別れの違和感
なんだか横にはなってみたが、あまり休んだ気がしない。いよいよ今日なのだ。月宮の葬式。こうやって布団の中でうだうだ考えていてもどうすることもない。ならいっそのことすべてを忘れてもう一眠りを……。
「大神さん!なんと今日は昨日の雨が嘘のように晴れてますよ!」
「俺の中では土砂降りだ」
勢いよく開けられた襖からは太陽のようにキラキラしたこと夏麻がいた。
「ちょ!なんでまた布団を被るんですか!ちゃんと行きますよ。そのためにまーぼが大神さんの制服取りに行ってきたんですから」
「やめろ、引っ張るな」
いつ俺の制服を取りに行ったんだ。というか、家に押しかけるなよ。
「なんの騒ぎ?」
「あ、みーや!聞いてよ、大神さんが布団から出てこない」
いや、俺のせいみたく言うな。人間の三代欲求を満たしてるだけだ。
「必要ない」
珍しい、俺の予測では夏麻と結託して俺を引きずり出すのかと。
「でも!」
引き下がらない夏麻。
「否が応でも、引き摺り出す」
こいつ今なんて言った?
必要ないの次だ。引き摺り出すって?
「傀儡せよ。全ての身をこちらに受け渡せ」
「は?」
俺は神月の操り人形のようにこいつの思うがままに行動させられた。
***
「なんて顔してるんだ、大神」
「人の制服を盗み出した奴だ」
「失敬な、僕は大神の家に行って『明日は僕の家から一緒に行くことになったので制服を取りに来ました』と言っただけ。そしたら、すんなりと渡してくれたよ」
馬鹿かうちの親は。
「呑気に話してる場合?」
無理やり連れてきた張本人のご登場だ。一言文句を言ってやらないと気が済まない。
「おい!って神月なんだよその格好」
俺や狐川とは違い、神月は真っ黒のスーツに白の手袋をつけていた。
「狐川からまだ聞いてないの?」
「少し準備に手間取ってさっき落ち合ったところだったんだ」
「仕方ない。もう時間がないからこのままやる。まずは大神は月宮さんのご両親と話をしてきて」
なぜ俺は既に命令をされているのだろうか。
「この度はご挨拶が遅くなって申し訳ございません。謹んでお悔やみ申し上げます」
葬儀場に入ると月宮のご両親は既に席に着いていた。俺は月宮よりも先に二人に声をかけた。
「錫牙君、君はあの時鏡と一緒にいたんだろう?なら犯人を見なかったか?なんでもいいんだ何か手がかりになるようなことがあれば教えてほしい」
「ちょっと、貴方」
肩を掴みながら父親は言ってくる。無理もない、ただでさえ証拠となるものが少ないのだ。藁をもすがる思いで俺を問い詰める。だが、制約により俺は話せない。
「ごめんなさい。俺が知っていることは警察に話したことが全てです」
すると掴んでいた手からは力が抜けていく。
「そうか。困らせて悪かったね」
「錫牙君、辛い中来てくれてありがとう」
「そんな!昨日は来られなくてごめんなさい。でも最後にどうしても会いたくて」
「そうか。あまり時間はないが話をしてきなさい」
いつまでも優しい二人だ。
そんな二人に何も告げられず裏切るようなことをしている自分が嫌になる。
そして何より今目の前にいる月宮に会うことすら。すでに棺桶には蓋がされており、顔のみが見れる状態だった。
「月宮、ようやく会えたな。遅くなってごめん」
それに対しての返答は当然ない。
「お前は今どこにいるんだ?」
そうして棺桶の上から触れようと手を置く。そして月宮を見る。
……なんだか変だ。
何がと聞かれれば答えられないのだが、違和感が抜けない。そう考えだすと、月宮を一度出してでも確認したくなる。もちろんそんなことは出来るわけもなく、程なくして式が開始された。




