殺し合い
放課後、家に帰り荷物を置き制服から私服に着替えて自転車で三十分も漕げば稲荷神社に到着する。
「お、やっと来た!遅いですよ」
こっちだと言わんばかり手を振る夏麻。
「ごめん、遅くなった。てか、なんで夏麻?」
「そりゃ俺もこの訓練に参加するからですよ」
「夏麻も?」
そうそうと頷きながら答える。
「みーやはもう準備を済ませて待ってます。俺達も行きましょう」
そう言われて連れてこられたのは稲荷神社の北側にある平家だ。夏麻の作法に習い俺も靴を脱ぎ、一礼してから中へ入る。そして、事前に持ってくるように言われていた室内ばきに履き替える。
「連れてきたよ、みーや」
「疲れてる中来てくれてありがとう、二人とも」
中に入ると、ただ広いだけの道場の中にジャージ姿の神月が準備を済ませて待っていた。
「さあ、始めよう!」
「夏麻、気合があるのはいいけど最初は私と大神ね」
「は?」
「えー、やる気満々できたのに!」
「夏麻はその後ね」
期待が外れて明らかにしょげた顔をしながら端の方に座る。
「じゃあ夏麻も待っていることだしやろうか」
「やるってなにを?」
「殺し合い」
その言葉をきっかけに一瞬にして景色が百八十度一変する。あの地下のように辺りは木々に覆われて下も土になっている。
「まずは武器の装備から。大神の場合はグローブがメインとして現れたから、サブとしてナイフを渡しておくか」
またしても勝手に話が進んでいく。
「ナイフなら中距離まで攻撃範囲が広がる」
そう言って渡されたナイフを右手に持つ。
「それは手袋と違って出現によって使えるものじゃないから、常に何処かに忍ばせておいて」
左手に渡されたナイフケースを見てとりあえず左の腰につけてみる。
「あとは大神、私を仕留める気で殴りかかれ」
「じゃあ遠慮なく」
戸惑うことなく俺は神月に向かって拳を振りかざす。その瞬間、俺の手にはこの前見たグローブがどこからともなく現れて装着される。一瞬驚きながらも神月の顔面目がけて拳を突き出すが、ひと擦りもせずに俺の拳は宙を殴った。
「まさか戸惑うことなくやるとは驚いた」
「俺もグローブが出てきて驚いた」
「それが武器の出し方。慣れてくれば回りくどいことしなくてもできるけど、今は本気で戦うことを意識してやった方が上手くいく」
なるほど、そのための今は殺し合いなのか。
「武器の出し方もわかったところで早速手合わせといこうか」
「え、今から?」
今のが殺し合いじゃないのか。
「今のはゲームでいうところのチュートリアルみたいなもの。で、今からが実戦ってわけ」
神月は床に置いてあった竹刀を手に取り構える。俺も同じようにグローブをつけたまま戦闘態勢にはいる。
「それじゃあ、お互いに正々堂々とね」




