捻り潰したい
今この状態の神月さんに勝利もしくは互角でなければ勝つ日など夢のまた夢となる。僕はいつの間にか切れていた唇の端を手で拭うと、刀を構えた。正面構え。一番嫌いで一番得意な構えだ。
僕はゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。相手の神月さんはいつでもいいような余裕の表情を見せる。俺はお望みどおりと右足を一歩引いて勢いよく神月さん目掛けて襲いかかる。
神月は一歩も動くことなく僕の刀を押さえ込む。
「今日は随分と熱くなってるけど理由でもあるの?」
「一番の先輩としていいところ見せたいからね」
どうでもいい言い訳をする。
本当は君のこと捻り潰してみたいだけど。
その間にも刃同士が撃ち合うと音が何度も何度も響き渡る。左右に避けながら駆け引きをし合いながらお互いの攻防戦は続いていく。
生憎、僕には夏麻や大神のように隠しでもう一つ武器があるわけではない。冬歩のような身軽さもない。それに加えて術式もまともに使えるとは二つか三つ程度。だからこそ、僕にできるのは刀による駆け引きなしの一本勝負。
ゆっくりとつま先に力が入り勢いよく地面を蹴りその速度のまま神月に襲いかかる。それを神月は一振りで交わす。俺はその勢いを殺さずに間を開けずに神月さんに向かう。
あの体制を崩せない限りこちらに勝機はない。
とにかく隙を探すために技を次々と入れ込む。しかし、神月さんはそれを全て読み避けひと擦りもしない。
「もうそろそろ限界じゃない?」
「は?まだまだ……」
こちらは息が上がっているというのに、神月さんは呼吸ひとつ乱さない。
「そっか。でももう遅いしこれで最後にしよう」
神月さんは正面で構えると余裕の笑みを見せる。
本当そういうところ……。
それに合わせて僕も同じように構える。そしてお互いの呼吸さえも止まった中、ほぼ同時に刀を振り下ろす。鍔競り合い。一歩でも引いたら確実にやられる。そいう思い、攻めの姿勢で向かった。その勢いから逃げるように神月は一瞬刀の力を抜き、僕は攻めの勢いが止まらず前屈みとなる。
その一瞬で神月に胴を取られた。
僕は雪崩れ込むようにしてその場に膝をついた。
***
狐川と神月の手合わせが終わった。
それを冬歩と夏麻と固唾を飲んで見ていた。
「久しぶりに見たな、まーぼがあそこまで攻め続けたの」
隣にいた夏麻は映画を見ていたかのような感想を言う。
「そうだね。まぼろんほとんど防御でしか動かなかったから意外」
冬歩は負に落ちない様子で考えていた。
「ちなみに神月に狐川が勝ったことはあるの?」
「ないよ。そもそもみーやに勝ったことがある人なんて見たことないよ」
「え、あいつそんなに強いのか!」
「当然、だってあのお師匠様もやってもう勝てなくなってきてるし」
確かに、この間千ちゃんがいない間に始めていた手合わせも神月が勝っていた。
「今のみーやんに勝てるのはこの間会ったシレネとあとは風見渓かな」
「風見?」
聞き馴染みのない名前に思わず首を傾げてしまう。
「はい、三年前の神楽高校生徒会長です」
「でもあの人のやり方は嫌いだったな」
「それは私も」
「今はその人どこにいるんだ?」
「今はちょっと。違うところにいるんです」
誤魔化された気がするがそれ以上は深追いせず、話をやめてしまった。




