三種の宿し身
今日の月はあの始まりを思い出すにはいい夜かもしれない。俺は掴んでいた神月からそっと手を離した。
「三種の神器って知ってる?」
唐突な問いにまずは何も反論せずに答える。
「……勾玉、剣、鏡だろ」
「その三種にはそれぞれ主人を守る力を秘めている。勾玉には魔除けとして、剣は敵となる相手から自らを守るため」
一呼吸置く。月の光によって影ができ神月の表情はわからない。
「鏡は主人の身を守るために」
「その三種の神器がなんだって言うんだよ」
もったいぶるかのようにほくそ笑む。
「一言で言えば『擬人化』かな」
「擬人化?」
「そう、例えばこの机」
一番近くにあった机をスッーと触る。
「これを人に見立てるやつ」
「それがなんだって言うんだよ」
「月宮さんも同じ、三種の神器の鏡に見立てられた存在」
「意味がさっぱりだ」
だよね、とでも言いたげな表情をして机の上に腰かける。
「三種の神器の『鏡』の力をその身に宿した存在ということ」
「それが今回のに関係でもあるのかよ」
「さっき言ったでしょ?三種の神器一つ一つに役割があって鏡は主人を守るって」
「だから?」
「だから、月宮さんは主人である大神のことを守ったの」
その瞬間カーテンが舞い上がるように揺れ始める。
主人?誰が。俺が?
何を言うのだろうか。俺が月宮の主人な訳がない。ただ単純に隣同士に住む幼馴染で、この十六年間当たり前のようにずっと一緒に過ごしてきた。そこに主従関係など存在しない。
「いつ俺が月宮の主人になったんだよ」
「正式に決まったのは中学一年生の入学式の時。月宮さんは最初から大神を主人にするつもりで私に言ってきた。『自分の命をかけて守る相手なら大神錫牙でなければ嫌だ』って」
「そんなの──」
聞いてない。
「言うわけないし、私と月宮さんしか知らない」
「そんなことなんで隠してたんだよ!」
自分が月宮の主人。
またしても自分の知らないところで何かが動く。
「表上があったから。本来なら三種の神器は三つ揃って初めて役割を果たす。そのため、表上として全て私を主人であることにしてある」
「だから誰にも言えないし、言ってないってか?」
「どうしたって物事には裏がある。それを通す建前もね」
「それでこの理由で俺を納得させようってことか?」
「納得は違うな。ただ月宮鏡の死の真実を知っておいて欲しかった。単なる私のエゴだ」
「エゴ?」
「同情、もう何も知らないでは済まされないところまできているから」
「何かあるのか?」
「今、月宮さんが亡くなったことによって大神を護る存在はいなくなった。けれど、大神を襲ったあの少女と男性は少なからずまたここに来て何かを起こす。それまでの短い期間で貴方の能力を引き出す必要がある」
能力
その言葉で思い出されるのは湖で見せられた狐川のものだ。
「俺の能力?」
そんなもの存在するのだろうか。




