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稲荷神社の妖達  作者: 朝凪
能力編
66/93

一体化

主人からの命令が無くなったけれど、攻撃力は全く衰えない強さには驚愕する。それでも今は、夏麻と大神が頑張ってくれている。こちらも負けるわけにはいかない。左右に避けながら攻めるがなかなか先程の夏麻ような一撃にはならない。薬の投与もあり、通常攻撃だけでは突破できなくなっている。能力だって変幻をしたところでなんの勝機も見えない。

何か隙がないか。

すると、兎は一瞬動きが止まった。


「もう君には任せられない」


気がつけば、左の前脚と脇腹。右の後ろ足の三ヶ所からさらに血が流れていた。どうやら立場が逆になっても有効だったようだ。けれど今の言葉はどういう意味なのだろうか。動向を見守っていると、兎は僕の方ではなく夏麻や大神の方へと向かおうとしていた。


「させない」


なんとかして足止めをしようと刃を突き刺すが、気が荒立っているのか背に傷がついたところでこちらには見向きもせずにずんずんと突き進む。その後も何度も試みるが結果は同じだった。

一体何をするつもりなのだろう。

もう夏麻達は目の前だ。

地の振動で夏麻がこちらに気がついき、目があった。夏麻は大神を連れてなるべく距離を取るように下がった。それを見て僕も一旦引くことにして、二人と合流する。


「何があったの?」


「わからない、ただ『もう君には任せられない』って聞こえたかと思ったらこっちに向かって進み始めたんだ」


「兎が言葉を喋ったのか?」


「確かに僕にはそう聞こえた」


にわかには信じがたい二人には悪いが嘘は言っていない。一体何がこれから起こるというのだろう。

こちらが距離を取ったのに違和感を感じた男は警戒を強めたが隣からやってきた影にぎょっとしていた。あれは恐怖の形相だ。


「弱い奴に従う気はない」


やはりあの声は幻聴ではなかった。兎は言葉を話している。僕らはその成り行きを見届ける他なかった。


「ま、待ってくれ!まだ終わってない」


「すでにこちらは貴様のせいで三ヶ所も負傷しているのにまだ任せろというのか」


仲間割れというべきなのだろうか。けれどおかしい。契約の主従関係は男の方が上ではないのだろうか。不穏な空気が流れる中、ついに決定的に決裂した。

兎は男を頭から丸呑みした。

その状況に息を呑んだ。主人を従者が食べるなど聞いたことがない。これから何かが起こる。その警戒だけは強めていた。

男を捕食した兎はみるみるうちに体積後も増えていき、ついには背は木々を超えて胴は湖と同じほどになった。


「ば、化け物」


思わず出た言葉に驚いた。普通に考えて、妖である自分も他か見れば化け物の一種だろうに薄情だと思ってしまった。


「貴様ら、コロス」


そう一言聞こえたかと思うと、一気に息を吸い込み真っ赤の炎と共に吐き出した。避けるにしても範囲が広すぎる。


「分界せよ。境界をつけよ」


隔てるのは僕だけではダメだ。術式が使えない大神と夏麻の分もやらなければ。強度は下がるがひとまず全員が安全になる範囲にする。けれど数秒で結界に亀裂が入り始める。十秒もすれば壊れてしまうだろう。そうなれば全員まるこげだ。考えを馳せる中、炎が消えた。気がつけば兎の右目には矢が一本的中していた。


「やった!的中」


夏麻が後ろで喜んでいた。結界の高さを超えて、狙うのは目の一ヶ所のみで見事的中させていたのだ。素直に喜んでおきたいが、このチャンスを逃すわけにはいかない。一気に畳みかけなければ。

体勢を低くして左足を一歩下げる。思い描くのは刃が貫くことのみ。力を入れてひと蹴りする。狙うのは心臓のみ。けれど、僕は刃を貫くことは愚か触れさすことさえできなかった。食われたはずの男が心臓のところに埋め込まれていることに。

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