間幕 千早ぶるピクニック
年が明ける音が近づいてきて、自然の赤い絨毯が道いっぱいに広がった今日この頃。
「ピクニックがしたい!」
そう開口一番に切り出したのは珍しく冬歩だった。
「ピクニックって季節じゃないだろう?寒すぎる」
「俺賛成!いぇーい、ピクニック!」
夏麻と冬歩は完全なる一致によりハイタッチまでしている。真逆の反応を示す狐川と夏麻の態度。残りはまだ何も言っていない此方次第になってしまった。
「いいですね、腕がなります」
「やるなら家の中で鍋がいい」
「落ち葉拾いで焼き芋……」
賛成の四季に反対の俺、どっちかわからない神月。といつか、本当にさつまいも好きだなと思ってしまう。この前もご近所さんからたくさんもらったと言って四季が作ってくれたさつまいも料理をほぼ空にしたのは神月だった。
「賛成多数で実行決定ね」
もうここまできたら仕方ない、俺は黙って夕飯を食べすすめた。
稲荷神社を出て、家に帰ればもう母親も家を出たあとだったらしい。部屋は真っ暗で静寂に満ち満ちていた。俺はそのまま部屋へと戻ろうと思ったが、ひとつ気になることができて台所へと向かった。
***
翌朝、再び稲荷神社に着けばすでにピクニックたるものの準備が始められていた。料理は冬歩と四季がやるらしく、俺は外へ出て残りのメンバーに合流した。
「……何してんだ?」
「あ、錫さん!見てくださいこの落ち葉の量」
これは掃除を頑張ったと言うべきなのだろうか。けれど気にかかるのは隣で新聞紙やアルミホイルでさつまいもを包んでいる二人だ。
「これで美味しいやつができる」
一つ持ち上げれば目を輝かせて神月はそう言って、すでに煙が立ち込めている落ち葉の山の中に一つ一つさつまいもを入れ込んだいく。
「これどれくらいで食べられるんだ?」
「うーん、少なくとも四十分はかかるかな」
「結構かかるんだな」
俺は敷かれているレジャーシートに腰掛けて携帯を見る。お昼の少し前。きっとまだお弁当が来るには時間がかかるだろう。暇つぶしをするにしてもやることが。
「暇だし、錫さんもまーぼもかくれんぼしませんか?」
こちらもこちらで目を輝かせて提案するものだから思わずこう答えた。
「嫌だ」
「なんでですか、このまま四十分ただ待つだけなんてつまらないですよ」
「寒くて動くどころじゃないんだよ」
まだ紅葉が残っているとはいえもう季節的には冬だ。朝方なんて霜が降りているところがちらほら見えた。
「じゃあ、しりとりで我慢します。三文字縛りでいきましょう」
「何の妥協?」
「いきますよ。最初は……もみじ」
勝手に始まってるし、しかも勝手に縛られてるし。ただ、このまま何もせずに待つのも暇だし今度は鬼ごっことか言われるよりマシだと思ってしまった。仕方なく続きを考える。そして思いついた単語を狐川へと渡す。
「地獄」
***
そうこうしているうちに遠くから、こちらに呼びかける声が聞こえた。目を凝らせば大きな包みを持った四季と冬歩がこちらにやって来ていた。
「お待たせしました。よくやくできましたよ!」
「呼んでくれれば取りに行ったのに、重かったでしょう?ありがとう」
二人の持ってきたお弁当と呼ぶべき旅行鞄並みの大きさの風呂敷に包まれたものをレジャーシートの真ん中に置いて中を開こうとすれば、それにさえも邪魔が入った。
「出来た!今が食べ頃、焼き芋」
まさか何も臆することなくどさどさと焼き芋を真ん中に置き始めるとは思わなかった。まるで焼き芋がメインの如く陣をとる。
「いや、なんでだよ。弁当広げられないからずらせ」
「なんで?メインでしょう?」
ほらやっぱり思ってた、と自分の中で反芻する。
「全部、出来立てが美味しいんだから早く食べようか」
狐川は焼き芋を囲むように五段重ねの弁当を二つ、計十個を開けて並べ始めた。果たしてこれ全てを完食できるのか疑問な量だ。おにぎりだけでざっと三十個はあるだろう。これは心してかからないといけない。
「それじゃあ、準備が整いましたしいただきましょうか」
その四季の声によって皆んなが、いただきますと口を揃えてから各々好きな物へと箸を進めた。
気づけば無くなるのか疑問だった量が半分になり、四分の一となり最後には全て無くなってしまった。
「お腹いっぱい!」
そう言いながら寝っ転がる冬歩。思わず俺も体をそらすように後ろに手をつき上を見あげる。
「千早ぶる 神代もきかず 龍田川 からくれなゐに水くくるとは」
「百人一首?」
隣の狐川の声がスッと耳に届いてそう聞き返してしまった。
「そう、今年の紅葉は特に綺麗だから」
上にも下にも真っ赤に染めあがった紅葉が今の俺たちを囲んでいた。
広がるならこういう赤がいい。
誰も傷つけることのない愛でるだけで心癒される赤が。
思わずそんなことを思ってしまった。




