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稲荷神社の妖達  作者: 朝凪
プロローグ
23/93

再びの出会いは穏便に

翌日、俺は再び稲荷神社へと来ていた。本来なら来る予定も来る気もなかったのだが。

昨夜眠れずにベットの上で何度か寝返りをしていると携帯が着信を知らせた。画面に映し出された名前を見て少しだけ警戒をする。


「……狐川?」


返事をする代わりに寝てたと、聞いてくる。俺はなぜ狐川が電話をわざわざして来たのかを考えながら否定の答えを言う。


「なら良かった、じゃあ明日稲荷神社へ来れないか?」


「明日?なんでまた話はあれで終わっただろう」


稲荷神社という言葉だけでも乗る気がしないというのに。


「びっくりする者に会えるはずだから」


それとも予定でもあった?と聞いてくる。正直、当分は避けていたい場所だったため乗る気がしない。が俺は狐川が吊るした『びっくりする者』という餌にまんまと乗り気がつけば二つ返事で了承した。

お社の前には数人の参拝者と巫女の姿。その中に神月や狐川がいないか探していると。


「あ、大神さん!」


名前を呼ばれて振り返ると、あの元気なことこの上ない笑顔で俺の元へと走ってくる夏麻の姿。


「もしかして、まぼろんのことでも探してますか?」


まぼろんというのは狐川まぼろのことだろう。


「ああ、でもどこに行けばいいのかわからなくて」


今思えばここに初めてきた時は、多分気を失った状態で神月に連れてこられた時だからどう行けばいいか全くわからない。


「なら案内しますよ、こっちです」


ついてきてと夏麻が歩き出す。俺も後を追うようにして夏麻の後ろをつけていく。



***



夏麻の後を追い数分。昨日見た玄関へ着き戸を開け中へ入る。すると目の前には、腰まである銀髪に透き通るのほどの白い肌。その儚げな容姿に反発するような鋭い目。そしてその身を隠すように雪のような着物。蛇はいないがまるであの夜の女性を思い出すような姿。


「あれ?もう起きても平気なんだ、白雪」


「……白雪?」


その名前があがるだけであの日のことがまるで綱引きで負けたような感じで頭の中から引っ張り出される。


「ほら、あの夜大神さんがおそ──」


「うああああああああああ」


夏麻が言い終わる前に、今までの中での最大の悲鳴をあげる。それはもう覡町全体に響き渡るほどの絶叫で。


「どうしたの!って……」


声を聴き駆けつけてくれた神月は、一目散に逃げようとする俺とそれを阻止しようと頑張って服の裾を掴んで止める夏麻。俺の声を聴き目を回してしまった白雪のカオスな状況に心配から呆れへと一瞬に変わっていた。



***



「先程は、申し訳ありませんでした」


「いえ、俺の方こそいきなり騒いでしまいすみませんでした」


あの後、今にも逃げ出そうとしていた俺を神月がなんとか説得をし落ち着きを取り戻した。そして俺の悲鳴により気を失っていた白雪が意識を取り戻すまで待ち今に至る。


「恐怖に思うのは無理もないけれど」


と明らかにビクついていた俺を見ながら奥からお茶を持って神月がフォローをする。神月は俺の隣に座ると


「改めて、こちらは白雪。それで、こっちは大神錫牙」


お互いに初めましてと頭を下げる。そして俺は白雪さんに早速話を切り出す。


「一昨日のこと……聞いてもいいですか?」


白雪さんは少し落ち込んだ様子を見せながら答えてくれた。


「はい、あの日の前日。大禍時の少し前私は街へ市華さんに頼まれて買い物に来ていました」


買い物を終え帰宅途中いつも以上に遅くなってしまったことを懸念して急ぎ足でいたという。そのためだったのか運が悪いことに履いていた草履の鼻緒が切れてしまった。その時は持ち合わせの手ぬぐいがなかったため両足の草履を脱ぎ再び走り出した。そして、俺が襲われたコンビニ近くで影法師のような黒く電柱の半分くらいの高さのある者に襲われたという。そこからの記憶は曖昧で俺を襲ったことすらも記憶にないという。

話し終えるともう一度申し訳ありませんでしたと頭を下げる。


「それは白雪のせいじゃない。元はと言えば満月前日の大禍時に白雪一人に買い物を頼むのが間違ってる」


「で、でも……」


私の力不足ですとさらに肩を落とす。


「それで、その黒いやつはなんなんだよ」


「悪霊」


もったいぶる素振りもなくあっさりと答えを提示する。


「悪霊って、憑かれると悪いことが起こるみたいなやつ?」


「その解釈でだいたい合ってる」


「そんなやつが白雪さんに憑くなんてできるのかよ」


「出来る。悪霊は人間にも妖にも憑くことがある。その中でも満月の夜、妖は妖力が最も弱く悪霊は最も強くなる」


「つまり、その隙を突かれたと」


神月は頷く。今の白雪さんの様子と一昨日の夜の様子考えてみるとなんだか合点がいく。異常じゃないほどの執着と意思。


「そういえば、あの白蛇は?姿が見えないけど」


「白蛇?」


全くピンときていない様子の白雪。


「あれは白雪同様に悪霊に取り憑かれた白蛇。妖には使い魔、今回でいうと白蛇は使えることはできなくなっているの」


「それで白蛇は?」


「既に保護して預けてある」


保護ということは白雪同様この稲荷神社にいるわけではないようだ。


「五、六匹も?」


「本体は一匹だけ。他は白雪の作り出した幻影の能力」


「まぁ、今回は白雪に大事なくて良かった」


「でもどうして。普段なら人を襲うのに妖の力を持つ大神さんが襲われたの?」


夏麻の問いに言い淀んでいると。


「あれ?大神、もう来てたんだ」


今までどこにいたのか。俺を呼び出した張本人である狐川がひょっこりと居間へ顔を出した。


「呼び出したのお前だろう」


そうだったと一瞬白雪さんを見て小さく笑う。そして、白雪さんの隣に座ると嬉しそうに。


「どう?驚いたでしょ」


「……絶叫するほどにな」


聞いてたと楽しそうに笑うのをこらえて言う。


「それより、夏麻が何故大神を襲ったのかって言ってたよね?」


「それは大神の持っている力。狼男の力の影響だから」


「俺の……影響?狼男ってまさか」


「そう、昨日狐川が妖狐であることは話したでしょ?大神は狼男の妖」


その話を聞いて特に落胆することも驚くこともなく。ただ、昨日よりもすんなりと受け入れてしまった。


「大神の狼男にどんな能力があるかはわからない。ただ、白雪や狐川はさっきも言ったように満月の夜妖力が弱くなるけれど狼男はその逆。満月に近づけば近づくほど妖力は強くなる」


「つまり?」


結論は見えているようなものなのに催促をする。


「白雪が大神を襲ったのはその妖力に惹きつけられたから」


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