってやる奴の成績なんてたかが知れてる」
「嫌なこと思い出させないでくれよ」
ここ最近は夏麻との訓練でほとんど勉強になど手をつけずに過ごしていたというのに。一気にリアルを見せられた気分になる。またしばらく眠れない日が続くのだ。
「ま、万年追試の狐川は特に頑張らなきゃな」
狐川が追試?そんな冗談は信じられない。中学の頃から成績は少なくとも俺よりは上でよく勉強を教えてもらっていたくらいだ。それなのに狗神の今の台詞に対して狐川は何も反論を起こさない。普段ならすぐに口喧嘩へと発展しているはずだ。どうしたのか聞こうともしたが、水嶋さんは次へと話題を振ってしまった。
「そういえば、大神さんはどこの所属になるんですか?」
「所属?」
そのアイドル事務所のような感じはなんだろうか。それに所属とはなんだろうか。
「……妖である者はどこかの使い手のいる神社に所属しているものなんだ。その方がそれぞれの加護が受けられるから身の安全が保障させる」
そういえば、白雪にあった時もそんなこと神月が言っていた。水嶋さんの監督不行き届きだとか注意していた。
「そんなこと神月は何も言ってなかったからな」
「そうなんですか?狼という特徴からして神月さんは契約の儀をもうしているかと思った」
「狼の特徴っていうのは?」
「その答えは、時間切れ」
狗神にそう言われて顔を上げればもう学校の昇降口へと着いていた。
「気になるなら自分でも調べてみれば?」
じゃあと言い残して二人とは別れてしまった。狼の特徴。それが契約にも関係があることなのだろう。テスト勉強は一旦置いておいてこっちのことを調べたくなった。
図書館につけばあちらこちらにテスト勉強をしている生徒が教科書やらを開き集中していた。そんな中俺は奥の本棚へと向かう。とりあえずは、狼と妖である狼男の特徴みたいなものを調べておけば何かわかるだろうか。それっぽい本を数冊選び適当な席に腰掛ける。といっても、世間一般的に知られている情報との解離はあまりない。けれどそのなかで一つだけ水嶋さんや狗神が言いたかったことに引っかかるものがあった。俺はそれを携帯にメモしてその意味を考えていた。気づけば最終下校時刻となり本を片して学校を後にした。
***
昇降口には完全に待ちぼうけを食らっていたであろう狐川が座って待っていた。
「ごめん。待っているなら連絡くれればいいのに」
「あんまり急かすと悪いかなって思って」
上履きからローファーに履き替えればそれを待っていたかのように腰を上げて二人して帰路につく。
「朝のこと、気になるなら神月さんに伝えてみれば」
「朝のって、契約のこと?」
そうそうと頷く。あくまでも狐川からは説明するつもりはないようだ。けれど最終決定をするのが神月であるのならば聞いておいた方がいいだろう。この後、稲荷神社に寄ったときに聞いてみようか。そう考えていれば、黒い靄が二人を包んだ。
「なんだ、これ」
光がひとつも届かないほどの暗闇、手を伸ばしても何も当たらない。
「二人とも動かないでね」
その声には聞き覚えがある。今朝も聞いた、その人物の名前を挙げる前に暗闇は立ち消えられた。
その代わりに現れたのは十手を手にした狗神だった。




