元素能力
「あいた」
額に勢いよく何かが当たった。当たったものを拾い上げる。なんのこともないただの石だった。なぜこんなものが。まるで私だけを狙ってきたかのように飛んできたのか。誰かが意図的に投げたとしか考えられない。では一体誰だ。もしも、先程のことを大神が聞こえていたならこれを合図としてもおかしくない。けれどこれは何かの罠かもしれない。行ってみるべきではあるのだろう。考えを巡らせている時、微かに地面が揺れる。こんなことができるのは三人のうちの一人だけだ。
「二人は部屋に戻って中で待機、いざという時のためにお札を用意しておいて」
「みーやんは?」
「三人のところに行ってくる」
「それなら私も!」
既に冬歩は夏麻の身に何かがあったことを察している。双子だからなのだろう、意思の疎通とまではいかないが何か異常な状況だというのは感じるらしい。
「冬歩はここに四季のそばにいて。三人が怪我してきても大丈夫な準備一人じゃ大変だから」
「うん、わかった。みんなのことお願いね」
「もちろん、全員連れて帰ってくるわ。あとはお願いね、四季」
「かしこまりました、雅様。どうかお気をつけて」
私は二人を置いてその場から駆け出した。合図を出すように大神には頼んだ。普通なら夏麻や狐川が返答をすると思っていたが違っていた。おそらく今戦える状態なのは大神ただ一人なのだろう。尚のこと急がなければいけない。
「跳躍せよ、我が足バネとなれ」
自らに術式を施して速度を上げる。今大神が対峙しているのはおそらく先程の蘭の兄だろう。情報など蘭の記憶のものしかないのでどんな能力があるかまではわからなかった。せめて現場に対してもう少し情報が欲しかった。
また一歩地面に足を着くと、地響きが伝わってきた。確実に近づいている。目を凝らして前を見つめると大神がふらつきながらも立ちあがろうとしている姿が見えた。着くまではあと五秒ほどかかる。
「分界せよ、彼の身を守れ」
思わず術式を使い大神の身を守った。次の瞬間には何か白いものが大神目掛けて殴りかかっていた。どう見ても人ではなかった。その真相は大神の前に辿り着くとすぐにわかった。
「使い魔が主人を飲み込んだか」
「神……月?」
「遅くなって悪かった。立てる?」
「当然」
差し出した手を掴まりながらなんとかして立ち上がる。
「狐川と夏麻は?」
「二人は……後」
そう言われ振り返ると無惨にもその場に倒れ込んでいる二人が目に入る。衝撃のせいで気を失っているだけなのか息はまだある。
「大神、秒殺する」
「秒殺ってどうやって」
まずは主人と使い魔を引き剥がす。右の手だけ鎖が切れているのであと三箇所を破壊すれば良いだけだ。鎖の原料は鉄。ならばその鉄さえ破壊できればあとは引き剥がす
だけだ。私は刀を水平に持つ。
「最小元素、二十六。この命持って破壊せよ」
兎からパンという音がしたかと思うと男はゆっくりと前のめりになりそのまま下に落ちていこうとする。私はそれに間に合うように加速して地面に着く前に男を抱き上げる。それを大神に任せると先に兎の方を片付けてしまった。




