人間じゃない
人間じゃない。
中学の頃から同じクラスでいつも一緒にいた狐川が。今だって俺の目の前にはなんら変わらないいつもと同じ容姿の狐川が。数時間前まで一緒の部屋で寝ていたこの男が、人間ではないというのか。
「人間じゃないって言うならなんなんだよ」
震えるていることをバレないようにこの気持ちを殺して。自分にわからせるように問うと、そうだなと一瞬神月の方を見てから。
「こっちを見せればわかるかな?」
とあたかも悩んだかの様にしてから困惑している俺に確信を得させるために。何の前振りもなくボンと煙が出たとおもったら、狐川に先程までなかった耳と尻尾が現れる。それはまるでどこかの物語に出てくるようなの姿。一般的に有名な九尾の狐の姿に似ている。
「あんまりこっちは慣れないな」
「そう?似合ってると思うけど」
「なんか複雑だな」
頰をかきながら。まるでこんなのが日常のように話が始められてもうついていけない。今起きていることを現実だと確認するように小さく自らの大腿をつねってみる。そこには当たり前のように痛みが走った。
「本当に狐川……なのか?」
「そう。これが本当の僕の姿、妖狐の姿」
「その耳も尻尾も本物?」
「触ってみる?」
ビビっている俺とは裏腹に狐川は呑気に後ろ向き尻尾をこちらに見せる。俺はおずおずと手を伸ばし触れる。そこには人肌同様に熱があり、もふもふとした感覚。しばらく触っていると他の尻尾が意思を持って動き出す。
「わっ!?これ一本ずつ動かせるのか」
「感覚も一本ずつあるから」
こうして触っていると実感してくる、これは幻などではなく本物だと。俺が手を離すと、引っかかっていることを聞くことにした。
「でも妖なら俺と同じ人間の姿なんてしてるんだ?」
「僕というよりも誰もが知っている妖。例えば、猫娘や座敷わらし。こういった類の奴らは妖力が他社に比べて強い。だから本来の姿を隠し人間の姿で生活が出来る」
「それをする必要があるのか?」
出来るとは言っても本来の姿の方がいいのだろう。
「もちろん、妖は人の思いや願いでできる。有名な奴らなら忘れられることはないけどみんながそうじゃない。思いや願いが消えてしまうと消滅してしまう妖は少なくない」
「そのために人として繋げてると?」
狐川は静かに頷く。
「なんで俺なんかにこんな話をしたんだ?」
何か意図があって狐川は俺に話したのはわかっていた。それが得なのか損なのかはともかくとして。必要なく自らの秘密を他者に喋るようなやつではないことくらい知っている。すると、沈黙を破って神月が口を開く。
「それはこれからの大神に関わるから」
「これからの俺?」
「そう、大神はさっき私に聞いたよね?『俺は人間なのか?』って」
それは一時間ほど前に俺が神月にぶつけた突拍子も確信もない。側から見ればなんて馬鹿げた質問だと思われることだろう。けれど俺は直感だけでそれを聞いた。聞いてしまった。
「その答えは『半分正解』だ」
「半分?」




