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稲荷神社の妖達  作者: 朝凪
プロローグ
26/93

夜の目覚めの出会い

水嶋さんもが、巫女の一人。

また神月みたいになんらかの特別な巫女なのだろうか。それなら狗神もまた巫女なのだろうか。


「さ、二人とも座ってください!早く食事にしましょう。」


「あ、その前にこれを。」


そう手渡してきたタッパーを開いた四季は喜びの声をあげた。


「市華さんの肉じゃが!」


「喜んでもらえたらいいんだけど」


「はい、市華さんの肉じゃがいつも美味しくて嬉しいです」


四季は肉じゃがを持ったまま一度台所へ向かい盛り付けをし再び戻ってきた。そこまで四季が言うのなら食べてみたくなる。俺は四季が持ってきた肉じゃがに手を伸ばし一口。その瞬間人参の甘みやじゃがいもに染み込んだ旨味が口いっぱいに広がっていく。


「本当だ、美味しい」


「ありがとうございます」


その美味しさからか俺は何度も何度も肉じゃがに手が伸びる。


「気に入ったみたいだね」


「母親が作ったやつよりこっちの方が何十倍も美味しいからな」


「そんな、そこまでは言い過ぎですよ」


「いや、本当に。あの人の料理は九割手抜きだからな。ここ最近は月宮が作ってくれてるけど」


「月宮さん?」


「そう。あいつああ見えて意外と料理は上手いんだよな」


「そういえば、学校のお弁当は毎日自分で作ってるって言ってました」


そんな他愛もない話をしながら食事を楽しむ。四季が神月に大学芋ばかり食べすぎだと怒れば、夏麻と冬帆はその肉は自分のだと奪い合いを始めたりと本当に賑やかな時間を過ごした。


***


結果として俺はまたしても狐川の部屋に泊まることになった。そこにはこの前とは違い一人増えた状態で。


「なんで男三人がこんな狭い部屋に泊まんなきゃいけないんだよ」


「文句があるなら外で寝てくれてい一向に構わないよ、狗神」


狗神は舌打ちをすると壁側を向くとすぐに規則正しい寝息が聞こえてくる。俺もそれにつられてなんとなく目を閉じた。

それからしばらくして何の気なしに目を開けると指し示す時刻は丑三つ時と言われる午前二時。俺は喉の渇きを覚えて狐川の部屋を抜け出し居間へと向かう。そこからは小さな明かりが漏れていた。その明かりに誘われるように襖を開けると書物と向き合う神月の姿があった。


「こんな時間までなにしてるんだ」


俺に気がついたのか顔を上げて掛けていた眼鏡を外す。


「少しだけ確認を」


「何にか飲む?」


「ならお茶を」


俺は了解とだけ言い台所へ向かった。

二つ分のお茶を持ち神月の向かいに座る。


「部屋で読まないのか?」


「私の部屋には白雪がいるから」


ちなみに水嶋さんは冬帆の部屋に泊まっているらしい。本当なら狗神も夏麻の部屋に泊まる予定だったのだが、昨日今日で片付かなかった部屋に泊まれる場所などなく三人部屋となった。


「狐川と狗神って仲悪いのか?」


「あの二人喧嘩でもしたの?」


「そうじゃないけど、なんとなく。寝る前の会話を聞いててそう思っただけ」


狐川とは中学からの付き合いだからそれなりに知っていることは多いと思う。だからこそ、先ほどの狗神に対しての態度が気にかかった。


「仲が悪いと言うよりも狐川が単純に狗神のことを嫌ってるだけ」


「狐川が?」


「狐川にとって喉から手が出るほど欲しいものを狗神は持ってる。そして、狗神はそれをいとも容易く捨てようとする。それが腹立たしくて気に入らない」


狗神が持っていて狐川が持っていないものって何だろう。逆なら妖としての力なのかもしれないがなにも思いつかない。なにしろ、俺と狗神は同じクラスにはなったことがあるものの話なんてしたことないことに等しいくらいだ。俺が考えあぐねていると。


「大神、少し外に出ない?」


***


そう言って連れてこられたのは昨日の湖の方ではなく、本殿よりも少し奥。静寂の中にあっても美しさが魅了する。


「今年はここで水嶋さんが舞う予定の神楽殿」


「神楽殿?」


「舞楽を行うための場所」


流石に夜のため明かりがないためはっきりとは見えないが一般的な一軒家ほどの大きさではないだろうか。


「去年は神月がやったんだろう」


神月は頷くだけで何も言わず、近くにあった切り株の上に座る。俺は神月の反対側空いているところに同じように腰かける。


「やっぱり、緊張とかする?」


「あんまりそういうの感じたことないな。ただ、必要性は感じないかな」


「必要性?」


「こちらが祈ったところで、神々からすれば私達なんておもちゃの一つにすぎない。どれだけの力が結束して抗おうとしても勝てるわけがない。だから必要性を感じない」


それはきっと誰よりも巫女として神様に近いからそこの考えなのだろう。一生をもってしても届かない神々の世界と、それに祈りを捧げても一瞬にして壊れる人間の世界。とてもアンバランスな世界。

神月の話を聞きふと顔を上げれば、夜空に瞬く星の数々。そこで初めてここ数日星を見ていないことに気づかされる。すると、いつものようにわかる星座を指で一つ一つ繋いでいく。


「それはなに座?」


「はくちょう座」


「夏の大三角のやつ?」


「そう。はくちょう座のデネブ、こと座のベガ、わし座のアルタイル。この三つを繋げて出来るやつ」


「他には何座があるの?」


「有名なのなら黄道十二星座のてんびん座、さそり座、いて座あと蛇使い座かな」


「本当に星が好きなんだね」


ああ、と呟きまた夜空を見上げ星に想いを馳せる。俺が見ている光は過去のものであって今の輝きは決して届かない。

過去と未来を繋ぐもの。

だからこそ、星を見ているだけで今起きていることがなんだかちっぽけに思えてくる。


***


しばらくして、神月に「そろそろ戻ろう」と声をかけられて帰宅する。お互いに居間に戻り残っていたお茶を飲み干す。


「そういえば、今年の夏祭りはどうするの?」


「夏祭りか……。月宮に一緒に行く相手がいなければ多分連れ出される」


「そっか」


使った湯呑みをシンクに置くと「あとは自分がやる」と神月が言うので、俺は神月に任せて先に寝ることにした。

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