なんだよ、それ
二階の一番奥の部屋へと案内される。
「ここが鏡の部屋よ」
「無理を言ってすみません。ありがとうございます」
「いいのよ。そういえば、毎朝錫牙君の部屋には行くけど逆はなかったものね」
「確かにそうですね」
今思うとよくあんなこと許してくれたな。
ドアを開けると部屋全体に日が差しているせいか全てが宝物のようにキラキラしていた。
「あの子が使ったときのまま動かしてないからゆっくりしていって」
ありがとうございますともう一度伝える。ベランダ越しからしか見たことがない月宮の部屋だ。俺の部屋に通じるカーテンを開ける。そこからは普段とは逆で俺の部屋が見えた。いつもは違う見方。たった一つ違うだけなのに世界が百八十度変わったみたいだ。
「俺は月宮に何か一つでもあいつの役に立てたのかな」
月宮の机を指で撫でなが独り言を呟く。
「そんなの本人に聞かないとわからない。でも、少なくとも大神の存在は月宮さんにとって大切で大事でかけがえの無い存在だったと思う」
いつか月宮から聞いた言葉。
「なんだよ、それ」
「ただなんとなくそう思っただけ」
本当になんだよ、それ。
***
一通り部屋を見せてもらい、俺と神月は再びリビングへと戻る。
「一つお伺いしてもよろしいですか?」
「はい、もちろんです」
「仏壇の隣に置かれている浴衣は?」
「あれは……鏡の遺品よ」
「あれが全てですか?」
あの日着ていた浴衣や携帯等が置かれていたが、そこには鈴蘭の簪はなかった。




