雨の日の花/お菓子パーティー
鏡の遺体が四十九日を迎えて遺骨が埋葬された。それと同時に私も一人で鏡の遺骨を死に場となったところに埋めた。
私はまた大神に嘘をついた。狐川に持たせた遺骨は確かに本物だ。ただ一つ頭部だけを除いて。遺骨の中でも一番記憶が残る部分である頭部だけはこの覡町から持ち出される訳には行かなかった。交換した遺骨の上には鏡の頭部だけがそこに置かれていた。
それからしばらくして夜に雨が降った。
ああ、ついに彼があの場所に来る。
私は確信を持って外に出かけた。
傘をさしてその場に蹲み込むのはあの夏祭り以来の再会の彼だった。
「雨の中、ご苦労様」
そう声をかければ蹲み込んでいた彼は立ち上がりすっとこちらに振り返る。
「分かっててくるんですから相変わらず趣味が悪いですね、本巫女」
「四十九日から最初の雨の日にしか貴方は来ないじゃない、シレネ」
私は彼の隣にそっと立ち、持っていた花をその場に置く。
「我々の目的は本巫女である貴方ただ一人。それ以外の犠牲を作るのは道理に反するので」
「夏祭りの日は随分と悪役だったけど?」
「あそこで私が被害者面をする権利などあろうはずがないではないですか。だから、こんな誰も来ないであろう日を選んできているというのに」
どうやら、シレネにとって私は厄介者らしい。もちろんそのつもりでやっているのだからそう思われても仕方がない。
「今日は上弦の月ね」
雨で見えないながらもそう伝える。
「探りを入れているのですか?」
「こんなチャンス私が逃すとでも?」
「素直でいいですね」
それで教えてもらえなかったことはないのだろうけれど。
「ここ最近、狼と狐が一匹姿が見えませんね」
「今はその二人は頑張っているの。探らないでくれる」
「かしこまりました、本巫女」
なぜこの人とは敵対しているのか、味方であればどれだけ良かったか。時々考える。状況把握にしろ、術式の使いも他に劣りはしない。
彼をただ一人除けば、手強い相手だ。
「私達は貴方がいつ襲撃してきても負けない。必ず」
「心強いお言葉ですね。そうであってくれなければ最高の力を奮えない」
「シレネ」
挑発、威嚇、敵意。それぞれの意味をシレネにぶつける。それを物ともせずにシレネは踵を返す。
「私はこの辺で失礼することにします、再び会うその瞬間まで」
あの時と同じように、黒い扉が現れてその中に姿を消してしまった。
百合の花一輪だけを残して。
***
「なんだか暇ね」
いつの間にか三人きりになってしまった今に集まると、すぐに冬歩が言った。
「夏麻がいなくなったから、言い合う相手がいなくて退屈なのか?」
「ちっがーう!ただ、こう周りが変化してる中に取り残されてる気がして」
なんだかな。と言う冬歩。
「確かにね、夏麻や大神は確実に力を高めてる。今僕たちがしていることは怠惰ではあるんだろうね」
「そんなことおっしゃらないで下さい、二人とも」
緑茶を入れた四季がお盆に湯呑みを乗せて帰ってきた。
「今は各々休戦の時なのです。確かに怠けているばかりでは困りますが、しっかり休みも取らないといざという時動けなくなってしまいますよ」
「そうだけど。置いていかれた気分」
そう項垂れ机に突っ伏す冬歩。
この焦りはわからないでもない。まるで世界が自分だけを置いていったそんな感じ。
俺は冬歩の頭にそっと手を置いた。
「誰も冬歩のことを置いていったりしてない、今まで頑張ったご褒美だと思っていいんだと思う」
「まぼろん」
「そうですよ。冬歩様もまぼろ様も身体も精神も使い果たされてきたんですか。そうだ!お茶菓子今お持ちしますね」
そういうと、四季は置くの戸棚から緑茶というよりも紅茶に似合いそうな綺麗な缶に入ったクッキーを持ってきた。
「ご来賓の方が来た時にしか出さないんですけど、今日は三人でお菓子パーティーしちゃいましょう。雅様には秘密ですよ?」
「わぁ、それとっても楽しそう!私、部屋からトランプ持ってくる!」
顔をあげたかと思うとすぐさま自分の部屋に走り出していった。
「少し元気が戻ったみたいでよかったです」
「そうだな、僕も何か遊べそうなもの持ってこようかな」
そう言って立ち上がると、四季が何かを閃いたように手を叩く。
「そうです。せっかくですから幼い頃のように一緒に寝ませんか?三人で」
その提案に僕は苦笑いをしながらこう答えた。
「勘弁してくれ」
そうして三人だけのパーティーが始まっていった。




