変わらない風景
俺は走り続ける。
逃げるように追いつかれないように捕まらないように。だが、どれだけ走っても駅に着く気配も人がいる気配もない。むしろ、先ほどからずっと進んでいないのではないかというほど同じ風景。まるで部屋でルームランナーのような。そして、あいつらとの距離は一定のまま。このまま朝が来るまでこの鬼ごっこが続くのかと絶望を感じた。その時、視界に入ったのはぽつりと光る看板。この辺りでそんなものは先程のコンビニ以外に他にない。普段ならば星の光を殺す目障りな電灯。だが今回は、助けを求めるようにコンビニめがけて全力で走りだした。
俺は整わぬ息のまま迷わず再び店内に入ろうと駆け寄る。が、自動ドアが開く気配が全くしない。俺は飛んだり無理やり手でこじ開けようとするがピクリともしない。そうしているうちに、あの引きずった音が追うようにして一歩。また一歩と近づいてくる。恐怖から俺は無我夢中でガラスに体当たりを始め突き破ってでも入ろうとするがやはりピクリともしない。こうなったらまた走り回るしかないと思った俺は後ろを振り返り走り出そうとしたのが遅かった。既に、あいつはコンビニの駐車場前にまで来ていた。後ろには開かないコンビニの自動ドア、前には白蛇を巻きつけた女。まさに八方塞がり。現状況を打破する方法など全く思いつかないまま距離はゆっくりとでも確実に近くなっている。
なんで、こんなことになったんだ。
それを考えたところで今の状況が変わるわけではない。今は一刻も早く逃げることを考えなければ。すると、ズボンに入っていた携帯が鳴り始めた。見ると画面には『月宮鏡』の文字が書かれていた。そこで俺は気がつく。というか今まで気がつかなったことの方が不思議なくらいだ。 俺は、すぐに月宮からの電話に出る。
「あ、やっ……た。いま……」
そうして電話は切れしまった。まともに会話をすることなく。これでは助けを呼ぶことなど到底できない。そんなことをしていると女はもう目と鼻の先にいる。今から逃げ出す方法など思いつくわけもない。
俺はこのままどうなるのだろうか。
その時頭の中には『死』の文字が浮かぶ。
その文字をかき消したくて距離を取るために右足を動かすと、カランと何かに当たった音がした。下を見るとあったのは木の枝。コンビニを出た時にはこんなもの落ちてはいなかった。こうなったら焼けだった。このままだったら確実に俺はやられる。その前に。
俺は、木の枝を拾い上げて相手に向かって構える。そして一歩踏み出した瞬間。
両足両手首に白蛇が巻きつき動けなくなる。相手を見ると着物の袖で口元を隠しながらケタケタと笑っている。そして、自分の近くにいた白蛇に右手をパッと出してまるでいや、確実に俺をやるように指示をした。それと同時にその白蛇は俺の元へと口を大きく開けながら勢いよく迫ってくる。俺は恐怖で目を閉じる。が、いくらたっても痛みはない。それどころか先程まで拘束も解かれている。薄っすらと目を開いてみると目の前にはーー。
「神月、雅?」