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稲荷神社の妖達  作者: 朝凪
能力編
29/93

意味のわからない望まれたこと

この雨はきっと彼の心雨なのだろう。

月宮鏡が亡くなって一週間経った今日、彼女のお通夜が執り行われた。出張で離れていたご両親も急いでこちらに来たらしい。


鏡が亡くなった後、すぐに警察が駆けつけた。まずは私と大神がすぐに事情聴取に連れていかれた。手短に要点だけを的確に話した。どっちにしろ彼らがいくら手をかけて調べたところで答えなど到底辿り着けない。なにせ、二人に対する情報が皆無なのだ。そのため、いくら証拠や証言を探したところで何一つ解決の糸口にはならない。警察ができることなど、あったとしても辻褄合わせの犯人を作ることだけだ。いわば未解決事件へ仲間入りだ。


「大神、まだ来ないのか?」


肩を並べるように来たのは狐川だ。


「多分来ないと思う。あれから連絡は?」


「いくらメールを送っても電話をしても一向に出ない。さすがにこのままはまずくない?」


まずい。非常にまずい。

この状態でまたシレネがこちらを襲ってくれば、確実に負ける。仮に勝てたとしても犠牲は多く出るだろう。


「一刻も早くしなきゃいけない」


雨音よりも早く。



***



月宮が死んだ。


俺の目の前で。


俺を守って。


月宮鏡はこの世を去った。


俺のせいで──。


こんなことばかりが頭の中をぐるぐると回っている。最期に月宮が言った『最後に貴方を守れてよかった』それだけが呪いのように頭の中にこびりついて離れない。

まるでこうなることを予想していたかのような言葉。

何も知らない、俺だけが。

月宮は一体何を知っていて、何をしてきたのだろう。もうその答えを聞ける人はこの世にはいない。

そんなことを考えていると、中断させるかのようにドアをノックされる。俺は息を殺しジッと部屋の片隅に蹲った。


「大神、部屋にいるのか?」


声色的に狐川だ。

そういえば、メールと電話すごい数来ていた気がする。今のところ全て無視をしているが。


「今日、月宮さんのお通夜だったよ」


そういえば両親がそんなことを言っていた。朝出かけるときに親に散々言われたが結局俺は行かなかった。いや行けなかった。


「明日は告別式だ。その前に一度大神に会ってほしい。二十二時、学校で待ってる」


それだけ伝えると足音がだんだんと遠くなっていった。

会って何になる。

もう二度と動かない月宮を見ればもっと思い知らせる。月宮が死んだのだと。

逆に今を逃せばもう見ることはなくなるのだ……。



***



二十二時、神楽高校。


「やっぱり来た」


校門前で狐川に見つかった。


「一週間ぶり。さ、中に入ってもう準備は出来ているから」


そして狐川はガラガラと門を開ける。狐川について行く形で俺は校舎の中へと入って行く。

ついて行った先には自分が使っている教室だった。狐川は躊躇う様子もなく扉を開けると、中には既に神月が立っていた。


「連れてきてくれてありがとう」


「これぐらいお安い御用さ」


「それより……」


狐川の後ろにいた俺をジッと見つめる。


「大神、これが最後だ」


神月が左にズレると後ろには机に横たわる月宮の姿があった。


「つ、きみや?」


白装束を着た月宮に、俺は震えながらも近づき手に触れる。そこにはもう既に体温はなく、夏の夜には気持ちの良い冷たさだった。


「ごめん、ごめん月宮。俺のせいで」


自然と涙が溢れ出す。

何度も何度も月宮に対して謝り続ける。しばらくそうしてると、ポンと肩を叩かれた。その手を瞬間的に払いのける。その勢いで振り返り神月と向き合う。


「お前のせいだろう、神月。お前があいつらを殺していれば月宮は死ななかった!そうだろう?」


俺は神月の返事など待たずして続ける。


「返せよ、月宮鏡を。俺の日常を。全部返せよ!」


「大神少し落ち着け」


「狐川は黙ってろよ。神月、お前のわけわかんないやつのおかげで俺は巻き込まれてるんだよ」


狐川の制止も聞かず、湧き上がる怒りを神月にぶつけてく。ついには神月の胸ぐらまでも掴みその勢いで教室の壁へと音を立てて押さえつける。


「月宮を返せよ、神月」


「おい、いい加減に──」


「これは約八割月宮さんが望んだことだ」


狐川の言葉を遮り、やっと口を開いたかと思えば。またわけのわからないことを言い出した。


「お前何言ってんだよ。月宮が望んだこと?意味──」


「わからない、だろう?なら一から説明してあげる。今回の意味わからないことを」


見抜いていたかのように、先ほどよりも強い口調で制するように話し始めた。

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