探り、探られ、見つけられ
錫さんの家は至って普通のごく一般的な一軒屋だ。
一階にはリビングと客間が一つ、それに風呂台所トイレといった具合にそれぞれが鎮座している。二階に上がればトイレとそれ以外に部屋が四つ。家族三人なら部屋が一つ余る。それでいて家にいることの少ないご両親となれば尚のこと。
「お風呂、先にありがとうございました」
風呂から上がれば既に母親の都毱さんは寝室で寝ているようでリビングには姿がなかった。
「ん?ようやく出たか。冷蔵庫にあるの勝手に飲んでもいいから」
「はい、お言葉に甘えて勝手にくつろいでますね」
じゃあ風呂行ってくると着替え片手に錫さんはリビングを出て行ってしまった。俺は敬礼をしてから錫さんを見送った。シャワーの音が鳴り始めると俺は静かにリビングを出て二階へと上がった。
さてと、今のうちに俺の仕事を片付けますか。
俺が大神家に来てやることは二つ。一つは、本来の目的でもある能力強化。そっちはあまり時間をかけずに済むだろう。確かに今までとはやり方が少し違う分手間取ってはいるのだが。もう既に二人と成功させている。そちらあまり心配していない。
問題はもう一つの方だ。錫さんに伝えられてない極秘の任務。それは……。
二階の角部屋。俺が使わせてもらってる部屋とは反対にある部屋にに着きゆっくりとドアノブを回す。その中には今から始まるすべての情報がある錫さんの部屋が広がっている。
下の音に注意しながら俺は中に忍び込む。俺が任されていたことのもう一つは月宮鏡さんが亡くなったことによる錫さんの現在の状況だ。
みーや曰く、錫さんは自分のことを警戒しているから何も話さないだろうとのこと。
ならばと買って出た俺は今こうして錫さんの部屋の中にいる。身体に影響が出るなら確実に部屋にも出るだろう。そんな憶測のもと色々と漁ってみる。が、イラついて物を壊したり部屋が荒れたりといった痕跡は見当たらなかった。
案外平気なんじゃないか。
仕方なしに、部屋を出ようとする前に一つだけ気になる場所ができた。それは月宮鏡と大神錫牙を繋ぎ続けた唯一の場所。既に隣にあった月宮家は取り壊しの工事がはじまり工事車両が辺りに止められていたのは今朝方のことだ。俺は硬く閉じられたカーテンに手をかけて両側に一気に開ける。
「あーあ。やっぱりか」
そりゃ何十年と一緒に過ごしてきた間柄なのだから、一ヶ月そこらで忘れられる存在の訳がない。こうでもしないと期待してしまうのだろう。またひょっこり顔を出して朝起こしてくれるのではないか、アレはただの悪い夢だったのだと。
「これはかなりきついな」
目の前に広がる窓一目に貼り付けられてどこにも行かない、行けない、気づかない。と訴えるように釘打ちされた板が陽の光や風が吹き込む隙間などなく敷き詰め広がっていた。




