黒い手袋
光が去ると手元には黒い手袋だけが残されていた。
「これは?」
「大神の武器」
俺が三日間必死で探し回った少女が正面からこちらに歩いてきた。
「神月……お前なんで」
「これは火事場の馬鹿力を出してもらうための私とお師匠様の作戦」
「どういうことだよ」
「元から日数が半分になったら私は能力が届く最低限の距離からの見守りすることになっていたの」
「能力が届く?」
「私には他者の能力を増幅、減少させるものがあるの」
「だから神月が付き添う人だったわけか」
俺は左手で頭を掻いた。どうやら俺は神月の手によって転がされてたみたいだ。俺は解けた緊張感からその場にへたり込む。
「騙された」
「でもおかげで能力がわかった」
「なんだよ、俺の能力って」
「まだわからないの?」
「その聴力じゃよ」
後ろから遅れてきたお師匠様がやってきた。
「聴力?」
「ここから大神がいた道場までどれくらいの距離があると思う?」
どれくらい。
夢中で声が聞こえる方へ歩いてきた。そんなこと考えたこともなかった。
「優に100メートルはあったよ」
「そんなにあったんだ」
「異常だとは思わないの?明らかに範囲を超えて聞こえる音。届く声。別に私叫んだわけじゃないもの、今話してる声の大きさで大神に語りかけてた」
そう言われると、おかしい。
特別耳が良かったわけではないし、絶対音感なるものがあるわけでもない。ましてや100メートル先の声が途切れ途切れではありながら聞こえるなんて異常だ。
「なんで、俺……」
考えてみれば思い当たる節はないわけではない。あのお祭りで迷子放送で呼ばれて怒りながら来た夏麻も神月が落ちた滝を探した時の水音も。全て普通なら聞き届かない距離のものではあった。それでもはっきりと
「でもこれでようやく始められる」
「始めるって何を?」
「まさかこれで終わりかと思った?まだスタート地点に立っただけなのに」
「今度は何させる気だ?」
「大神は今能力が聴力であることがわかっただけでしかない。それは大きな発見ではあるけど、まだ全然使い物にはならない。これからそれを使えるものに変えていく」
嫌な予感。
絶対に言ってはいけない「何するの?」は今までになかった。言わないこちらに痺れを切らして1秒。
「今度は能力強化する」




