責任
それを見送り終わると紡さんも「またお待ちしています」と一礼してから森の中への姿を消していった。そして、その場には夏麻と二人きりになった。
「大神さん、俺たちも帰りましょうか」
「帰るってどこに?」
「夜も遅いし、稲荷神社に?」
「言うと思った」
あまり乗る気もしないが、さすがに夏麻に家まで送ってもらうにはいかない。それを合図に俺と夏麻は歩き出した。
「そういえば、なんであんなところにいたんだ?」
聞きますよねと苦笑いをしながら答える。
「まーぼに言われて。本当なら自分が行きたいけどみーやに帰れと言われたから代わりに行ってくれって」
狐川も懲りてはいなかったらしい。自らは大人しく帰り、後任として夏麻に頼むとは。
「おかげで俺は大助かりだけどな」
あのまま、明かりもない森に一人。加えて、月宮の終焉場だ。ただでさえ居たくないというのに一人となるとさすがに嫌だ。夏麻はいいように使われた気がする!とプーと頬を膨らませる。それを見てなんだか可笑しくて笑ってしまう。
「でも、大神さんが元気そうで良かった」
「え?」
「ずっと心配してたんです。あの日から姿も見てなくて、みーや達からは学校にも来てないって言ってたから」
言われてみれば、外に出たのなんて一週間ぶりだったかもしれない。
「ごめんなさい」
立ち止まった夏麻に合わせて俺も足を止める。
「急に何?」
「俺のせいだから。俺があの時大神さんだけに荷物を任せて行かせたから。きっかけはあれでしょう?」
あの日のことは、今でも鮮明に覚えているがあまり思い出したくなくて考えないようにしていた。
「違う、と思う。俺にはまだなんでこんなことになったからわからないけど、全部は神月の──」
「違いますから!」
力強く否定される。
「違いますから。確かに何も言ってないことは山のようにあるけど、みーやだってつっきーのこと守ろうと一生懸命だったから」
「つっきー?」
新たなあだ名。誰のことだろう。
「つっきーずっと言ってました。『自分のことなんて見捨てちゃえばいいのに』って」
「だからつっきーって?」
「それでも『それはできない』って毎回言ってたから。それに応えるために、みーやの出来うる限りの力を使ってつっきーのこと守ろうとしてた。けどできなかった」
二度も聞いたのに、無視して続けていく。多分話すことに必死なのだろう。憶測でしかないが、月宮のことなのだろう。
「別に攻めてない」
「さすがにそれくらい嘘だって俺でもわかりますよ。それに大神さんがみーやのこと恨みたい気持ちもわかります。けど、もう少しだけ待ってあげてください。きっとみーやも沢山、沢山考えているだろうから」
その結論を待ったところで月宮は戻ってこないのに。




