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稲荷神社の妖達  作者: 朝凪
能力編
59/93

仕え人

前日の反省点を生かし、俺と夏麻に足りない武術を高めることになった。


「とにかく朝練です!」


そう言われて朝の五時に叩き起こされた。


「どこの部活だよ」


やる気満々な夏麻とは対照的にやる前からゼロな俺。とりあえず、ジャージには着替えた。


「それで朝練って何するんだよ」


「とりあえず、基礎体力作りのためにランニングからかな」


「走るのか、今から?」


日もようやく登り始めたこの時間から。俺の昼夜逆転生活が再び逆転して元に戻ろうとしていた。


「稲荷神社まで行って帰ってくるの。ちょうどいい距離だと思うから」


俺の家から稲荷神社までの往復おおよそ五粁と言ったところだ。俺はやる気満々な夏麻に負けて背を追うようにして走り始めた。



***



そんなことをしたその日の学校で俺は一時間目から四時間目までフルマックスで授業を寝ていた。


「何回起こされるつもりだよ」


「狐川……」


突っ伏した状態から顔を上げれば前の席に狐川が座っていた。


「夏麻、突っ走り度合いならあの中じゃ一番だから」


頑張れと哀れみの様な感じで伝えられる。俺はそのまま受け止めてそうだなと呟く。


『ちょっとすずさん!ちゃんと否定してくださいよ』


そこで夏麻の声が届く。

武術を高めるために、朝と夜は基礎体力と手合わせを。昼間は中学校との距離が約二キロメートルのため能力を強めている。ここ一ヶ月の訓練のおかげでそれぐらいの距離を離れていても繋がる様になっていた。ただ、まだ不安定な部分はある。


「それより昼飯食おうぜ」


がっつり夏麻のことをシカトして持ってきているコンビニパンを広げた。


「狐川はなんであんなに強いんだ?」


ふと出た疑問をそのままぶつけた。


「ん?別に僕より神月の方が数十倍強いよ?」


「そうなんだけど……」


そこまで話して思い出した。この前夏麻と冬歩が教えてくれた風見渓という人物についてだ。


「風見渓ってどんなやつ?」


「……それ誰から聞いたの?」


一瞬空気が糸を張ったかの様に緊張が走った。

おそらく、踏み込むべきではないところに踏み込んだろう。


「夏麻と冬歩。神月と互角なのはシレネと三年前にこの高校の生徒会長だった山吹渓だって教えてくれた」


シレネは月宮を殺したのだから忘れるわけもない俺の復讐だ。

けれど夏麻や冬歩、狐川といいなぜか風見渓の名前を出すと皆揃えて口を閉じてしまう。

他とは違う特殊だからこそ、必要以上に警戒や防衛してしまうのはわかる。だが、俺はもう知らないだけでは進めない。だからこそこちらから一歩踏み込まなければいけない気がした。


「……風見先輩ね。放課後、図書室でここじゃ人が多すぎるから」


「わかった。逃げるなよ」


釘を刺す様につけ加える。


「逃げないよ。ただ見ながら説明する方がいいかなって」


見ながらというのは風見渓はこの学校にいるということだろうか。それ以上聞くことなく俺と狐川は食事を進めた。



***



放課後となり教室から人が居なくなってから俺は図書室へと向かった。本来なら狐川が逃げないように一緒に行くつもりだったのだが準備がしたいからだとか言って先に行かれてしまった。それに加えて俺には十分してから来いという指示まで出してきた。

図書室の中に入ると放課後ということもあり生徒はいなく、司書さんがカウンターで座っているだけだった。俺はそのまま奥まで進むと一番端っこの席に狐川がいた。俺はその向かいの席に座った。


「何か見つかったのか?」


「これ、三年前の卒業アルバムね」


言われるがままその写真を見る。

制服を一切着崩さずに、髪は耳にかからないくらいの短髪の黒髪。眼鏡の中は何かを見透かされていそうなまでのはっきりとした瞳。


「これが風見渓」


確かに生徒会長をやるような堅物そうに見える。


「そう、それでこの風見神社の仕え人だ」


狐川は隣で広げていた地図を指差しながらそう言った。


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