最大の武器
それから一ヶ月、俺は夏麻との手合わせに勤んでいた。
しかし──。
「あー、くそ!なんで勝てないんだよ」
「えへへ、これで二十八連勝」
俺は苦戦していた。夏麻の主の武器である弓矢と鎖打棒を止めることは出来ずにほぼ逃げ回っているだけ。俺は能力どころか武器ですらまともに扱うことが出来ずにいた。
「夏麻変わって。大神、まずは敵からの攻撃を全て避けることを意識して」
「守備ばかりじゃ負けるだろう」
「でも勝ててないじゃない」
痛いところを突かれる。
「今勝てないのなんて当たり前。だからこそ、どんなに煽られても今は守備に徹して。そうすれば隙が見えてくるはずだから。それが見えない間はどれだけ攻撃しても自分の隙になるから負ける」
「隙がわかるまでは避け続けろって?」
「守備ことが最大の武器となればかなり強くなる。あとは……聞いて」
それだけ残して神月はまた戻っていってしまった。
今日も遅いということもあり、最後の一戦となってしまった。神月に言われた通りひたすら攻撃を避けまくる。矢が飛んできても無理に突っ込まずに、鎖打棒に引っかかりそうになれば近場に落ちている枝を使ってとにかく避けた。
「どうしたんですか?攻撃してこないんですか大神さん」
挑発に乗らず、音を聞く。
すると、先ほどまでは気がつかなかった方向から微かに音が聞こえる。
「……五時の方向」
確かな音ではない。ただ服が擦れる音、それに伴い地面を踏みしめて枯れ葉が音をなす。
これが神月が言っていた隙というのならば、近づいてみるのはどうだろうか。夏麻がどんな能力を持っているのかは現時点では不明だ。でも、行ってみなければわかるものもわからない。俺は息を殺しながら音を聞きながら夏麻の背後につける。
今のところこちらには気がついた様子はない。このまま仕掛けるのはまずいか。けれど立ち止まってばかりもいられない。
俺は隠し持っていたナイフ。と言っても今回はゴム製のもの。を手に取り構えて真っ直ぐ前に投げる。
と同時に左に走り出す。いつまでもそこに止まっていては居場所が特定されてしまう。
そう移動している隙に夏麻にナイフが当たったのがちょうど見えた。
動揺、戦慄、警戒。
夏麻に対してはまだ距離があるが伝わってくる。なら今しかない。俺は足を音を殺して、けど走って夏麻の背後に出る。そして夏麻に対して殺意を込めて拳を振りかざす。刹那、夏麻は俺が飛び出していきたと同時に右に避け結果として俺は夏麻の肩に擦る程度でしか届かなかった。
両者向き合う形で睨み合う中。
「お互い、やめ!」
神月の声が互いを制しさせた。




