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稲荷神社の妖達  作者: 朝凪
能力編
78/93

間幕 夏祭り

夏祭り会場についてから早数分。

俺の手には両手では足りぬほどの料理が積み上げられていく。


「こっちのフランクフルトも美味しい!」


「まだ食うのかよ」


正直、見ているこっちは胸焼けがしてくる。普段からあまり食べる方ではない月宮だが今日に限ってはたががはずれたようによく食べる。ここに来るまで何度か月宮が餌付けするようにこちらにもくれたがどれも普通だ。たまによくわからない、世界初!シュワシュワシャーベットとかも買っていた。本人はどれを食べても美味しそうにしている。


「さっきまでご飯ものばっかだったから今度は甘いの食べたい」


「冗談だろう。すでにタピオカと綿飴とシャーベット食べただろう」


「あれは箸休めみたいなのだから意味が違うの!」


今のどこに違うところがあったのか説明してほしい。


「俺はもう胸焼けしてきてる」


「またまたそれこそ冗談でしょう」


なんだか一髪顔面アタックを喰らわせてやりたい。

せめての抵抗としてぼったくり当然の射的やくじ、輪投げなどをやりたいと言ってみる。それに対して月宮は全て無駄にやるからやめときなと一点張り。結局、その後もひたすらに食べ続ける。そんな二人で回っていると、向かいから見知った人物がこちらに向かって手を挙げていた。隣のクラスで中学からの知り合いの古谷という男子だった。


「よ!二人とも相変わらず仲良いな」


「古谷!これ美味しいよ、食べる?」


「遠慮しとくよ。あとが怖いから」


差し出されたたこ焼きを断る。この二人はよく話が噛み合わないことがある。ほぼほぼ、月宮のせいだとは思うのだが。

古谷は他に数人の男子と共に祭りを回っていたようだ。


「古谷、松島さんに祭り誘われてなかったか?」


古谷と同じクラスで女子の番長みたいな感じで周りが逆らわない松島。そんな松島が好きなのが古谷なのだ。お陰で、古谷が好きな女子は松島の存在によりそう簡単には近づけない。


「え、あれなら断ったよ。先に約束もあったしね」


ほらという感じで後ろの連中を見せる。


「それだけで松島さんは引かないだろう」


「だから先週、違うところの花火大会行った」


こいつも相変わらず健気に頑張るなと思ってしまう。

地元のお祭りは自分の好きな人に勘違いされたくないから松島と行かない。

中学の時、そんな話を聞いたことがある。その相手までは教えてはくれなかったが、俺は古谷の恋愛に関しては誰よりも応援している。


「これからみんなで型抜きで一獲千金しようと思うんだけど、二人もやらない?」


願ってもない提案だ。これで少しはたべものをみなくてすむ。俺はその提案に飛びついた。


「行く、今すぐ行きたい」


「そ、そう?月宮さんは?」


俺のいつもとは違う食いつきっぷりに若干引いている古谷。そうだろうとも、俺はなかなかの不器用さを誇っている。


「えー。じゃあ錫牙が行くなら行く」


この人数だったためか、月宮が漸く折れて本日初の食べ物以外となった。

型抜きの屋台は俺たちの斜め向かいにあった。


「じゃあ誰が上手くできるかの勝負な」


俺達はそれぞれ三枚ずつ型を選んで初めていた。俺は傘と魚と蝶にしておいた。どれも二百円か三百円といった比較的に簡単なものだ。古谷は言っていった通りの一獲千金を狙って高いものばかりを選んでいた。やる気のない月宮は俺の隣に座りじっとこちらを見ていた。


「……気が散る」


「私何も話してないよ?」


「存在に気を取られる」


「なんか酷いこと言われてる?」


話し始めたらキリがないのでもう精神統一でもして無視するしかない。今やっている三つ目の蝶にだけ集中しよう。すでに傘と魚は初手で割れてしまって誤魔化しがもう効かない。


「あ、そういえば」


聞こえない、聞こえないと暗示をかかる。


「型抜きってデンプンと砂糖で出来てるからこれも食べられるね!」


パキッと折れる音がした。ついでに俺の琴線も


「なんでお前はそう食べ物の話ばっかなんだよ!」


「え!そこ怒るとこ!?いいじゃんお腹空いちゃったんだから」


「さっきから食い過ぎなんだよ、このままだと豚になるぞ!」


「ふふふ、錫牙知らないの。豚って実は体脂肪率十五パーセントくらいで人間に例えるとかなりの痩せ型なんだよ。そこを例えるなら、ペンギンとかにしないと」


なんと言うウザさだろうか。何より腹立たしいのがこの勝ち誇ったかのような表情だ。今すぐ顔面に膝蹴りお見舞いしてやりたい。

結局、俺は一枚も成功することなく失敗した型抜きたちを虚しく頬張った。

隣でやっていた古谷達も苦戦を強いられて結果としては一枚だけ元値を取り戻す形で成功を収めていた。


「あぁ、一獲千金とはいかなかったな」


「一枚でも元値が取れただけ良しとしたら?」


「ねぇ!これ見て忍者焼きそばだって、真っ黒」


「月宮はまた食い物かよ」


目を離した好きに月宮は隣の屋台へと足を向けていた。俺は呆れながらもその姿を見守る。


「二人はこのあとどうするの?」


「特に決めてはないけど……」


そこでこの間の舞の話を思い出す。水嶋さんと四季が提灯作りとは違う部屋で頑張っていた。せっかくだし見ておきたい。


「神楽殿の舞を見に行こうかな」


「へぇ、珍しい。どんな気の迷い?」


なんで口の悪さだ。この口の悪さでなぜモテるのか全く理解できない。やはり、人間顔なのか。


「単純に狐川の家で祭りのアルバイトしてた時に練習してたの見ただけだ」


「星と月宮さんにしか興味がないと思ってたから意外だ」


「星はともかく、なんで月宮なんだよ」


「それは──」


「二人ともお待たせ!」


満足な表現をしながら忍者焼きそばを三つも抱えて月宮は戻ってきた。


「さすがに一人で三つも食い過ぎじゃね?」


「まさか、この二つは二人に奢り」


はいとそれぞれに一パックずつ渡す。俺と古谷は素直に受け取り、意を決して食べてみる。いつもとは違う真っ黒いソースはなぜかピリッと辛く、どこか癖になる味をしていた。


「これソースはなんだ?」


「わかんない。聞いても教えてくれなかった」


「黒だからイカ墨とかのりかな」


「まさか」


「あ、月宮さん。お金返すよ、いくらだった?」


一度俺に焼きそばを預けて、古谷は財布を取り出す。


「え、いいよ。これくらい、私が勝手にやったことだし」


「けど、ただ与えられるだけだとなんか人間ダメになりそうで」


そこまで想像が飛躍しちゃう古谷の方がやばいと思ってしまった。どこを謙遜しているのだろうか。さすがの月宮もこの返答には困ってしまったようだ。若干こっちに助け舟を求めてくるし。仕方なく一つの提案をした。


「じゃあ、今回はありがたく月宮の奢りってことにして次の機会に古谷が奢ればいいんじゃないか?」


「それだ!そうしよう!」


そうなれと言わんばかりに首を大きく縦に振る。その提案には納得してくれたのか古谷は財布を鞄にしまう。


「月宮さんがそれでいいなら」


「やったー!じゃあ何がいいか考えておかないと」


「ねぇ、それで高いのとかは勘弁だからね。せめて割合の取れたので」


「それはどうだろう。古谷センスいいから錫牙よりマシなの選んでくれそうだし」


「あ、それなら任せて!自信あるから!」


なんでここではお互いにやる気十分と言わんばかりに意見が合うのだろう。それより今のは俺に対しての悪口だっただろう。二人して大神家に伝わる秘伝の関節外しを喰らわせてやろうかと思ってしまう。


「あ、じゃあ俺はそろそろ行かないと」


時間は神楽の三十分ほど前を指していた。俺達も行かないと遠くから微かに水嶋さんを見ることになってしまう。まるでオペラグラスを使わないと見れないライブの席のように。


「そっか。じゃあまた明日だな」


「二人ともまた明日な」


「……さようなら」


俺と古谷が「また明日」と言ったのに対して月宮は「さようなら」と言ったのは引っかかった。その言葉の裏にある意味を聞く前に月宮は逃げるように腕を組みながら。


「あとはなにがいいかな」


「……まだ食べるのか?」


呆れ半分で聞くと、月宮はまだまだ余裕といった表現で頷いた。一体、あの細身のどこに大量の食料が入り込まれているのだろう。すると、会場全体に放送が響き渡る。


「迷子のお知らせをいたします。灰夏麻様。灰夏麻様。お友達が探していらっしゃいます。至急、本部へお越しください」


全てを変える放送はこの時会場に響き渡った。

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