一宿一飯の恩義
朝食を作り終えた四季は夏麻と神月を呼びに行った。その間に俺と狐川、冬歩の三人で出来たばかりの食事をテーブルの上に置いていく。全て置き終わったことに四季が夏麻と神月を連れて戻ってきた。
「お疲れ様。……ってやっぱりね」
夏麻はすでに魂半抜けの状態でやってきた。
「別に悪いことはしてない」
「みーやんのやり方はスパルタだからね」
「夏麻様。こちらにお座りください」
四季は夏麻の手を引いていつもの位置まで誘導し座らせる。
「ほーら、夏麻の好きな冷や奴だよ」
そう言い冬歩は夏麻の目の前に冷や奴をチラつかせると、奪い取り「いただきます」も無しに食べ始めた。
「全く、はしたない」
「まぁまぁ。ところで片付けの具合はどうですか?」
神月は「えっと」と言いながら思い出すように話す。
「とりあえず、床が見えるようになった」
「凄い!夏麻様頑張りましたね」
それは褒めるところなのだろうか。現状態を聞いた今、俺は今日中に片付け終わらないことを確信した。
「引き続き午前中は夏麻の片付けをするが、やっぱり誰かもう一人手伝ってくれないか」
神月の問いかけに皆応答しない。当たり前といえば当たり前だ。夏休み初日に何が楽しくて他者の部屋の掃除の手伝いをしなければならないのだ。
「夏麻、私が一人で何もないまでに綺麗にされるか。もしくは、泣きついてでもいいから誰か連れてくるかどっちがいい?」
それを聞いた夏麻は、先程まで魂抜けかけだったとは思えないほど真剣な目つきで俺たちを見てきた。
「まぼろさん、朝『手伝おうか?』って聞いてくれましたよね?今こそ手伝う時ではないですか」
そして、狐川目がけてダイブする。そうして、「狐川を押し倒してみたver夏麻」が完成していた。
「あれは、一種の社交辞令だ」
「そんな社交辞令あってたまるか!それを言うならこっちは一種の人助けですよ!」
「これは自業自得だ」
狐川にバッサリと切られた夏麻はシュンっとして再び食事に戻った。さすがに見ていられなくなった神月が俺の方を見た。
「大神、一宿一飯の恩義というのを知っているか?」
「あ、ああ」
これは完璧に……。
「なら話が早い。夏麻の部屋の片付け手伝ってくれるよな?」
見たことのない笑みで俺をみる。
「ちょっと待ってくれ!こっちは無理やり泊められただけだろう!」
「何を言ってるんだ。帰宅まで徒歩で二時間以上から泊めてあげたんだ」
だからやれと言わんばかりに笑顔が増す。こんな怖いスマイルはタダでもいらない。これ以上抗議したところで無意味だろう。俺はガックリと肩を落とし小さくわかったと返事した。




