アイスクリーム
俺と神月はできたプリントを職員室に提出すると、担任か礼だと缶コーヒーを渡してくる。報酬にしてはあまりにも少なすぎる気もするが、素直に受け取る。そして、お互いに別れの挨拶などせずにそれぞれの帰路につく。俺は電車通学のため学校から駅までを十分かけて歩く。普段なら狐川と一緒に帰っているのだが、さすがに今日は先に帰った。暇を持て余すように、普段から使っているイヤホンをポケットから取り出す。そして片耳にのみイヤホンをつけて適当に音楽を聴き始める。しばらくすると気分が乗ってきて鼻歌でも歌いながら歩いていると。
『ず……ず……』
と何かを引きずる音。一歩また一歩と近づいて来る気がして立ち止まる。今聴いている曲にそんな効果音のようなものも俺が歌っている鼻歌にもない。
なら、俺以外ではないところから。
いや確実に背後から。後ろを振り向きたという好奇心と何者かわからないという真逆の恐怖心。そして振り向いてはいけないという本能。三つの思いが重なりながら俺は本能に言われるがままに、俺は止めていた足を先程よりもスピードを上げ進める。すると、ぽつりと普段なら邪魔でしかない灯りを見つける。間違えなく駅から学校までの道のに唯一あるコンビニだ。俺は一心不乱にコンビニへ駆け込んだ。店内には「いらっしゃいませ」と店員声だけが響く。適当に店内を物色し始める。ここにいればさっきのも無くなるはずだ。あまり寄り道などはしないため滅多に入らないコンビニ。店内を見て回っているとアイスコーナーを見つけた。それと同時に今朝の占いを思い出した。
ラッキーアイテム、アイスクリーム
さっきのことを思いなんとなくお守りついでにいつも買うアイスクリームではなく、少し高めのアイスクリームを一つ手に取りレジへと持っていき会計した。店内を出て久しぶりに食べるアイスクリームは美味しく疲れ切った体に潤いをもたらした。食べ終わるとコンビニを出て辺りをしばらく見渡してた。そして、先程の音が聞こえないことを確認してから元の道へと戻る。
あの音の原因は一体なんだったのか。不審者にしてはあまりにも怪しすぎる。だったら一体?そんなことを考えていると電柱に貼られた一枚の紙を見つける。
『覡町 夏祭り』
見出しにはそう大きな文字がこれ見よがしに付けられていた。毎年行われている町の一大イベント覡町夏祭り。日にちは決まって八月三十一日となっている。となると、あの引きずっていた音も神輿の時にでも使う縄を引いていたものと考えるのが妥当だろう。そう思っていると風など全く吹いていなかったというのに木々がざわざわと揺れ始める。
何かの始まりを告げるように。終いには近くにあった電柱の明かりが消えてしまった。
……嫌な予感がする。
その予感はすぐに的中する。先程、コンビニに入ってやり過ごしたと思ったあの引きずる音がさっきよりも確実に近くに聞こえる。それに加え、先程までなかった寒気を感じる。
……アイスクリームを食べたせいだ。
そう自らに言い聞かせ、先程よりも大きな歩幅で歩き出す。すると、晴天のはずの覡町に季節外れすぎる雪。いや、後ろからのみ吹雪を受ける。もうこれは神輿の道具という安易な考えが通用しない。俺は意を決してゆっくりと後ろへ振り返る。そこには白い着物を着ていて目が赤い女性。加えて首や腕に綱っぽいものが絡みついて彼女の周りからは白い靄のようなものが出ている。そんなことに気を取られていると、彼女は右手を前に出すと絡みついていた綱。
いや、あれは……白蛇?
白蛇が異常な速さで俺の方へ向かってくる。俺は、噛まれる寸前のところで持っていた鞄を白蛇目がけ投げる。的中したことによって緩んでいるうちに走り始めた。こんなことをしたってすぐに追いつかれることはわかっている。だが、今の俺には逃げることくらいしかできることはない。
やっぱり、占いなんて信じるんじゃなかった。