霊魂の儀
式は滞りなく進んでいった。そして無事に全て終わり、月宮は一週間ぶりに家に帰ることとなった。
「大神、少しいいか?」
何か考えられるほどの頭を持たない俺は狐川に誘われるがままついて行った。その先は予想もしていたもう何度きたことか稲荷神社に。
「先に謝っておく。ごめん、今はこうすることしか出来ない。行方知れずの手がかりを探すには」
先に意味のわからない謝罪を受けてから中に通された。
「おかえりなさいまぼろ様、大神様。雅様は奥で既に準備は出来ております」
「ありがとう。すぐに向かう」
本当に今から何が起こるというのだろう。
俺は狐川の後を追って部屋に入る。
ただ何も考えずに足を踏み入れた。
暗闇の部屋、その四角に一本ずつ灯されていた。そして床にはどうやって書いたの白色で、魔方陣と呼ばれれるものなのだろうか。それが大きく描かれて、その中央には。
「……月宮?」
先程、火葬まで滞りなく終わり一週間ぶりに家に帰った月宮が横たわっていた。
「月宮!」
俺が月宮に向かって走りだろうとすると何かにつまづいて転んでしまった。
「痛った!」
こんな平坦な室内で転ぶなんて、単純に足が絡まったかもしくは。
「神月!」
こいつによって故意に転ばされたのだ。俺は引っかかった方を見て叫んだ。
「お前、どういうつもりだ!」
「どうもこうもない、私はただ真実が知りたいだけ」
「お前!」
すぐさま立ち上がった俺は、神月の胸ぐらを掴んだ。
「真実だと!それよりも今この状況を説明しろ!お前には人の気持ちっていうのがないのかよ!」
そんな俺には表情一つ変えない神月。
「今の葬儀はなんだったんだよ!皆んなが気持ちをこられながら送り出したんだぞ。どんな気持ちであの二人がいたと思うんだよ!」
「答えろよ」
「もちろん親御さんには申し訳ないことをしたって思ってる。けど、月宮さんの魂が見つからない以上身体から残ってる全ての記録を回収する義務がある」
「回収?」
「そう、一番は魂。アカシックレコードに全て記録されているが今はそれがない。だから常に共にあった身体から出来る限りのことを引き出さなきゃいけない。あの場所だとゼルが行けないのとあまりにも時間が短すぎた」
「アカシックレコードってなんだよ」
「その人が生まれてから亡くなるまでの記録。それを回収するのが死神、ゼルの役目」
そこで初めて死神『ゼル』に目を向ける。右の肩には斧を担いだ状態で部屋の片隅にひっそりと座っていた。
「それをして何になる」
「行方知らずの魂を探す」
「そんなことできるのかよ」
「確証はない。けど、身体の状態からして無理矢理魂を引き取られたというわけではない。少なからず、未練なく天へと昇る途中で何者かに奪い取られたと考えている」
「それで?」
「天へと昇って行ったということはゼルが魂を回収するまでの五十メートル間で連れ去られた可能性が非常に高い。その間に残っている記録諸共抜き出す」
「やりたいことはわかった」
「なら──」
「わかっただけだ。神月のやり方に納得なんてしてない。けど、今は残された手掛かりから突き止めていくしかない。そうなんだろう?」
「今の私たちにはそれしかやり方がない」
俺は何も言わず神月の胸ぐらから手を離し後ろに下がる。
「これより霊魂の儀を執り行う」




