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稲荷神社の妖達  作者: 朝凪
能力編
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ゆっくりと穏やかに心静かな時間

俺たちは何とかして四季や冬歩が待つ家へと辿り着けた。そこからは先に手負いである夏麻と狐川を客間に連れて行き処置してくれた。その間、居間で神月と二人きりになった。


「最後のあれは何が起きたんだ」


そうずっと気になっていた、鈴の顔つきの変化。あれは明らかにおかしい。だからといって神月が何かをしたようには思えなかった。


「私にもわからない。ただ、誰かが能力を使った痕跡だけは残ってた」


「痕跡?」


用意してくれたお茶を一口飲んでから神月は教えてくれた。


「鈴の目の色が一瞬だけど変わったの。誰かが外からの貫入により変化だと思っていい」


「それじゃあ結界内にはまだその能力を使ったやつが残ってるのか?」


「そもそも今回の能力者は結界内に入らずに干渉したんだと思う」


「そんなことできるのか?」


「この結界は実態の危険者及び物、そして有害な汚染物は通せないだけでそれ以外のものは通せるの。それに能力は触れなきゃ使えないものもあるけどそうじゃないのもある。大神だってそうでしょう?」


言われてみれば、俺自身は何か対象物に触れなきゃいけないという決まりはない。ここ最近では聞こえる範囲も広がってきた。そうなると、今回は結界の外から能力が使われたということになる。


「でもどうやってこっちの状況がわかったんだよ。それこそ視認しないと無理だろう」


「それに関しては何もと言えない。何者かが能力を使って鈴の怒りを鎮めてくれた。としか今は言えない」


利益もないのに俺たちを助けてくれた人がこの覡町にいることになる。いや、恩を売るためにやったのかもしれない。今回の件を使って何かに神月を巻き込もうとしている可能性だって捨てきれない。


「理由は何にせよ、鈴は穏やかに逝ったのだから良しとすべきだと私は思う」


何もかも謎が解けたわけではないが、それでも少しでも神月の言う通り怒りや憎しみを残したままよりもいいだろうと思ってしまった。


「お待たせいたしました、あとは大神様と雅様だけです」


話がひと段落するのを見計らっていたように四季は現れた。


「ありがとう。って言われても俺は二人よりも怪我とかしてないから大丈夫だよ」


「まぁ、何をおっしゃるんですか。どこを怪我してるかわかりません、特に打身は後になって痛みが増してくるものなのですよ」


くわっと顔を引き寄せる四季に俺は避けるように体を少し逸らす。


「どうする、大神」


その様子を楽しんでか神月はこちらをにやにやと見ている。俺としては板挟み状態な気がする。お手上げだという形で手を挙げる。


「よろしいです!その後は雅様もいるんですからちゃっちゃとやりますよ」


「え、私は別にかすり傷一つしてないし」


「やりますよ?」


「どうする、神月?」


先程の仕返しと言わんばかりに同じように返す。神月も観念したかのように肩を落としながら答える。


「四季の仰せのままに、従います」


「はい、お任せください」


そのあと四季の手によって、かすり傷はまるで何事こともなかったように元の状態に戻っていく。神月と四季と話しながらゆっくりと穏やかに心静かに過ぎていった。


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