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稲荷神社の妖達  作者: 朝凪
プロローグ
25/93

二人目の巫女

俺はあの後、狐川により無理矢理に夏祭りに使用する提灯の制作を手伝うことになった。


「……納得がいかない」


「手が止まってるけど、どうかした?」


隣で同じように作業していた狐川が話しかけてきた。だいたい諸悪の根源が自分にあることくらいわかっているだろうに。


「なんでこんなことしてるだ」


「だから何度も言っただろう。人手が足りないって、バイト代も出るんだからいいじゃん」


「問題はそこじゃない。夏休み初っ端からこんなことになるとは」


本来ならば朝日が昇るとともに寝、日がてっぺんにつく頃に起きるという生活を過ごすつもりだったのに。


「文句ばっか言ってないで手を動かせ手を」


「だいたい俺が来なきゃどうしてたんだよ」


狐川のことだから俺が断った場合のことも考えていたに違いない。案の定、答えは用意されていた様に語り出す。


「念には念を。簡単にいうと『お前の大切なものは預かった』かな」


大切なもの。俺にとって小学生も頃買ってもらった天体望遠鏡くらいしかない。しかし、狐川にはそんな話はしたことない。もっと別の何か。そう考えてもすぐ答えが浮かばずさっさと降参した。


「夏休みの宿題」


あまりにもどうでもいい答え。


「それのどこが大切なものなんだよ」


「え、大切だと思うよ。だって美術と音楽はこれで単位つくんだよ」


一応、今回は赤点というものを取っていないのにとんでもないことで留年の危機だ。


「本当、いい性格してる」


「褒めてもらえて嬉しいよ」


嫌味で言われていることをわかっているくせしてこの返答だ。俺は再び手元にある提灯制作へとりかかった。


***



あれから三時間ほどして今日分の提灯を作り終えた。すると、受け取りに来た四季から夕飯を食べていかないかと誘われた。俺は二日連続で稲荷神社で食事をすることになった。


「今日は豪華にしてみました。」


そうテーブルの上に並べられたのは寿司に唐揚げ、大学芋など昨日の比ではないほどの豪華さ。


「すごい。でもどうして?」


「大神様と白雪様それから……。」


「お、お邪魔します」


玄関先申し訳なさげにから声が聞こえた。すると、四季は待ちわびていたかのように居間を出ていった。


「誰が来たんだ?」


「ま、会えばわかるかな。」


「皆さん来ましたよ!本日のスペシャルなお客様。」


その紹介で現れたのは。


「こんばんは。お久しぶりです」


「今回はお呼ばれされました」


同じ高校に通う文学少女といった感じの三つ編みに顔の半分ほどあるのではないかという丸メガネ姿の水嶋市華。そして、水嶋さんのおっとりとした雰囲気とは真逆。目つきだけで何人をも殺してきたかのような威圧感。左耳には銀のピアス。狗神儚だった。


「今年の夏祭り、大トリで舞をさんにやっていただくのでその応援会みたいな感じです。」


「舞?」


「はい、毎年やっているんです。稲荷神社の本殿より少し奥にある『神楽殿』。そこで今年一年の豊作を願って代表の巫女が舞うんです。去年は雅様が舞われたんですよ。」


「わ、私に務まるかな?」


「四年前にもやっているんですから大丈夫です。それに私もばっちりサポートさせていただきます。」


俺は隣の狐川を突く。すると、何?とこちらに耳を傾ける。


「なんで狗神君と水嶋さんがいるんだよ。」


「なんでって、水嶋さんが市杵神社の巫女で狗神がその守護者だからな。」

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