術式
しばらく話していると狗神も部屋へと戻ってきた。それを見計らってか四季はお盆いっぱいに料理を乗せて来た。
「皆さん揃いましたし、夕飯にしましょうか。今日は市華様から里芋の煮っ転がしを頂いたんです」
大皿に乗せられた里芋は餡に絡んで美味しそうに見えた。
言わずもがな皆それに食らいつくように夕食を始めた。今朝あれほど食べにくいと騒いでいた夏麻は何事もなかったようにブラックホール如く食べていく。全てを食べ終わり少し休憩をすると水嶋は立ち上がった。
「私達はそろそろお暇します」
「もう帰るの?明日は土曜なのに」
神月がそう聞く。この前のように泊まると思っていたから意外だった。それは俺だけではなかったようだ。
「はい、今回の件で術式の強化と数を増やさなきゃ行けなくなったので」
「術式を増やす?」
「水神を司る水嶋神社と風を司る風祭神社の大きな役割の一つなんです」
ただ神社の神主や巫女と同じようにお使えしているように思っていたが違ったらしい。
「術式って何百年も前からあってそれを不変に使いつづけるんじゃないんだな」
「もちろんそういう類も沢山ありますが、不変であることは相手も対策や対抗手段を用意しやすいということです。そうならないためにも新たに作り出したり今あるのを強化させる必要があるんです」
たしかに、神月から昨日の二人の過去のことを聞いた。あの二人ですら百年くらいこの世に留まり戦い続けていた。そうなれば今まで何度の戦闘で同じような術式を見たり実際に受けたりしたのだろう。そう考えれば変化をつけることは必要なことだ。
「今度は私のところにも遊びに来てください」
玄関まで見送ると水嶋はそんなことを言った。稲荷神社から一粁と離れていない水嶋神社は俺にとっての初詣をするお決まりの神社だった。
「もちろん!楽しみだな、いっちーのご飯美味しいからいくらでも食べられちゃう」
今から思いを馳せるように両手で頬を挟む冬歩の隣で夏麻はボソッと呟く。
「それ以上太ってどうするんだよ」
「なんですって!」
俺でなくても冬歩の耳にちゃんと聞き届いていた。
「お二人とも市華様達の前ですよ」
後ろで控えていた四季に注意される。狐川は狗神と同じところに長くいたくないと言って自室に戻ってしまった。
「狗神も色々ありがとう」
「いえ……俺はやるべきことをしたまでです」
歯切れの悪い返事。注意して見てみると少し顔色も悪い感じがする。思い返せばあまり食事でも箸は進んでいなかった。あまり体調が良くないのだろうか。
「また何かあったら呼んでください」
それではと一礼してから二人は帰って行ってしまった。




