自宅合宿
というわけで。
「お邪魔します!」
「……帰れ」
一度開いた扉を躊躇することなく閉じる。
も虚しく、こじ開けられる。
「錫さんのお部屋にご招待されることになるとは夢にも思いませんでしたよ」
「俺は夢であって欲しい」
文化祭も終わり、学校には日常が戻ってきたころ、俺にはまたしても非日常が降りかかってきた。
それは戻ること数日前。神月に夏麻の能力の話をされたあの日に遡る。
「無意識にって言っても、どうすればいいんだよ」
「簡単。これから夏麻と大神には同居してもらう」
「どこで?」
「大神の家で」
「いやいや、神月のとこでいいだろう」
「それは無理」
「なぜ?」
「夏麻には既に私と冬歩が無意識状態での伝導ができるの」
「なら俺とできなくてもいいんじゃないか?」
「手札は多いほうがいいでしょう」
なにそれ、怖い。
「私のところだと既にできる私と冬歩が夏麻にとっての妨害になる可能性がある。ならどうするか、答えは一つ。大神の家にお世話になればいい」
何がなればいいだ。
俺からすれば傍迷惑なことこの上ない。が、うちの両親は仕事で家にいないことが多い。そのため、いつの間にか一人増えていようと何も言ってこない。今回もしばらく友達が泊まると伝えると、母親はこれで俺がまともな飯を食うと安堵し。父親は、自分の部屋に入らならければいいの一言で終了だった。
「錫さん、俺の荷物はどこに置けばいいですか?」
「ああ、ちょっと待って。今案内するから」
今回の期間は出来るまでと無期限で言い渡された。親にはとりあえず、家のリフォームで一ヶ月とだけ伝えた。俺としてはこの期間で終わってくれないと次の手を考えなければいけないので困る。
片付けも一通り終わり、夕食にするためリビングに行くと珍しく母親の姿があった。
「あれ?仕事じゃなかったっけ?」
「今日の夜勤は休み」
初めて会う母親に夏麻は礼儀正しく手土産とともに挨拶をする。
「初めまして、今日からお世話になります灰夏麻です。お邪にならないようにしますのでしばらくの間よろしくお願いします」
「ご丁寧にどうも。あまり大きな家じゃないけどゆっくりしていって」
その答えを待ってましたと言わんばかりにはいと返事をする。久方ぶりに人が揃っての食事が始まった。
「そういえば、錫牙さんのご両親はお仕事何をなさってるんですか?」
「私は看護師、主に夜勤の方が多いんだけどね。あと旦那は営業職で全国絶賛飛び回り中なの。だから家には錫牙一人のとこが多いの」
「そういうわけだから、珍しく会えたレアの母親と滅多に会えないウルトラレアの父親だから夏麻が増えたところで何も問題はないんだ」
「じゃあ、遠慮なくお邪魔させていただきます!」
そんな調子のいい夏麻を見て、母親は弟ができたみたいだと呟いた。




